第7話 隠れた想い、隠した想い〔1〕
プラネタリウムに行った日からというもの、美沙は味をしめたのか、遊びに連れてってコールは日に日に加速していた。
考えてみれば、転校して早々、夏休みに入ってしまったのだ。一緒に遊べる友達もそんなにはいないだろう。
それを思うと僕も、どうしても美沙に対して甘くなるわけで。
大好き!お兄ちゃん☆ 〜第7話 隠れた想い、隠した想い〜
「お兄ちゃん、準備できた? 私はばっちりだよ!」
今日も遠出の約束を取り付け済みな美沙は、ご機嫌な様子で弾んだ声を出した。
今日僕たちが行く予定なのは、少し遠いけれど結構有名な、プール付きの遊園地だ。
美沙が真央ちゃんも一緒がいい、と言うので、この家に集合して僕の車で行くことになっている。
待ち合わせ時間までもうすぐだ。真央ちゃんは気を遣ったのか、いとこのお姉ちゃんも一緒に連れてくるということだった。
別に僕一人でもいいが、引率は多いに越したことはない。
そのお姉ちゃんとやらとは面識はまるでないので、気乗りはしないけれど。
今目の前で嬉しそうに笑う美沙を見ていると、それも仕方ないかななんて思ってしまうのだった。
夏休みに、遊園地に遊びに連れていく。突然子持ちの父親にでもなった気分だ。
まぁそれはいいのだけれど、はしゃぎながら美沙が腕に抱えている鞄が気になった。
やっとのことで持てる、というレベルまで、ぱんぱんに膨らんでいるのだ。
遊園地に行くからと言って、普通ここまで大荷物になるだろうか。
「美沙、その鞄……何が入ってるの?」
恐る恐る、僕は訊ねてみる。すると美沙がにこりとさわやかに笑って説明を始めてくれた。
「えっとね、おサイフとケータイと、水着とタオルと浮き輪でしょ。あとマンガと、懐中電灯!」
浮き輪は向こうで脹らませるんだよ、なんて嬉しそうに言っている美沙の声を聞きながら。
教えられた鞄の内容物を、僕はひとつひとつ、ゆっくり飲み込んでみる。
サイフとケータイは必要だ。水着とタオルと浮き輪も、プールで泳ぐつもりなら必要になってくる。
その後の2つが難しい。マンガは、車での移動時間にでも読むつもりなのだろうか。
……ただ、懐中電灯がさっぱりわからない。
「……どうして懐中電灯なの?」
理解に苦しんだ末、わからないと観念した僕はまた美沙に恐る恐る尋ねてみた。
すると美沙は、またも笑顔でとんでもないことを言い出した。
「お化け屋敷で使ったら、怖くないかなって!」
……本当にこの子は、中学生なのだろうか。普段は大人びているくせに、こういう時には疑問に思わせられる。
そんなものを使ったら営業妨害になりかねない。それに懐中電灯は結構な大型で、それが美沙の鞄を膨らませていたようで。
大荷物を持って遊園地に行くなんて、無理のある話だ。
「うーん……それはお化け屋敷では使えないから、置いていこうね」
なんとかやわらかい言葉を選びつつ、僕は美沙が懐中電灯を持っていくのを止めてみる。
すると美沙ががっかりした顔でうなだれつつ言った。
「……やっぱりダメかな?」
「ダメだろうね」
僕にダメ出しをされ、美沙はしぶしぶと言った様子に、鞄から懐中電灯を出した。本気で使えると思っていたのだろうか。
そんなに怖いなら、初めからお化け屋敷なんて入らないことにすればいいのに。
美沙はどこか天然ボケが入っていると思うのは、僕だけじゃないはずだ。
その時玄関のチャイムが鳴り、美沙がはじかれたようにばっと顔を上げた。
「真央ちゃんだ!」
言うが早いか、美沙は玄関に向かって全力疾走していく。さっきまでのうなだれた様子はどこへやら。
プラネタリウムに連れて行ってから、二人はより仲良くなったようで、僕も一安心だった。
「真央ちゃん、待ってた……よ――」
玄関のドアを開ける音と、美沙の声がかぶり。けれど美沙の言葉は、途中で力をなくして切れた。
まるで、何かに驚いたような。怪訝に思いながらも、僕も顔を出して玄関をのぞいてみる。
するとそこには、真央ちゃんと、――もうひとり予想外の人物がいた。
「先輩……?」
「久しぶり、拓斗」
伊藤先輩は、呆然とした僕を見て、にこりと笑って言った。
夏休みに入ってからというもの、僕も美沙にかまけてばかりで。
サークルには顔をだしていなかったから、以前ほど顔を合わせることもなくなっていた。久々と言えば久々だ。
美沙にとっても多分、夏祭りの夜会って以来だろう。先輩に会うなり、逃げ出した美沙。
僕にとっては苦手なタイプで、美沙にとってもきっとそうだろうと思う。真央ちゃんのいとこだったなんて思ってもみなかった。
楽しくなるはずの遠出だったけれど、こんな展開になるなんて。波乱の、予感がした。




