第10話「都議会」
ナナは、愛の園の拠点跡地から離れると立ち止まる。ナナは次なる一手を打つための方法を思案していた。敵はかなり狡猾だ。何か痕跡を残しているとは思えない。もう何一つ手掛かりは――
ナナは不意に思い出す。収納魔術で仕舞っておいたキノコ、あれが何かの手掛かりにならないだろうか。ナナはそっと手袋を外す。掌に描いた陣は若干線が滲んでいるが原型は保っていた。収納魔術を解除すると無事、掌に袋が出現する。中のキノコも無事である。相変わらず不気味に七色の光を放っていた。
匂いを少し仰ぎ嗅いでみると眩暈がするようだった。匂いだけでこうなのだから食べたらとんでもないことになる。ナナは袋を戻すと再び、掌に陣を描くと収納魔術を発動させる。このキノコの流通先を探ろう。ナナは決心する。先程はサンプルを入手するのが優先だったためスルーしてしまったが手掛かりがない以上、そこを当たるしかない。
ナナはキノコを入手した酒場に向かう。深夜、既に酒場は店仕舞いをしている。1階は店、2階は従業員の居室、ナナは酒場の構造を見て取ると2階への侵入を試みる。
壁の取っ掛かりを掴んで2階の窓まで到達したナナは窓を叩き壊すとあっさりと侵入に成功する。〈シズカ〉によって音は発生しない。
媚薬キノコをくれた男はおそらく1番立派な部屋にいることだろう。ナナは廊下の突き当たり、1番大きな部屋の扉を開く。瞬間、何かが壁から飛び出してくるのをナナは見逃さなかった。それを避けて見ると、背後に矢が突き刺さっていた。
用心深い男だ。他にも2、3罠が仕掛けてあるようだった。ナナはその罠を解除しつつ眠る男に近づくと男は突然、目を見開いた。そして枕元に置かれた剣を手に取ると身構えた。まるっきり素人の構えだが、こうしてすぐ動けるとは男は普段から、余程、気を張り巡らしているのだろう。
「……お前か」
男は剣を下ろすと降参とでも言うように両手を挙げた。
「厄介ごとは回避したつもりだったんだがな。何の用だ?」
「ごめんなさい。あなたがどうやって媚薬、件のキノコを入手したか知りたいの」
「これで最後か?」
「出来ればそうしたいと思っています」
男は溜息をついた。
「仕方ないな。これが腐れ縁にならないことを祈るよ」
男はベッドに腰掛けるとナナに横に座るように促した。
「お前も耳にしただろうがある日、俺は媚薬の噂を聞いた。俺が裏を取ろうとすると間もなく先方からの接触があった」
「先方?」
「ああ、媚薬の取引を持ちかけられたんだ。全身を覆うマントを被ったセンスのない奴だったが、媚薬の効果は本物だった。お試しのサンプルを店の娘に使わせたら蕩けていたからな」
男は何か面白い冗談でも言ったかのように笑った。
「俺は媚薬の購入を決めた。かなりの高額だったが元は取れると思ったからね。案の定、金を落としてくれる上客が集まった」
「ボクはそのような話を聞きたい訳ではありません」
「まあ、待て、話はこれからだ。俺はこの取引相手は誰なのかを探った。その結果、何と愛の園が関わっていることが分かった」
「そうですか……」
ナナは感情をなるべく表に出さないように返答する。しかし、ナナの感情を見透かすように男は言った。
「もしかして、それは知っていたか? 安心しな、もう1つ情報がある。愛の園の裏にはデカい組織がついている」
「デカい組織ですか?」
「ああ、例えば冒険者組合とかな」
「そんな訳ない」
ナナは思わず反応してしまう。
「そうか? 町の人気者も案外、裏は分からないものだよ。まあ、兎も角デカい組織がついているのは間違いないんだ。俺も相当、ツテはある方なんだが、どうやらそれよりデカい情報網を持っている奴がついているようだ」
「何を根拠にそんなことを?」
「ああ、単純に情報を探っていたら牽制されたんだよ。これ以上探るなって。そんなことを出来るのはかなり、デカい組織だと思わないか?」
「検討はついているんですか?」
「口は災いの元、余計なことは口に出来ないね。だが、冒険者組合を引き合いに出したのにはそれなりに意味がある」
「そうですか。どうも、ありがとうございました」
ナナは枕元に金貨を置くとその場を後にした。
――冒険者組合は町に生きる人の為の組織である。それと対となってよく語られる組織がある。人が生きる町のための組織、南都ナーラの政治の中枢、それを都議会と呼ぶ。
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