第4話 コドモと大人の境界線〔4〕
はじめて口にした、ビール、っていうのは、とても美味しいなんて言えるものじゃなかった。とにかく苦い。
テレビの宣伝とかで、おいしそうに飲んでるのが信じられなくなる。
でも、その苦いビールの味にまで、子供だって馬鹿にされてるみたいで。
悔しくなった私は、それを無理矢理のどに流し込む。
少しずつ、頬が火照ってきていた。手の中のビールの缶を見つめながら、どうでもいいことを考えてみる。
冷蔵庫に入ってたけど、これって、お兄ちゃんのパパのビールだったのかな。
そう思って、ふと気付く。お兄ちゃんのパパ、じゃなくて。
ちらっと会っただけの、今はママと旅行中のあの人は、私のパパでもあるんだって。
でも家族って実感がない。この家に来てから、私の新しい家族は、ひたすらお兄ちゃんで。
そうやってお兄ちゃんのことを考えた瞬間、なんだか急に感情が高ぶっていくのを感じた。
ワガママを言った自分を再認識して。自己嫌悪と共に、涙が込み上げる。
なんだかいつもより、気持ちの振り幅が大きくなってしまっているみたいだ。
「お酒を飲めば忘れられるって、そんなの全然嘘なんじゃない……」
ひとり呟いて、私は涙をこらえつつ、ふっと笑う。投げやりな笑い。
お兄ちゃんの、私に対する『子供扱い』な所、まるでママみたいだ。そう考えてすぐ、違和感を感じる。
ママみたい、ってところに引っかかりを感じた。だってお兄ちゃんは、ママとは違ってなかった?
ママは、私を話にも入れてくれなかった。子供だからわからないって決めつけて。
でも、お兄ちゃんの態度はどうだったんだろう。
――……子供扱いじゃ、なかったんじゃないの?
だってちゃんと私を見てくれた。厳しいことを言ったのも、私と向き合おうとしてくれてたから……?
「何、飲んでるの。ちょっと目を離したすきに……」
急に背後から声が飛んできて、驚いた私はビールの缶を取り落としそうになりながらも、居間の入口を振り向いた。
腕組みをして壁に寄りかかり、私を見守ってるお兄ちゃん。
ワガママな子供だって、軽蔑されるかもしれないと思ってた。ウザったいって、嫌われるかもしれないと思ってた。
なのに、お兄ちゃんの瞳の色は、いつも通りに優しかった。
ほっとすると同時に、涙がこぼれて。そしてしゃっくりがでた。
それがまるで、テレビの中の酔っ払いみたいで。そんな自分がおかしくなって、私は笑った。
すごくいい気分。でも、お兄ちゃんを見てると胸が切ない。
――なんだろう、これ。お酒を飲むと、こんな気持ちになるのかな。
それは思った以上に、私の心を戸惑わせるような、ひたすらに甘い切なさだった。




