表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/89

第3話 晴れのち妹、時々雨〔3〕



 私の嫌な予感は、半分当たったようで、半分当たってなかった。


 ママからの着信。家族を失った時の、小さな過去の傷。また離婚することにした、なんて言われたらどうしよう。

 そう思うと怖くて、どうしても電話をかけ直すことができなくて。


 ずるずるとそのままに、学校から家にたどり着いてしまった。

 部屋のベットに転がり、ケータイをにぎったまま、かけ直すか考え込む。

 そうしていると、急に手の中でケータイが震えだした。


 驚いたあまり、私はびくりと肩を震わせる。

 それは、メールだった。差出人はやっぱりママ。宣告でも受けるような気持ちで、私は恐る恐るメール本文を開く。

 だけどそこにあったのは拍子抜けするような内容だった。


『今日、拓斗くん誕生日らしいから。お祝いしてあげてね』と、題名なしの、本文もそのたった一行。


「なんだ……」


 思わずひとり呟く。そして自分に笑った。私、ひとりで勘違いして、すごく緊張してたみたいだ。

 第一ママの離婚なんて、慣れてたはずなのに。何動揺してたんだろう。

 だけど思った以上に不安だったらしい私の心は、離婚じゃなかったことになんだか安心して緩んでて。

 その勢いで、私はとても勇気のいるはずのことを、簡単にやってのけてしまった。


『新しいパパとは、上手くいきそう?』


 得意の早打ちで、すぐにママに返信する。だけど返信が完了して我に帰る。

 軽い気持ちで簡単に聞いたけど、私、これがどんなに重い意味を持つか自分でわかってた?

 もし上手く行きそうにない、なんて言われたら。


 ――怖い。なにこれ、これじゃさっきと同じ状況だ。


 しばらく何もできず、じっとママの返信を待つ。ママはメールの返信は早いはず。

 でも10分たっても、30分たっても、ママからの返信はない。大嫌いな、メールを待ってるこの時間。

 新着メール問い合わせの回数だけが増えていく。


 やがて一時間を過ぎたところで、私はどん底まで沈んでいく自分を感じていた。

 どんな時でもメールの返信は欠かさないママ。それなのに、返信しないってことは……。


 だめだ、と思った私は、とっさに考えることをずらした。

 いつものくせ。辛い時には楽しいことを考えること。――そうだ、お兄ちゃんの誕生日。


 思い立った私は、お兄ちゃんに『お祝いしよう』とメールする。

 お兄ちゃんからはすぐに『わかった』と返事が返ってきた。男の人らしい、淡白で短いメール文章。

 でももう少し、絵文字とか顔文字とか使ってほしいのにな。


 なんだかすっかり楽しい気分になった私は、そのまま夕方の街に買い物に出かける。

 そして買ってきた材料で、はりきって大きなケーキを作った。昔から料理は得意。いつもどおり、かなり上手くできた。

 ケーキにさしたロウソクは、20本。ハタチだなんて、なんだか大人の響き。


 テーブルの上にクラッカーをならべた私は、椅子に座ってお兄ちゃんの帰りを待つ。

 お兄ちゃん、きっと喜んでくれる。そう思うだけで、私の方が嬉しくなっていた。






美沙と拓斗の名前は、前作をもじってます。


美香→美沙、達也→拓斗。エピソードも所々かぶらせてます。※話は全く無関係です。


次話も、美沙視点です。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ