第112話「内心」
「……何か規則性がありそうだのう」
ハッサクが言った。
「規則性ですか?」
バンカが尋ねる。
「ほら見ろ、あの光。微妙に明暗が変化している。何かを伝達しようとしているのではないか」
目敏い。年の功というやつだろうか。
「お遣い宛のメッセージでしょうか」
スーが言った。ハッサクとバンカにはそう誤解させておいた方がいいだろう。
「そうかもの」
「しかし、北はなり振り構っていないようですね。都に対して大々的に兵器を差し向けるなんていよいよ一戦を交える気でしょうか。最早、和平を受け入れる気もないのかもしれません」
バンカが呟く。実際の所、今回の一件で北の意思を伺うことは出来ない。ただ冒険者組合の意思は伺い知ることは出来る。人工生物の鹵獲。――冒険者組合は北と本格的に対立することを厭わない、ということだ。
ナナは少なからず衝撃を受けていた。何故、そのような意思決定がなされたのだろうか。これは、組合長の決定なのだろうか。
仕方がないことかもしれないとも思う。相手が仕掛けてきたのならば当然抵抗する。都合よく降伏することは無い。北は以前から人工生物遠差し向けて、対立を煽ってきたのだ。それに反抗するのは自然なことである。今まで耐え忍んできたことの方が奇妙である。
だが、それでも尚、戦いを選択するのはきっと馬鹿らしいことだろう。ナナはそう思っていた。自分の中に存在する相反する考えにナナは蓋をする。しかし、急にここまで大胆に動いたのには何の意図があるのだろうか。
「ふむ、やはり待っているのは退屈だな。ヨドゥヤの所へ少年を連れて行かないか? そこで魔術を解除する手筈になっているのだろう」
ハッサクが言った。その通りだ。ヨドゥヤにリモコンを届け、そこで魔術を解除することになっていた。解除の方法はナナたちには知らされていないのでヨドゥヤに接触する必要がある。
リモコンを調べれば、方法が分かるかもしれないがここでヨドゥヤを裏切る必要はないだろう。対等な関係を維持すべきだ。望ましいのはリモコンを渡すのと引き換えに、お遣いの少年の身柄を南都が保護することを認めさせることだ。
「そうですね、空への対処は長引きそうです。静観より次の一手を打つべきではないでしょうか。あまり悠長にしている時間もありません」
スーが言った。
「分かりました。動きましょう」
バンカの説得に成功した。
「ヨドゥヤ様がおられる場所には分かれて向かいましょう。その方が危険を減らせる筈です」
スーが言った。
「そうですね」
時間を少しずつずらして皆が別ルートを辿っていくことになった。また、大勢の人間に追われたら堪らない。分散してその危険を減らした方がいいだろう。これは、一旦、別行動をとる為の建前だが、本心でもある。
彼らの為だ。彼らは何か生物としての制限を外されていた。自傷や呼吸困難を恐れずに立ち向かって来ていた。ネットワーク生物が脳の制御を取り払っていたのだと思われる。被害者を増やしたいとは思わない。
バンカとハッサクが出発した。
「さてと」
ナナは〈ヒダネ〉の魔術を用いてドゥーに合図を送る。こちらからは見えないが、“空”にドゥーは潜んでいる。そして、ドゥーはメッセージを受け取ったようだ。
「よし、先に私が行くね」
スーも出発する。そして少し後にナナも出発した。




