第1話「追放1」
――北方出身、17歳、冒険者、ナナは深く絶望していた。
「大変心苦しいがお前は追放しなければならない」
言葉とは裏腹に悪びれる様子もない。
「あなたがいなくなることで大幅な効率化が見込めるわ」
「キャハハ、追放、追放」
仲間として共に過ごしてきた3人の心無い言葉を聞きながら、ナナは絶望の渦中にいた。
「何故? 何故ボクが追放されなければならないの?」
「簡単な話だ。お前があまりにも貧弱だからだ」
「確かにボクには戦闘力がそれ程ないけど、役に立ってきたという自負はある」
「ああ、荷物持ちという点では大いに役に立っていたよ。だが……」
「ごめんなさいね、私が収納魔術を習得しましたの」
「だから、お前は追放って訳。キャハハ」
「それだけじゃないよ。ボクの補助のお陰で……」
ナナは最後まで言葉を口にすることが出来なかった。
「はっきり言おう。お前は我々と合っていないんだ」
「ごめんなさい、ボクが何かみんなを嫌な気持ちにさせていたのかな」
「いやこちらこそすまない。言い直そう。お前と我々では身の丈が合っていない」
「そうか、そうなのか。それが3人の総意なの?」
ナナは悲しそうな表情を浮かべるとポツリと呟いた。
「その通りね」
「うん、その通り! キャハハ」
「そっか、分かったよ」
「納得してくれたかい?」
「いいや、違うよ」
ナナは言った。
「どういうことだ?」
ナナは深く絶望していた。――自身に降りかかった災難に対してではない。かつての仲間たちに対してナナは同情し、絶望していた。
北方出身、17歳、冒険者、あるいは冒険者組合エージェント、ナナ。ナナはかつての仲間たちに向かって言い放った。
「あなた達の冒険者ライセンスは只今をもって失効いたしました」
「はあ、何を言って――」
「互いに命を預け合う冒険者、その為、メンバー内で足を引っ張る者がいれば追放するのは当然の権利です。ただ、正当な理由がなければ、勿論、規律違反になります」
「お前、まさか――」
ナナは淡々と言葉を続けていく。
「今回の場合、一定の役割をこなしていたボクを追放するのは不当であり、規則違反です」
「ちょっと待ちなさいよ。足を引っ張っている者がいたら追放していいって言ったじゃない。あなたは弱っちかったから追放、理に適っているでしょう」
「……『正当な理由』の解釈が難しいことは承知しております。ですが、弱いという理由で追放するのは正当とは言い難いでしょう。そうですね、正当か否かを判断する1つの根拠としては予測可能でったかどうかでしょうか。例えば、自らの実力を偽って申告していた者が仲間の命を危険に晒した場合、追放は妥当でしょう。ですが、新人という設定で加わったボクが戦闘の主力にならないのは当然でしょう。事前申告の通りです。本当に新人であったならば十分に成果を発揮できない場合もあるでしょうが、それは仲間が支えてあげるべきことです」
「キャハハ、ペラペラと煩いんだよ。黙らせてやろうか」
「いえ、あなたがお黙りください」
「?」
ナナに突っかかってきた1人は首を傾げるが言葉を発せなくなっていることに気づき驚愕の表情を浮かべる。
「今回は、新人の冒険者から不当に追放されたという報告があり、調査に入りました。仕事を終えて、帰還というゴールも見え始めた段階になって追放されたと」
ナナは寂しそうな笑顔を浮かべた。
「あなた方との冒険は楽しかったのですが、残念ながらクロだったようですね。――追放されたら分け前ももらえない。あなた方は立場の弱い新人を体よく使い潰すゲス野郎共だったようです」
「……お前は冒険者組合の人間だったのか」
「ええ。では、今後の説明をいたします。あなた方は今後、一切、冒険者組合の仕事を受けることが出来ません。組合の名簿からも削除されます。以上になります」
「待てよ」
「どうかされましたか?」
「今の話、冒険者組合に届かなければどうとでもなるんじゃないか?」
ナナは目を細める。ナナはかつての仲間の言葉の真意を見極めようとしていた。
「囲め」
ゾッとするような呟きだった。ナナは三方を囲まれる。
「逃すわけにはいかないわね」
「…! …!」
ナナは絶望する。
「みんな、ごめんね。こうなってしまったらボクはやらなければいけない」
その瞬間、3人の視界からナナは消えた。そして、視界が一回転する。否、首が回っていた。骨を折られた、そう認識する間もなく3人はその場に倒れた。
「残念ながら、殺意を持った熟練の冒険者を無傷で束縛出来る術はなかったの。ごめんなさい」
ナナは静かに手を合わせると死体を始末した。そして、行先を見やる。彼らはもう2度とこの先の町、南都ナーラに帰ることはない。
まだ、町の痕跡は見えないがもう2、3日進めば南都最大の建築物である城壁が見えてくることだろう。
「……帰還します」
ナナは呟くと歩き始めた。
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