第117話「面従腹背」
窓を破って影が次々と飛び込んできた。
「何や? 猿?」
ヨドゥヤが戸惑ったように言う。ナナたちを連行しようとしている人々も困惑している。それが町にとって害であるのならば排除しなければならない。しかし、判断しかねているのだろう。猿の動きは素早い。お遣いであり自称英雄の少年を担ぎ上げると連れ去って行く。
「あかん、止めるんや」
ヨドゥヤが叫ぶ。人々は猿たちに飛び掛かっていく。しかし、猿たちは身軽にそれを躱すと、窓から去って行った。ナナたちが時間を稼いでいる間に念入りにルートを検討していたのだろう。鮮やかな手口である。
ここに猿を連れて来たのは適材適所の采配だ。ドゥーは様々な動物を使役するが、罠を仕掛けたり、何かを奪取したりする時は猿が活躍する。あの人工生物、"空"もドゥーが使役しているのだろうがなかなか使い所が無さそうだ。
「どうなっとるんや?」
ヨドゥヤが呟く。その場にいる者はナナとスー以外呆然としていた。いや、ハッサクも平然としている。先程もヨドゥヤに質問をして時間を稼いでいるようだった。もしかしてナナとスーを援護していたのだろうか。
具体的なことは分かる筈も無いが、何か勘づいていたのかもしれない。ハッサクはいやに勘が鋭い。もしかしたら特殊な能力を有しているのかもしれない。
ヨドゥヤは呆然とし続けていたようだが、周囲の人々は我に帰ったようで、――ネットワーク生物に操られているので我に帰るとは言えないかもしれないが、兎に角、ナナたちは連行されて行く。
ぞろぞろと行列は進んで行き、ナナたちは4人と1匹、全員が牢屋に押し込められた。行列を構成した一部は帰って行ったが、それでも過剰な人数がナナたちを監視している。
「煩わしいのう。ユキタに頼めば、こんな牢屋破って皆を蹴散らせるんだが、操られている者に手を出す訳にはいかんからな」
そう、現状厄介なのは無辜の人々である。彼らに手を出せば、都同士の関係が瓦解してしまう。それはやはり、避けなければならない。
「……今は静観すべきでしょう。ところで、あの猿は何だったのでしょうか」
バンカが言った。
「北からの救助じゃないか?」
ハッサクが答える。
「……あの猿、翼でもついていましたか?」
「いや、ついているようには見えなかったが」
「では、飛べると思いますか?」
「どうだろう、一見、飛びそうには見えなかったが」
「北の人工生物というのは空からやってきます」
「ああ、そうだな。会議でも確認したことだ」
「……何だったのでしょう、あの猿は?」
沈黙が訪れる。勿論、ナナもスーも答えない。




