第10話 笑顔の向こう側〔1〕
花火の後片付けもすっかり終えて、僕たちは3人で真央ちゃんを送るべく、彼女の家に向かった。
先輩は真央ちゃんの家に泊まるらしく、さっき先輩を送り届けたのも真央ちゃんの家だった。
結果、僕は同じ道を2往復もするはめになったのだが、それはいいとして。
辿り着いた真央ちゃんの家には、先輩がいるはずなのに電気がついていなかった。
僕と美沙を玄関に上げて、真央ちゃんは先輩が泊まるときいつも使っているという部屋を見に行った。
そして戻ってきて告げたのは、大丈夫、と一言だけだった。電気はついてなくても先輩はちゃんと部屋にいたらしい。
心が少し痛んだが、こればかりは時間が解決するほかないのかもしれない。
その微妙な空気から、さすがに僕と先輩の間に何があったかは知らないだろうが、何か察したのか。
2人の帰り道、歩幅をあわせて歩く僕に、美沙の手が僕と手をつなごうとそろそろとよってきた。
そのまま、自然と繋がれた2人の手。美沙が雲をつかむような表情で、僕を見上げる。
とても不安定で、ともすれば消えてしまいそうだと思った。
そんな顔をされると、すぐにちらつくのは、美沙の心に引っかかっている何か。
それは僕の心にも重くのしかかるようで。だけど僕はすぐに、その理由を知ることになる。それは意外なきっかけからだった。
大好き!お兄ちゃん☆ 〜第10話 笑顔の向こう側〜
長い夏休みだと思っても、それは永遠じゃなく。8月も後半に入り、次第にセミの鳴き声も少なくなりつつある。
夏の終わりが近づいていた。それでも暑さは相変わらずで、未だクーラーは必要のようだ。
美沙が食べつくしたかと思ったが、辛うじて一本残っていたアイスをほおばりつつ、僕は居間で大学の課題をこなしている。
今日は、美沙は家にいない。真央ちゃんの家に遊びに行くと言って出かけて行ったのだ。
花火をした日以来、美沙はいつもどおりに戻ってしまい、もう不安な表情を見せることはなくなっていた。
強がっているのか、無意識に隠しているのか。美沙の笑顔はそのままだ。心から嬉しそうに笑う。
だけどふとした時に表情に出る不安の影。僕だって仮にも家族で、そんなに簡単に見落としたりしない。
釈然としない気持ちもそのままに、とりあえず僕は課題を続けた。考えても仕方ないことだ。
今無理に聞き出そうとしなくても、今はお互い歩み寄ることの方が先だ。
これから先、家族として過ごしていくうちに、もっと心の距離が近くなったら、美沙の不安の原因もわかってやれるだろうと思った。
そんなことを考えた矢先だった。僕のケータイが電話の着信を伝えるべくふいに鳴り始めたのは。
ディスプレイに表示された相手の名前を見て、僕は首をかしげた。今は新婚旅行中のはずの父親からだったのだ。
通話ボタンを押し、もしもし、と僕が言うと、受話器の向こうから父さんの声が、遠慮がちに拓斗、と僕の名前を呼んだ。
あまり電話を好まない父さんがかけてくるのは、大概用事のあるときだ。僕は父さんが切り出すのを待った。
けれどらしくもなく歯切れの悪い父さんは、ためらっているのか一呼吸の間をおいて、当たり障りのない話を始めた。
『美沙ちゃんとは、上手くやれてるか?』
「うーん、どうだろう。まぁまぁってとこ。結構、家族らしくなってきたかな」
美沙の不安を消してやれるほど、兄らしくなったわけじゃないので、僕は言葉を濁しつつ笑い混じりに答えた。
とにかく、父さんの前置きに付き合うのもいいが、長電話するつもりもない。そろそろ用事が気になるところだ。
「で、どうしたの? 何か用事があって電話してきたんだろうけど」
話を打ち切るように僕がそう告げると、受話器の向こうで、父さんはなぜか一瞬ひるんだようだった。
そして観念したように溜息を吐き、やっとその用事を話し始めた。
『話があるんだ。電話口で話すのもどうかと思ったんだが……。多分……離婚になると思う』
父さんが言った、突然の言葉を頭の中で処理しきれず、僕は一瞬思考回路を止めてしまった。
完結まで突っ走ります。応援よろしくお願いします☆
明日も更新にきますので、よろしければまた、見に来てやって下さいね。




