第104話「厄介な協力者」
「では、軍師様の怪我について何か心当たりはございますか?」
バンカがハッサクに尋ねる。
「分からん」
ハッサクは力強く返答する。
「そうですか。では、もうお帰り下さい。私が部屋まで送りますので」
バンカは扉の取手に手をかける。
「断る」
「何故でしょう?」
「ふむ、何となく」
何となく、もしかしてナナたちがしでかそうとしていることを感じ取ったのだろうか。会議でも何となくと口にしていた。ハッサクには野生の勘が備わっているのかもしれない。
「……夜分遅いですし、お休みになった方がよろしいですよ。私が部屋までお送り致します」
「断る」
ハッサクは繰り返す。厄介なことになった。これでは1歩も進めない。課題は幾つも積み重なっているのに手をつけることが出来ない。強制的に追い出すのも難しいだろう。立場としてもそうだし、ユキノコを飼い慣らしていることを考えればそれなりの実力者だ。無理に部屋から出そうとしても抵抗されるかもしれない。
「軍師様が目を覚ますかもしれませんよ」
横からスーが口を挟む。軍師は今ベッドで寝かせている。容態は安定していて静かに横たわっていた。寝息に合わせて腹が膨らんだり縮んだりしているのが見てとれる。
「朝まで起きそうにも無いがな。まあ奴が冷静になるまで逃げ切れれば良かったんだ。一眠りすれば冷静さも取り戻すだろう」
「では、尚更、お帰りになったらよろしいのでは?」
バンカが尋ねる。
「儂はたまたま、この部屋に逃げ込んできた。だが、今はお主らのことが気になっとる」
「何もお教えすることは出来ません。どうか、お帰り下さい」
「では、こちらが教えたら、教えてくれるか? 例えば、お主らが何をしようとしているとか」
ハッサクはじっとバンカを見つめる。
「儂はハシバが嫌いだ。知っとるか、今回の召集、お主らの方は要請だっただろうが、儂の方は半ば強制だった。実に腹立たしい」
ハッサクは飄々と語る。
「……もし、あの若造に対して一泡吹かせようというのなら協力するぞ」
見通している訳では無いと思う。カマをかけられている、そう感じた。経験則、年の功、ハッサクは老獪と呼ぶのに相応しい。
「何をおっしゃっているのか分かりませんね」
「……話しましょう」
スーが言った。
「何を言っているのですか」
バンカは少々、焦りを見せる。
「長様は良き協力者となってくれるでしょう。取れる手段は多く用意しておくべきです」
冷静に、そして大胆に、綱渡りをしなければ目標は達成できない。冒険者組合エージェントの仕事はえてしてそうである。しかし、最強と名高いとは言え、ただの冒険者であるバンカには取りづらい選択肢だろう。
「危険を増やすだけかもしれません」
「しかし利はあります」
スーはバンカを説き伏せた。
「話します。ですので協力者になって下さい」
スーは言った。




