第108話「一方、その頃」
「ドゥー、聞こえとるか?」
「ええ、聞こえております」
冒険者組合エージェントが1人、ドゥーは組合長の問いかけに答える。指輪に向かって話しかけていた。
「――潜伏していた全てのお遣いを確保した」
「それは良かった。冒険者たちの全滅多発事件もこれで解決ですね」
ドゥーの声は煌めきが感じられる程、溌剌としている。胡散臭い。とは言え、実際、冒険者全滅が多発する謎を突き止めたのは、ドゥーなので、気分が高揚するのは当然かもしれない。だが、それとは関係なく、ドゥーはどこか胡散臭い雰囲気を拭えない男である。
「……そうはいかない。スーとナナから報告を受けている英雄と自称する存在もお遣いだろう。その上、再び、送り込まれてくる可能性もある」
「そうですか。2人には一連の話は伝えているんですか?」
「伝えていない。奴らは今、議会付の護衛だからな。大抵の場合、そちらが優先される。余計な情報は伝えるべきではない」
「組合長、情報共有しましょうよ」
「必要なことは伝えている」
「お遣いのこと、伝えていれば上手く対処してくれたかもしれないじゃないですか。俺がこっそり伝えていればよかった」
「勝手な真似は許さんぞ」
「うわ」
ドゥーは組合長に睨まれた感覚を味わった。直接対峙している訳でもないのに耳飾りから聞こえてくる音はドゥーの脳裏にありありと組合長の姿を描き出していた。
「更に言えば、副議長に何であれ勘付かせる訳にはいかなかった。いずれバレるにしてもその時期はなるべく遅くしたいと考えていた」
「まあ、それはそうですね」
「だが、もういいだろう。大都コーサカ到着以降のスーとナナから連絡が途絶えている。お前にはコーサカに行って、2人の補佐とお遣いの確保を行なってもらいたい。副議長、つまり議会側には渡すな」
「俺ですか?」
「お前が1番早いだろう」
「了解」
ドゥーは“空”の上に乗っていた。北の人工生物、ドゥーはその使役に成功していた。
「よしよし行こうか」
ドゥーは大都へと進路を向けた。そして、風のように大都へと進んでいった。
――組合長は確保されたお遣いたちと向き合う。各自、様々な能力に秀でていて、エージェントたちは捕らえるのに本当に苦労していた。とは言え、エージェントも各々、優れた才を持つ。何とか犠牲を出さずに確保出来た。
「はてさて、お前たちに聞きたいことがある」
「悪の親玉に答える言葉はない」
お遣いたちは口を揃えて言う。
「まあ、正義のつもりは無いが。だが、お前たちも同様に、絶対の正義なんて存在しないぞ」
「正義はこちらにある」
組合長は溜息をつく。自身の返答だってありきたりなのに、お遣いたちの言動は子供の遊戯より単純だ。
「もう暫く置いておこう」
「正義は屈しない」
何か宣うお遣いたちの言葉を背にしつつ、組合長はその場を後にした。後のことはドゥーからまた連絡を受けてからでもいいだろう。




