表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/89

第4話 コドモと大人の境界線〔4〕



 はじめて口にした、ビール、っていうのは、とても美味しいなんて言えるものじゃなかった。とにかく苦い。


 テレビの宣伝とかで、おいしそうに飲んでるのが信じられなくなる。

 でも、その苦いビールの味にまで、子供だって馬鹿にされてるみたいで。


 悔しくなった私は、それを無理矢理のどに流し込む。

 少しずつ、頬が火照ってきていた。手の中のビールの缶を見つめながら、どうでもいいことを考えてみる。

 冷蔵庫に入ってたけど、これって、お兄ちゃんのパパのビールだったのかな。


 そう思って、ふと気付く。お兄ちゃんのパパ、じゃなくて。

 ちらっと会っただけの、今はママと旅行中のあの人は、私のパパでもあるんだって。


 でも家族って実感がない。この家に来てから、私の新しい家族は、ひたすらお兄ちゃんで。


 そうやってお兄ちゃんのことを考えた瞬間、なんだか急に感情が高ぶっていくのを感じた。

 ワガママを言った自分を再認識して。自己嫌悪と共に、涙が込み上げる。

 なんだかいつもより、気持ちの振り幅が大きくなってしまっているみたいだ。


「お酒を飲めば忘れられるって、そんなの全然嘘なんじゃない……」


 ひとり呟いて、私は涙をこらえつつ、ふっと笑う。投げやりな笑い。


 お兄ちゃんの、私に対する『子供扱い』な所、まるでママみたいだ。そう考えてすぐ、違和感を感じる。

 ママみたい、ってところに引っかかりを感じた。だってお兄ちゃんは、ママとは違ってなかった?


 ママは、私を話にも入れてくれなかった。子供だからわからないって決めつけて。

 でも、お兄ちゃんの態度はどうだったんだろう。


 ――……子供扱いじゃ、なかったんじゃないの?

 だってちゃんと私を見てくれた。厳しいことを言ったのも、私と向き合おうとしてくれてたから……?


「何、飲んでるの。ちょっと目を離したすきに……」


 急に背後から声が飛んできて、驚いた私はビールの缶を取り落としそうになりながらも、居間の入口を振り向いた。

 腕組みをして壁に寄りかかり、私を見守ってるお兄ちゃん。


 ワガママな子供だって、軽蔑されるかもしれないと思ってた。ウザったいって、嫌われるかもしれないと思ってた。

 なのに、お兄ちゃんの瞳の色は、いつも通りに優しかった。


 ほっとすると同時に、涙がこぼれて。そしてしゃっくりがでた。

 それがまるで、テレビの中の酔っ払いみたいで。そんな自分がおかしくなって、私は笑った。

 すごくいい気分。でも、お兄ちゃんを見てると胸が切ない。


 ――なんだろう、これ。お酒を飲むと、こんな気持ちになるのかな。

 それは思った以上に、私の心を戸惑わせるような、ひたすらに甘い切なさだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ