第7話 隠れた想い、隠した想い〔8〕
美沙がいない。そのことに気づいたのは、目的地の手前まで来たところで、少し休憩しようと先輩が提案した時だった。
それがはぐれてすぐだったのか、それとも時間がたってしまってのことだったのか、それすらもわからない状態で。
最新型のジェットコースターの手前のベンチを見つけて。一番に気づいたのは真央ちゃんだった。「美沙ちゃんがいない」と。
焦る気持ちを抑えつつ、僕は美沙の携帯電話に3度目のコールを鳴らす。でも何度鳴らしても全く出る気配がない。
これは多分、意図的だろう。でもこんなに広い遊園地ではぐれるなんて、あまり思わしくない事態だ。
美沙はしっかりしているようでまだ幼く、どこか抜けている。心配で仕方がなかった。
ついてきているはず、と思いこんで、美沙のことを全く注意していなかった。
そもそも今日ぼくがここに居るのは美沙のためだ。美沙が喜ばないなら意味がない。はぐれてしまうなんて尚更だ。
美沙につながらないままの携帯電話を切り、やや顔をしかめてパチンと折りたたんだ僕に、真央ちゃんが真顔で声をかけてきた。
「拓斗さん、今日の美沙ちゃん、泣きそうな目をしてたよ。美沙ちゃんのこと……、ちゃんと見てました?」
その一言は、小さな衝撃とともに、予想よりもずっと深く僕の心の奥に突き刺さった。
最近、美沙の様子はどこかおかしかった。特に今日、ここに来てからそれは更に際立っていたようにも思える。
だけど、僕は気付いていながらどこか軽視していなかったか。思春期だから、とその一言で。
その原因をつきつめてみれば、つまりは僕の中にあるんだ。
美沙のことなら、何でもわかっている気になっていた。美沙が、あまりにも素直に、ありのままに、笑顔を見せてくれたから。
だから僕は、それに安心しきってしまっていたんじゃないだろうか。美沙は僕に、心の内を全部見せてくれているんだと。
相手に全部を見せる、なんて。冷静に考えれば、そんなことはあり得るはずがないのに。
心の中で自己嫌悪していると、ふと背後から肩に手をぽん、と置かれて。
振り返ると、その手の主は、いつも通り余裕な表情の先輩だった。先輩がやんわりとほほ笑みながら口をひらく。
「拓斗、少し落ち着いたら? らしくないなぁ、そんなに慌てて」
「ああ……そうですね」
確かに、と思いつつ、僕は小さくため息をつき、そして苦笑する。
しっかり美沙のことを見れていなかった。目を離していた僕が悪い。
初めてできた妹。日に日に慣れて、戸惑いは薄れてきても、やっぱりそう簡単に上手くなんていかなくて。
僕も一応大学生だ。友達との付き合いもあるし、サークルもバイトもある。
毎日美沙にかまっていられるほどに余裕があるわけじゃなかったけど、それでも美沙のためなら時間を作ってやりたいと思った。
笑顔にしてやりたいと思っていた。
誰かのために、こんなにも何かをしてやりたい、と思ったのは初めてかもしれなかった。それほどに、美沙の笑顔は大きい。
でも僕は自分で思っていたよりも不器用で、知らず知らずのうちに美沙を傷付けていたこともあったかもしれない。
「手分けして探そう。見つけたらお互いに連絡を」
僕は先輩と真央ちゃんに向かってそう提案した。
美沙がケータイに出ない以上、そうするのが最良の選択だと思った。
連絡の取れる真央ちゃんと先輩なら、電話一本ですぐに合流できる。
真剣な目をした真央ちゃんと、やっぱり余裕を失わない先輩がそれぞれに頷いて。
そして僕たちは一旦、それぞれ別の方向を探しにかかった。
まだ、時間はたくさんある。僕と美沙は家族だから。はじめは上手くいかなくても、やり直せるはずだ。
今度はちゃんと美沙自身を、見てやれるように。
またも更新遅れて申し訳ないです。
仕事がらなかなかハードでして、最近特に、本当に忙しく……読者様を不安にさせてしまったようで、もうなんとお詫びしていいのか。
ですが間が開いても、途中で更新を止めると言うことは絶対にしないつもりですので、今後も気長に待って頂けたらと、わがままなことを思ってみたりしております。
10月になれば、更新する余裕も出てきそうです。




