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ナナの世界  作者: 桜田咲
第1章「天路歴程」
106/331

第106話「冒険こそ我らが人生だ」

「何が起こっとる」


 ハッサクが言った。


「操られているのでしょう」


 ナナは答える。虚な表情、以前見たことがある。南都での事件でネットワーク生物に操られていた人々の表情を想起させる。というよりまさしく操られているのだろう。人々がが群体となって迫ってくる。そして先頭の1人があり得ないほどの跳躍をして飛び掛かってきた。


「うお」


 ハッサクはひらりと避ける。


「逃げましょう」


 スーの声を合図にナナたちは駆け出す。老人である筈のハッサクが先頭を駆けていく。


「はあ、はあ。しつこい」


 スーが言った。人々は全力で追いかけてくる。文字通り全力である。息が切れるまで全力で疾走してくる。そしてパタリパタリと倒れていく。実に異様である。追跡の仕方としては雑だが、兎に角、物量で押し切ろうとしているようだ。


 ナナ自身は速さには自信がある。速さでは誰にも負けない。絶対に。動きは単調になってしまうが逃げるだけならば問題は無いだろう。しかし、仲間全員で逃げ切ろうとするならば、話は別である。自分だけ遁走しても意味がない。


「バンカの魔術で何とかならない?」


「実は先程から準備をしておりました。少々、調整が必要なので時間がかかりましたが。皆さん、私の近くによって下さい」


 ナナたちは走りながらバンカの周囲に集まる。


「では、発射致します」


「発射って――」


 最後まで尋ねる余裕は無かった。一瞬の浮遊感の後、ナナたちは空を飛んでいた。正確には吹き飛ばされていた。ただ先程の宣言の通り、調整したのだろう。感覚としては空を飛んでいる。


 そしてナナたちは城壁の上に着地した。壁の外側には、遥か彼方に地面が見える。


「ひゅー」


 ハッサクが呟いた。


「改めて下を見ると怖いのお」

 

 本気とも冗談ともつかない口調である。


「――原理としましては、指向性のある激しい燃焼、爆発で私たちを飛ばしました」


 バンカが説明する。


「さて、私たちは嵌められちゃったのかな。それともバレた? 作戦は失敗だね」

 

 スーは寂しそうに言う。


「それは、どうかの。目的は達成出来た」


 ユキノコが姿を現した。器用なことに背中に少年を縄で括り付けている。少年は固まったまま、不自然な姿勢である。


「あの騒動の中で!」

 

 スーは驚嘆した。


「ユキタは賢いからの」


「それはどうでしょう?」


 ナナは口を挟む。


「何だ、ユキタの活躍に水を差す気か」


「……窓が開いていたことだね」


 スーが言った。


「そう。掌で踊らされているみたいで気分が悪い」


「ここまでの選択肢は間違っていない筈ですよね?」


「ええ、少年の確保、それがより良い未来につながっている筈です」


 副議長の予言、それに沿った選択をした。そこに間違いは無いと思われる。だから、考えるべきはこの後の行動である。しかし、それがより良い結果を招くのか、蛇足となるのかは知りようが無い。


「では、最後まで踏み込んでいきましょう」


 スーは迷うことなく言った。


「ほう、イケとるな」


「……かしこまりました」


 バンカの返事に意外に思う。バンカは熱くなりやすい質なのか。でも、片鱗はあったかもしれない。バンカは少年とに因縁に拘っていた。


「うん、スー行こう」


 ナナは言った。

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