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最終話 『大好き!お兄ちゃん☆』〔完〕



 意地っ張りで強がりで。でも本当は、怖がりで泣き虫で。不器用なくせに、すぐに無理をする。


 恋愛感情に年齢は関係ないんじゃないか、なんて。

 そんなことを考えてしまう僕の気持ちなんて、つまりは考えてみれば単純なこと。


 思わず伝えてしまった美沙への気持ち。誰かに気持ちを伝えるというのは初めての経験で。

 そのうえ、伝えようと決めていたわけでもなかったので、どうにも恰好のつかない告白になってしまった。


 けれどそのくらいがいいのかもしれない。美沙の前でなら、僕もありのままで居ていいような気がするのだ。


 辺りはそろそろ暗くなりつつある。このまま連れまわすわけにもいかないので、美沙の家まで送ることにした。

 ふたり手をつないで、並んで歩く。美沙の歩幅に合わせて、ゆっくりと。


 今夜は星は見えない。美沙が怖いというなら、ずっと電話で話していよう。


 美沙はさっきからてくてくと歩いているが、何も言わない。けれど数歩進んでは僕を見上げてくる。

 赤く染まった頬。酔っているわけではないようなので、照れているだけなんだろう。


 僕が微笑みかけてやると、美沙は赤い顔をさらに赤くして、僕からぱっと目をそむけた。


 その代わりとばかりに、つないだ手にぎゅっと力を込めてきた。

 両想いに戸惑う、純粋な美沙。こういうことをされてしまうと、愛しさが増してしまう。


 ふと隣の美沙が、何を思ったのか突然、あいている手で取り出したケータイをいじり始めた。

 僕は美沙にばれないよう、こっそりと笑う。さっきから落ち着かないのか、忙しい限りだ。


 美沙はもちろん、そんな僕の様子に気づくわけもなく、ケータイに夢中だ。


 カチカチと文字を入力したようで、すぐに終わった様子の美沙がケータイをたたんだ。

 それと同時に、僕のケータイが震えた。鳴り響くメールの着信音に、反射的にケータイを手に取る。


「あっ、まだ見ちゃだめ!」


 ケータイをチェックしようとした僕を、間髪入れず美沙が制した。

 

「今はだめ。帰ってから見てね?」


 美沙は神妙な顔をして念を押してきた。どうやらメールの送り主は美沙のようだ。

 首をかしげながらも、美沙の勢いに押され、僕は納得せざるを得なかった。けれど気になるものは気になる。


 そうこうしながら美沙のアパートにたどり着くと、美沙はつないだ手を離そうとしないまま、再び僕を見上げてきた。


「また……、会えるんだよね……?」


 美沙の口から、ためらいがちな声。泣きそうな目をしている。今までが今までだけに、不安なんだろうか。

 つないだ手を僕が放した瞬間、隠すことも忘れたのか、美沙の表情がゆらぐ。


 僕はなだめるように、離した手をそのまま美沙の頭にぽんと置いてみた。


「いつでも呼んで。どこにでも、すぐに駆けつけるから」


 僕がそう言うと、美沙の泣きそうな目が、潤んだまま、笑顔のときの楽しそうな目に変わる。


「あはは。ドラマみたいなセリフ。ヒーローみたい。じゃあ私は、ヒロイン役かなっ?」


 茶化すようなことを言っているが、美沙の表情を見てみれば、その本心がうかがえる。

 ドラマでもヒーローでもいいが、要は僕が言いたいのは、美沙のためなら何でもしてやりたいということだ。


「うん。だから今夜は、電話するよ」


 僕の言葉に、美沙が驚いたような顔をした。美沙が今夜を怖がっていることなんて、とっくにお見通しなのだ。


「……ありがとう」


 言って、美沙は今まで見せたことのないような、やわらかい笑みを僕に向けてきた。


 僕の中の、たくさんの美沙の表情は、会うたび増えていくばかりで。

 これから先もずっと、美沙のいろんな顔が見たいと思う。このまま、美沙の一番近くで。


 やっと安心したのか、美沙はここまででいいと言って、階段へと続く、少し細い通路を歩きはじめた。

 何度も何度も振り返りながら、名残惜しそうに。名残惜しいのは僕も同じだが、仕方がない。

 もう形式上では家族じゃないんだから、以前のように、僕の家に連れて帰るわけにもいかないのだ。


 美沙の後ろ姿がある程度離れて、振り向かなくなったところで、僕は言いつけを破りケータイを開いてみた。

 メールは、予想通りというかなんというか、当然のごとく美沙からだった。


『大好き!お兄ちゃん☆』


 たった一言だけのメール。相変わらず、意味もなく語尾に星がついている。

 微笑ましいのと同時に、美沙の僕の呼び方が“菅谷さん”じゃなくなっていることに安堵感を覚えた。


 今までだって家族だったとは思っているが、きっと今が初めて、本当の意味で家族になれた瞬間だ。


 美沙が階段の前に差しかかったところで、また僕を振り向いた。気づかれてしまったようだ。

 言いつけを破った僕にむっとしているのか、少しむくれている。


 何となくばつが悪いので、僕はご機嫌取りもかねて返信をしてみる。


『僕も好きだよ』


 なんとも背筋が寒くなるような文章だが仕方ない。美沙のご機嫌を直すのは至難の業なのだ。

 送信すると、一呼吸おいて美沙がケータイを取り出し、そして開いて内容をチェックした。


 かと思うと美沙は、僕に向かって全力で駆け戻ってきた。僕の目の前で立ち止まるかと思ったが、そのまま勢いは失わず。

 僕は後ろに倒れそうな衝撃を受けながらも、何とか美沙を抱きとめた。一瞬の出来事に、僕は少し面喰らう。


 でもはちきれそうな笑顔の美沙は、そんな僕にはまるでお構いなしに、そっと耳打ちしてきた。


 その内容に、思わず笑ってしまった。あまりにまっすぐな僕の妹。

 ……まったく。最初から最後まで、めちゃくちゃだ。


 だけど結局愛しい気持ちに負けてしまう僕は、美砂の顔をこっちに向けて、そして額にキスをしてみた。

 美沙はすぐに顔を真っ赤にした。さっき、耳打ちで伝えてきた大胆な言葉と矛盾している。


 ――“私の将来の夢。……また、「菅谷美沙」になりたいの”


 中学一年生にしてすでに、プロポーズ。天真爛漫な美沙に振り回される日々はまだまだ続きそうだ。

 だけど、そんな日々を愛しく思っている自分に、僕はこれまでにないほどの幸せを感じていたのだった。



  大好き!お兄ちゃん☆ おわり







完結です。半年以上続いたこの小説ですが、いかがでしたでしょうか??


前作「ひみつ」の足跡を追うように始めたこの小説ですが、前作以上に、たくさんの応援をいただけました。


更新速度が遅くても、毎回のように感想や投票や拍手をいただけて、本当に幸せでした。


下手で、特に才能もなく、目立たない作者の私なのに、毎回ものすごい人数の方に読んでいただき、、、


これが終わったら連載中のほかのを終わらせて、ネット小説の世界から姿を消そうと思っていました。


が、今はちょっとだけ迷っています。続編も書いてみたいです。


とにかく、この小説を書けて本当によかったです。全ての読者様に感謝をこめて。


ラストのBGMは、aikoの「星のない世界」でお願いします!



白雪なずな




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