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第1話 “無邪気”な妹〔1〕



『はじめまして。僕、拓斗っていうんだ。よろしくね』


 そう言って手を差し出した時、彼女は少し、不安げな色を瞳に揺らした。けど、それは一瞬のことで。

 ああ、ただの見間違えか、と思った。


『美沙です。よろしくね、お兄ちゃん』


 彼女は僕の手をきゅっと握り、無邪気で可愛らしい笑顔を浮かべた。大人びた顔つきでも、やっぱりまだ中学生。

 一人っ子だった僕にとって、兄妹ができるのは嬉しくもあって。大切にしてやりたい、と思った。



  大好き!お兄ちゃん☆ 〜第1話 “無邪気”な妹〜



 僕は昔から、この中性的な顔立ちのせいか、単に偶然かはわからないけれど、年上と付き合うことが多かった。

 だから年下の扱い方なんて、正直全くわからないわけで。日々、戸惑うことばかりだ。


 ◇ ◇ ◇


 しゃっとカーテンが開けられる音とともに、朝日が、瞼の向こう側から僕の寝ぼけた頭を刺激してくる。

 今日の講義は午後からだ。セットしていた目覚ましが鳴らないところを見ると、まだ寝ていられる時間のはず。


 うーんと唸りながら布団をかぶりなおす。すると勢いよくその布団もはがれてしまった。


「おはよ、お兄ちゃん! 朝だよ!」


 薄く目を開けると、そこには、初日から僕のベットに入り込むという無茶をしでかしてくれた、彼女。

 ああ、そうか。彼女との生活が始まって、まだほんの数日。

 夢から戻ってきた瞬間、改めてこの現状を理解する。そんな朝も数回目。


 彼女の少し鼻にかかったようなハスキーボイスをやっと聞き慣れてきた。

 綺麗めな顔立ちに、でも少しあどけなさの残ったまるい頬を緩ませ、彼女は何が嬉しいのかにこにことほほ笑んでいる。

 けれど、微笑み返す余裕もなく、僕のまぶたは自然に落ちていく。

 意識の消えるか消えないかすれすれのところで、僕はかろうじて声を絞り出した。


「もう少し、寝かせてくれないかな……」

「ダメ! 私だって学校に行くんだから、お兄ちゃんだけずるいでしょ!」


 小中学生特有の、わけのわからない強引な理論。

 見事に僕にダメ出しをした彼女は、何を思ったのかがばっといきなり僕に抱きついてきた。


「うわっ!?」


 寝ぼけていたのと驚いたのとで、僕の喉から格好のつかない声が出てきた。

 けれど彼女の方はというとマイペースなもので、ぐいぐいと精一杯の力で僕を抱き起そうとしている。


「起きろ〜! 寝坊ばっかりしてると、モテないよ!」


 そんな話、聞いたこともない。僕もモテないというわけではないので、そこは余計なお世話だったが、このままの状況で寝ていられるほど僕の神経は太くない。

 他人が見ればベットの上で抱き合っているようにしか見えないような状態だ。

 彼女はムキになってしまっていて、僕が起きなければ納得しそうになかった。


 中学生と抱き合ったからといって別段何もないはずだが、初日の、同じベットの中での記憶がどうしても邪魔をする。

 とにかく相手が中学生だからこそ、モラル云々という話だ。何度も言うようだが、僕には断じてそのはない。


「わ、わかった。起きるから」


 観念した僕に、やっと彼女は僕の背中にまわしていた腕を解いた。僕は安堵のため息をつく。

 おかげで、と言っていいのかわからないが、すっかり目も覚めてしまった。



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