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ナナの世界  作者: 桜田咲
第1章「天路歴程」
116/331

第116話「目論見通り」

 扉が突き破られて、人が流れ込んでくる。


「遅かったですか」


 バンカが言った。人々がナナたちを囲う。数が多い。また彼らの大半は兵士でもない一般人のようだった。一般人に手を出すのは気が引ける。そして数が多いので最低限の手出しで済ますことも出来なさそうだ。死人を出すことになる。それは面倒ごとを大きくするだけだ。


「抵抗しなければ、襲ってはこない筈や。多分、トトッリさんの所の軍師は抵抗したんやろな」


 ヨドゥヤが言う。ナナたちは降参の意を示す。そして、ナナたちは連行されていく。――ヨドゥヤとお遣いの少年以外。


「どうなっておるのかの?」


 ハッサクが尋ねる。若干、怒気を孕んでいるが口調は冷静である。


「……うちも、ネットワーク生物に支配されとるんや。つまりうちもネットワーク生物の一部なんや。自分を攻撃することはないやろ」


 ヨドゥヤはネットワーク生物に操られて、ナナたちを捕らえる為に動いた。だが、それが()()ではないだろう。


「……状況を利用しましたね?」


 ネットワーク生物は、あまり複雑な命令は出来ないのだろう。だからこそ、そもそもヨドゥヤはハシバに逆らえたのだと思われる。大まかな流れは支配できても傍流は自由なのだ。ヨドゥヤはナナたちを捕らえさせ、まんまとリモコンを手に入れることに成功した。捕らえられる時にスーの手からヨドゥヤにリモコンは渡っていた。


「誠実さは大事やな。正直に答える。先程の交渉での取り決め反故にするつもりは無かった。そちらが潔白やったらな。せやけど、つい先程、リモコンが使用された形跡が残っとった。上手く使えへんようっやたけどな。ええか、もう一度言うで。誠実さは大事や」


 つまりナナたちが不誠実であったから、ナナたちは今、捕らえられていると言いたいのだろうか。リモコンを勝手に使った、それは確かに不誠実なことかもしれない。


「うちはいわば、ネットワーク生物ハシバの良心や。その良心に基づいて行動することを規定づけられているうちは、不誠実な行いを看過することは出来へん」


「良心か。じゃあ彼らは何だ?」


 ハッサクが尋ねた。


「彼らは腕とか脚やないか、多分」


 ヨドゥヤは突然の質問に戸惑いながらも答える。


「成程、定められた指針が異なる訳だ」


「……時間稼ぎは無駄や。さっさと連行するんや」


 ヨドゥヤのやり口は鮮やかだ。ヨドゥヤは支配されている筈だ。それなのに、自身に都合の良いようにことを進めている。誠実さなどと曰わっているが、全てヨドゥヤの目論見通りなのだろう。だが、ここまではナナたちの()()()()()でもある。


 ナナとスーは時間稼ぎをしていた。英雄の少年を捕獲する、時間稼ぎをしろ、それがナナたちがドゥーから受け取ったメッセージである。それに了解の返事を送ったナナたちは了解の返事を送った。


 その後、リモコンを弄る。正確な使用方法は教わっていないので上手くはいかない。だが、それでいい。これはは言い訳として利用する。


 バンカとハッサクを先にヨドゥヤの下へ向かわせたのは不自然だった。そこで隠れてリモコンを使おうしていたという設定を作る。ヨドゥヤが使用履歴も確認出来たのは好都合だった。猿の鳴き声が聞こえた。ドゥーが使役する猿だ。時間稼ぎはもう十分だった。


 


 


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