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第1話 “無邪気”な妹〔3〕



『会ったばかりの僕を、そんなに簡単にお兄ちゃんだなんて受け入れられる?』


 初日から疑問に思っていたことを、訊いただけ。それは僕にとって何気ないことで、別に他意があったわけじゃなかった。

 

 いくら家族になったと言ったって、僕と彼女は会ったばかり。ついこの間まで赤の他人だったのだ。

 なのに、彼女には警戒心というものがまるでない。そう、初日から僕のベットにはいりこんでくるくらいだ。

 普通は知り合ったばかりの人間にそんなことをしたりしないだろう。


 僕にとっては当然の疑問で。だけど彼女は、ひどく傷ついたような目をした。

 傷ついたというか……衝撃を受けたような。しばらく黙ったのち、彼女はふと思いついたように笑顔になった。


 可愛くて、無邪気な僕の妹。だけどどこか不自然だと感じてしまうのは、僕の気のせいだろうか?




 ◇ ◇ ◇




 初夏とはいえ、もう暑い。早起きして家でやることもないので、早めにやってきた大学の空きの講義室は、クーラーが効いていて居心地がいい。


 なんとなく、しっくりこない。新しい妹ができて、単に僕も戸惑っているからかもしれないが。

 彼女は無邪気すぎる気がする。でも中学生というのは身の回りにいなくて、そもそもどんな感じが普通の妹なのかがわからない。


 時間が十二時に差し掛かったところで、腹が減ってきた。ふと、鞄の中に入っている今朝渡された弁当が目につく。

 一生懸命作ったんだろう。何となく微笑ましくて、僕は何気なく取り出した弁当の包みを解き、その蓋を開ける。


 一瞬、僕の目が点になる。そして僕は頭で考えるより先に、弁当のふたをすばやく戻した。

 いやいや、でも僕の見間違いだったかもしれない。落ち着いて、もう一度ふたを開ける。


「…………」


 これを見て、何を思えばいいのかわからない。今時こんな弁当を作る女の子がいることを知らなかった。

 おかずの方はいたって普通。彩りも気を配られていて、普通に上手い盛り付けだと思う。

 ウインナーがタコになっていたり、りんごがウサギになっていたりと可愛らしい工夫もされている。

 だが問題はご飯の方だ。ピンク色のふりかけがかかっている。……大きなハートマークの形で。


 つまりは僕は人目を気にして弁当を食べなければいけないことになった。


 けれど幸いなことに味の方は問題なかったために、腹が満たされた僕はその日の講義を寝ながらにして乗り切ることができた。

 久々に、夜七時までの講義だった。あまりに詰まった講義は睡眠学習にもならない。


 講義が終わった講義室からはちらほらと人が出ていく。その波に乗りつつふとケータイをチェックすると、メールが入っていた。

 元カノと別れてからというもの、最近僕のケータイには友達からの飲み会の誘いや遊びの誘いなんかが入るばかり。

 今回も、たいしたメールじゃないだろうと疑わなかった。


 だけどその送り主を見て、僕は眉をひそめた。強引に登録させられた、“美沙☆”というその送り主。

 初めて交わすメールなわけだが、その内容はこうだ。


 題名:兄妹デートしよう!

 本文:今日はお兄ちゃんと初デートしたいと思います☆ 駅前のオレンジの看板のカフェの前で待ち合わせ。何時まででも来てくれるまで待ってます。


 何時まででも来てくれるまで、という内容に強制的な意思を感じる。でもそれより何より、気になったのはそのメールの受信時間。

 受信時間は、17:13との表示。そして今は19:26。

 

 そういえば少し前から雨が降り出していた。待ち合わせ場所には雨よけになるような場所がない。

 まさか待ってはいないだろう。そう思うが念のため、と電話をかけてみるがつながらない。僕はらしくもなく焦り始めていた。

 急いで大学を出て、僕は指定された待ち合わせ場所に向かった。



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