第107話「名前」
名前は事物に意味を与える。それは時として祝福であったり、願いであったりする。そして、名前は意味と切り離すことは出来ない。だから、時として名前は呪縛となり得る。
――与えられた名前はバンカという。その名が含意するものは様々であるが、1つに万火がある。万物を燃やす炎、その名はバンカの在り方を決定づけているといえる。
魔術師バンカ、強大な炎の魔術を行使する『最強』。別に炎の魔術以外を使えない訳ではないが、炎の魔術こそがバンカの得意とする魔術であり、周囲にその名を轟かせている象徴であった。
そしてバンカは今、燃えていた。最高潮に熱くなっている。これも名前が決定づけたバンカの気質だろうか。
バンカは丁寧な物言いをする。その様は落ち着きがあるように周囲には映る。しかし、バンカは決して冷静沈着な人間ではない。自身の限界を見誤り、倒れてしまうことすらある。つまり、燃え尽きる。それが名前に由来するものであるのならば、名前はやはり呪いである。
バンカは自身が熱くなっているのを自覚した。リモコンを奪い、少年にかけられた魔術を解除することで、少年との因縁を解けると思っている。これまで敗北を喫してきた。その因縁を解消出来ると思っている。
「――どうかしたのですか?」
ナナに話しかけられて、バンカは我に帰った。
「大丈夫です。少し呆けておりました」
「それでは、今後の動きを確認しましょう。私たちの動きはもう筒抜けと考えていいと思います」
スーが言った。
「だろうな」
ハッサクが相槌を打つ。
「ハシバの部屋にリモコンはある筈でした。そのようにヨドゥヤは話していました。しかし、それも怪しいものです。私だったら切り札は自身で携帯しているでしょう」
バンカはふと、ハシバの名に込められた意味は何であろうかと考える。六都同盟を主導する大都の頂点、その者の名前は一体、何を意味しているのだろう。
「ですので、ハシバに接触を図ります。そして隙を突いてリモコンを奪います。単純ですが、これが今取れる手でしょう」
「全部、作り話の可能性はないのか? まあ、どうでもいいことだがの」
「何らかの手段を有していることは確かです。ハシバが懐に手を入れて、何やらしていましたから。それを奪います」
「そうか」
それから、如何にしてハシバの隙を突くか話し合った。
「それでは奪いに行きましょうと言いたい所ですが、ハシバが今、どこにいるのか分かりません。手分けして探しましょう」
4人は分担して探索を開始する。残りの1匹、ユキノコは少年を奪い返されないように身を潜めることになる。
バンカは少年を見た。英雄、お遣い、それらも与えられた呼び名であろう。それらの名前にどんな意味があるのか、バンカは考えを巡らせた。




