第6話 うそつきのホンネ〔5〕
突然の、私の言葉。お兄ちゃんは少し考えるような顔をした後、困ったように小さく笑った。
「美沙はいつも、難しいことを聞くね」
そうだなぁ、なんて言いながら、お兄ちゃんが私の左隣に座った。
同じベンチに並んで座ったお兄ちゃんと私の間に、少しだけの距離感。それがもどかしいようで、でもとても優しい。
答えを待って、私はお兄ちゃんの横顔を見る。すると、お兄ちゃんがゆっくりと口をひらいた。
「それは誰かに教えられることじゃなくて、自分で見つけることだよ。美沙にも、すぐにわかる」
お兄ちゃんの答えは、私の期待してたようなものじゃなかったけど、でも思ってた通りで。
わかりきってるから、誰かに答えを求めてた。逃げるのをやめて向き合おうとしたって、そう簡単に強くなれるわけじゃない。
自分自身で認めてしまうより、誰かの確かな言葉で、気付かせてもらった方が楽だから。
でも、そうなんだ。結局は自分の中にあって。心の奥でひそかに息づいてるから。
ずっと生まれ続けてる、どうしようもない、こんな気持ち。
頬を伝っていく涙のあたたかさと、さっき目の前で流れて消えた、ちっぽけな架空の星と。
“――流れ星に、何をお願いするの?”
真央ちゃんの声が、私の心にこだました。今、私の願い事はたったひとつ。
さみしい夜、空を見上げて、一番星を見つけたときの気持ちみたいに。涙がこみ上げて、でもあったかくて。
夜が明けて、消えてしまうのが怖いの。消えてしまうことを知ってても、消えないでほしいって。
幸せと、恐れと。心の中、同時に存在してて。
わがままにもなって。臆病にもなって。泣き虫にもなって。強がりも通せなくて。
――わかっちゃった。わかりたくなかったのに。怖かったのに。でももう、嘘はつけない。ごまかせない。
無造作にベンチの上に置いてある、左隣のお兄ちゃんの、大きな手のひらを思わず握って。
こみあげてくる感情に、指先が、震えた。
「大丈夫だよ。ちゃんと……できるよね?」
「……うん」
お兄ちゃんの言葉に、私はすごく素直な気持ちで頷いた。お兄ちゃんが言ってるのは、きちんと、真央ちゃんに謝ること。
そのまま立ち上がったお兄ちゃんに手をひかれ、引っ張られるようにして、私も少し遅れて立ち上がる。
離れていったお兄ちゃんの手。それはあくまで自然な仕草だったけど、さみしく感じた。
「……ありがとう、お兄ちゃん」
ドームに戻る道を歩きながら、歩幅を合わせて一緒に歩いてくれるお兄ちゃんに、そう言ってみた。
少し照れくさかったけど伝えた、心からの言葉。優しさをくれてありがとう。お兄ちゃんでいてくれて、ありがとう。
そんな私に、お兄ちゃんがまた、微笑みを返してくれる。
「いいよ、ありがとうなんて言わなくて。家族なんだから。美沙が悲しい顔をしないでいてくれればそれで」
お兄ちゃんのその言葉は、私の心を嬉しくすると同時に、切なくさせた。
家族として大切。家族以上に、大切。私の心の奥、もうひとつ残ってた、感謝の気持ち。
こんな感情を教えてくれて、ありがとう、って。




