第109話「柵越しの対話」
「……一枚岩だとは最初から思うてまへん。でも、跳ねっ返り、反目する者、それらも上手く使ってあげるのが大事だと思うてます」
ナナは黙って、ハシバの話を聞いている。聞かざるを得なかった。ナナは、先程、特に隠れることなく部屋にいたハシバを発見した。後は集合場所に戻って報告である。そう考えて、その場から離れようとした。しかし、出来なかった。
激しい閃光、目が眩み、慌てて離脱しようとするも、一手遅れた。周囲を柵で覆われている。どんなに素早く動けても出だしが遅れては意味がない。ナナは囚われた。部屋から、ハシバが出てくる。扉の隙間から覗いた時はこちらに気づいている様子は無かったが、囚われているナナを見ても驚かない。そして、滔々と語り始めたのだった。
「飴と鞭、これがやはり重要です。強制だけじゃ駄目なんや。自由に振る舞える、そう思い込ませることが大事なんや」
ハシバはにこやかに語る。
「とは言え、本当に好き勝手に動かれたら困る。せやから、こうして調節を図る。なあ、聞いてええか? 何で反抗するん? 天下統一が果たされれば、世界は平和やろうに」
「ボクは仲間の意志を尊重したまでです」
「そうか。でも、あんたが来たのは意外やったな。新都の方々辺りが来ると思っとったのに。まあ、どっちにしろ対策はしてあるから問題は無いけどな。優先順位が低いからと後回しにするのは阿呆や」
ナナはハシバの言葉を黙々と聞く。
「全く、ヨドゥヤも賭けに出るなあと思うたわ。各都市からの来訪者はそう多くない。注意は払っとるに決まっているのにな」
ハシバは一体、どこまでを把握しているのだろうか。ナナはじっと観察するが見えてこない。
「まあ、ヨドゥヤが勘違いするのも無理は無い。実際、9割の注意は新都に向けとった。新都は北と繋がっとるからな。1割が他への注意や。でもようは要領やからな。部分を押さえれば、問題あらへん」
新都と北の交流については、同盟締結の会議ではあっさりと流された。と言うより、軍事的な結びつきでは無いとして、ハシバがあっさりと流した。さして重要でもない議題として流されたのだ。南都の方はさらにあっさりで、冒険者は北との交流があるもののそれは都としての交流とは言えないとしてこちらも流された。
ハシバの話術、そして会議の終盤ということもあって、話はそれきりになったのだった。だが、重要で無い訳ではない。
「新都は北へと打ち込む杭になり得る。労力を払ってでも、自由を保障する価値はあると思うとる」
「――時間稼ぎですか? 時間停止の魔術、素晴らしい魔術ですか、発動には時間がかかるのでしょう」
ナナは長々と話すハシバに言った。会議の中盤での茶番劇、あれは準備が出来るのを待っていたのではないだろうか。そして今も話しかけてくることで時間を稼いでいる。そして何であれ、情報を引き出せるのならば、ナナは話を聞かざるを得ない。
こうすれば、ナナは無闇矢鱈と暴れることもないのでハシバからしたら都合が良い。
「……」
ハシバは答えない。
「――実の所、ボクも時間稼ぎをしていたのです」
ナナは言った。




