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第7話 隠れた想い、隠した想い〔9〕



 にぎやかな遊園地。華やかな雰囲気。楽しそうに笑いながら過ぎていく人たち。

 そんな中、ひとり場違いな私は、ベンチに座って何をするでもなくぼんやりとしていた。


「私……何やってるんだろう」


 ぽつんとつぶやいた言葉に、もちろん返答はない。結局今の私が何を言っても、独り言に終わってしまう。

 膝の上には、自分で買ったお土産用に包装されたチョコレートの箱が5つ。


 でも、これは誰かにあげるために買ったんじゃなく。あくまで、今の自分が食べるために買ったのだ。


 可愛いキャラクターもののチョコレート。なけなしのお小遣いはなくなりかけている。

 でも何のためらいもなく、私はバリバリと可愛い包装紙を破り、箱のふたを開けて。その中から一個を取り出す。


「やけ食い……なんちゃって」


 またひとりごちて、ふふっと自分で笑ってみるけど、それはすぐにまた虚しさに変わった。


 逃げてばっかり、弱い私。結局、いつもそうだ。同じことを繰り返して。

 亜子さんみたいに、強かったらよかったのに。そしたらお兄ちゃんが好きだって、胸を張れたかもしれないのに。


 口に入れたチョコレートの苦さは、私の胸をさらに切なくさせるだけに終わった。

 そしてそれを噛んだら、中に何かとろりとしたあまり美味しくないペースト状の何かが入っていて、私は顔をしかめる。


 美味しいと思っていたはずが、全く美味しくなかったチョコレート。

 なんだかそれにまで馬鹿にされた気分で、私はせっつくようにして次々と美味しくないチョコレートを口に入れ続けた。


 そうして一心不乱に食べ続けて、5つめの箱も半分開けてしまった頃、不意にしゃっくりが出た。

 さっきまで悲壮感に埋め尽くされていたのに、今はなんだか頬も火照って、だんだんと良い気分になりつつある。


 わけもなく笑いたいような変な感覚に襲われながら、ペースを落としつつチョコレートを食べ続けていると、突然ケータイが鳴った。

 ディスプレイに表示された名前は、真央ちゃんだった。私は深く考えることなく、電話に出た。


「もしもしぃ?」

『美沙ちゃん? 今どこに居るの?』


 しゃっくりまじりで妙なテンションの私の声とは対照的に、真央ちゃんの声は切羽詰まっているみたいだった。

 私はまた深く考えず次の言葉を発する。


「今? 今ねぇ、玄関の、お土産屋さんの前のベンチ!」


 テンション変わらず、明るい声のトーンで真央ちゃんに正直に答えてみた。

 すると真央ちゃんは『わかった、すぐ近くに居るからすぐ行く!』とだけ言ってすぐに電話を切った。


 一方的に切られた電話をしばらく耳にあてたまま、ツー、ツーという音を何度か聞き。

 やっと反応した私も、ケータイを折りたたみ、またマイペースにチョコレートを食べるのを再開する。


 そして5箱目も食べ終わったとき、「美沙ちゃん!」と誰かに名前を呼ばれた。

 振り向いてみれば、そこにいたのはさっき電話した真央ちゃんで。真央ちゃんは私の前まで走ってきた。


「何してたの、心配したんだよ! 美沙ちゃんが突然いなくな――」

「真央ちゃん!」


 真央ちゃんの言葉を途中でさえぎって、私は思いっきり立ち上がり、真央ちゃんにぎゅっと抱きついた。

 自分でもよくわからない行動だったけど、とにかく誰かにくっついてじゃれたい気分だった。


 瞬間、さっきまで切迫していた真央ちゃんの表情が、きょとんとしたものに変わった。


「……どしたの美沙ちゃん」


 やや引き気味の真央ちゃんの声。でも私はさっきから堪えていた笑いこらえられなくなりつつあった。

 さっき通った通行人の人。その人はおじさんと言ってもいいくらいの年齢のくせに、猫耳をつけていたのだ。

 遊園地だからそういうのも売ってるし、別に変なことじゃないんだけど、それでもあのアンバランスさがどうしてもおかしかった。


「あはは! あのね、さっきね……、あは、あははは!」


 あまりのおかしさに笑いが止まらず、言葉がうまく出ない。代わりに、笑い過ぎたせいで涙が出てくる。

 とにかく私は抱きついた真央ちゃんの体をゆすりながら、笑い続けていた。――その時。


「……美沙!」


 聞き慣れた、丁度いい低さの心地良い声に名前を呼ばれて、私はその声のした方に目線をやった。

 走ってきたのか、息を切らして。そこにいたのはやっぱり、大好きなお兄ちゃんだった。



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