第111話「空は彼方より」
「死んでないかな?」
ナナは尋ねる。
「大丈夫だと思う。そこまで強く打ってないよ」
スーはハシバの頭を確認する。それからハシバの口元に手を翳した。
「うん、たんこぶができているね。でも呼吸もしているし平気じゃないかな?」
スーはハシバを縛ると壁にもたれかかせる。後はヨドゥヤが上手く対処してくれるだろう。今後のハシバの処遇はヨドゥヤが決定することになる。
「そうか。ここの柵を解除する方法を探して来てくれないかな」
「分かった」
スーは頷くと周囲を探索する。先程の揺れについては触れなかった。何かがぶつかった。だが、ナナたちには対処のしようがない。大都の者が何とかするだろう。むしろナナたちはその隙にことを上手く進める必要がある。
スーは目の前の部屋に入っていった。それから暫くすると柵が解除されて、スーが戻って来た。
「上手く解除されたみたいだね。行こう」
「そうだね」
集合場所に戻ると、既にバンカとハッサクが待機していた。
「おお、帰ったか。見つかったかの?」
「ええ、見つかりました」
スーは、数字の振られた丸が並ぶ板状の道具を見せる。
「それがリモコンか」
ハッサクはスーが持っているリモコンをまじまじと見る。
「ええ、魔術に番号が割り振られていて、番号を押すと魔術が発動するそうです」
スーはヨドゥヤに聞いた説明を述べた。実際はもう少し複雑で、座標の指定や既に発動している魔術に対する処理などもする必要があるらしい。
「さて、ユキタを呼ぶとするか」
「いえ、今はやめておいた方がよろしいでしょう」
ずっと口を閉じていたバンカが言った。
「先程の揺れ、我々はその原因を知っております」
「我々?」
スーが反応する。
「ええ、私たちが“空”と呼んだ人工生物、それが衝突したのです。城壁に登れば見ることが出来ます」
バンカはそう言って、自分も含めナナたちを壁の上に飛ばした。城壁の外には球状の光が幾つも存在していた。目玉の裏側だ。そして一部城壁が壊れている部分があった。しかし、意外と損壊は少ない。恐らくぶつかった瞬間に停止をしたのだろう。
「北から寄越された援護でしょうか? とは言え私が対処しますと、壁の損壊を大きくしてしまう可能性があります。今のところ、この空は停止しておりますので大都の対処が完了、或いは大都では対処出来ないと判断されるまで待機しましょう」
壁が壊れた所には人が集まって来ており、明かりが灯されているのが見える。確かに、バンカからしたら今、少年を移動させるのは得策ではなさそうだ。ユキタには潜伏を続けてもらった方がいいだろう。
「待てか。退屈だな」
ナナたちは組合長への連絡を絶っていた。そして組合長から連絡がくることも無い。何らかの事情があったのだろうと察せられるからだ。例えば、もし敵の手に耳飾りが渡っているのにそこに連絡をしてしまったら不味いことになる。だから、ナナたちからの報告が途絶えた時、組合長から連絡してくることは無い。
だから、気が付いたのは今、この瞬間である。空に埋め込まれている光球が僅かに明滅しているのに気づいた。瞬きで光を調整しているのだろうか。そして明滅には規則があった。冒険者組合エージェントが用いる暗号である。
ドゥーだ。ドゥーがこの町に来ている。




