第102話「扉を開けて」
「何で依頼を引き受けたの? 罠かもしれない。罠でなくても特に得も無いじゃないか。それどころか危険しかない」
ナナは尋ねる。
「ごめん、ナナ」
「謝って欲しい訳じゃないよ」
「……共感かな、同情かな。ヨドゥヤの気持ちは良く分かるんだ。だから協力したいと思う」
「分かった」
「そんな二つ返事で了解しないでよ」
「漠都ではボクの我儘に付き合ってもらったからね。少女を助けたいなんて自分勝手に巻き込んじゃった。だから今度はボクを巻き込んでよ」
「でも、これはそもそも任務と何にも関係ない。だから、私だけが行けばいい」
「スー、ボクを頼って。スーはボクよりお姉さんだけどさ、ボクだってスーに頼られたいと思っているんだよ」
スーは天井を仰いだ。そして、ナナに目線を戻すと、両手でナナの手を包み込む。
「ありがとう」
スーは呟いた。
「さて、行こうか」
ナナは言った。その時、また扉がノックされた。
「どうしよう、出る?」
ナナは尋ねる。
「念の為、扉から離れて待機していて」
ナナはスーの後ろ、少し距離をとって待機する。スーは扉を開けた。
「……バンカ」
「あの少年のことです。確保します。2人にも協力をお願いします」
バンカは挨拶もなく本題を切り出す。
「それはより良い選択かな?」
「ええ、見えたそうです」
すなわち副議長が少年を確保すべきと判断したということだ。スーとバンカは互いに多くを語らず意思疎通を図った。
「これも丁度いいタイミングって言うのかな」
スーはバンカを部屋に招き入れる。少し話し合う必要がありそうだった。そう思っていたら、また扉がノックされる。
「山都の長様、お一人でいらっしゃって一体、何の御用ですか?」
ハッサク、山都の長が扉の外にはいた。そして、スーが許可するまでも無く、部屋に入ってきた。ナナは身構える。
「そう身構えんでもいい。少々、面倒くさいことになっての。扉に入っていく人影が見えたもんだから、逃げ込めると思って来たんだ」
「面倒くさいこと?」
ナナは尋ねる。正直なところ、面倒くさいのはまさに今、目の前にいるこの人だろう。ナナはそう思った。
「漠都の軍師を怒らせてしまってな。ちょっとこのままでは殺しに発展しかねない」
会議でもハッサクは中々に口が悪かった。余計なことを言ってしまうハッサクは容易に想像出来る。
またまた扉がノックされた。スーは素早く扉を開ける。中があまり見えないように扉は半開きである。スーは扉の先の人物を認めるとハッサクをチラリと見る。
「何の御用でしょう、軍師様?」
ドサッという音がした。扉の向こうで何かが倒れる音がする。スーは扉を全て開こうとする。何かが引っかかって開かない。
スーは扉の隙間から外に出ると何かを扉の前から退かし、扉を開け放つ。そこには漠都トトッリの軍師がいた。当然だ。スーがそう呼んだのだからそこにいるのは当然だろう。
ただ想定外。倒れた音で嫌な予感はしていた。開け放たれた扉の先には背中から血を流した軍師が倒れていた。出血しながらも何とかここまでやって来たのだろうか。
――厄介ごとは重なるものである。扉の向こうから実に沢山の面倒が舞い込んできた。ナナは溜息を吐く。




