第113話「テクノロジー」
科学と技術、それらは果たして人に栄華をもたらすのか、破滅をもたらすのか。こうした捉え方はやや大仰だが、いずれにしろ、生み出された科学技術は少なからず世に変化をもたらすことになる。
叡智の結晶である耳飾りと指輪、受信機と発信機もそんな技術の1つである。世間に広まれば否応なく社会の構造を変えてしまうであろう。大変革を予見しているからこそ、冒険者組合は新技術に対して慎重な姿勢をとっていた。
勿論、出来ることならば技術を独占し続けたいという本音もある。そして、何かとんでもない情報網を持っていると匂わせるだけで、周囲への牽制となる。
ナナとスーも基本的にそうした立場に則ってきた。隠しすぎないこと。旅の道中でも組合長への報告は続けていたので、恐らく副議長は何かしら勘づいていることだろう。そして、それが副議長の動きを抑制することに繋がっている訳だ。
しかし、そうした指針は相手が対抗する技術を持っていない場合のみ成り立つ。大都はネットワーク生物を利用した遠距離伝達技術を持つ。感覚の共有、南都の有する技術とはまた方向性が違うが、ネットワーク生物の影響範囲内である都内においてはその強みを大いに発揮する。
ナナたちはそれを予測していたからこそ、自分達が有する技術をひた隠しにした。この場合は一切を匂わせないことが重要になる。こうした事実を踏まえて、リモコンについて考えるとどうなるか。ナナは考えた。言うまでもなくリモコンは革新的な技術である。魔術の理想を体現した技術。
ヨドゥヤはリモコンの存在を秘匿しなかった。ナナたちの協力を仰ぐため、仕方のない部分もあったかもしれないが部外者に対して、少し話し過ぎな気もする。ヨドゥヤはリモコンを使えば、様々なことが出来ると語っていた。対抗する技術を持ち得ないナナたちに匂わせてきた。
少々穿ち過ぎた考えかもしれない。ヨドゥヤは一時的とはいえ、ナナたちの手にリモコンが渡ることを許容しているのだ。単純に信頼と取るべきなのかもしれない。
ナナは周囲を警戒しながら建物に入った。ヨドゥヤと取り決めした待ち合わせ場所である。よく目立つ虹色に輝く建物からほど近い場所にある建物だ。そこには先に来ていた3人とヨドゥヤがいた。
「おお、来たか。先程も言ったのだが一言文句を言わせてもらうぞ。儂が初めに来てしまったせいで、自分も協力者だと説得するのに苦労した」
ハッサクが言った。確かに、ヨドゥヤはハッサクが協力していることなど知り得なかっただろう。
「……すみません。気を巡らせるあまり、順番を間違えてしまったようですね」
「まあ、落ち着いて話を聞けば、確かに協力者と分かったからええんやけどな」
ヨドゥヤが言った。
「――せやけど、本当に間違えたんか?」
ヨドゥヤは言外に敢えてこの順番にしたのではないかと尋ねて来る。実に侮れない。ヨドゥヤを哀れな被害者と見るべきではないだろう。ヨドゥヤも歴とした曲者の1人だ。
「ええ、間違えました」
ナナは答えた。




