第3話 晴れのち妹、時々雨〔3〕
私の嫌な予感は、半分当たったようで、半分当たってなかった。
ママからの着信。家族を失った時の、小さな過去の傷。また離婚することにした、なんて言われたらどうしよう。
そう思うと怖くて、どうしても電話をかけ直すことができなくて。
ずるずるとそのままに、学校から家にたどり着いてしまった。
部屋のベットに転がり、ケータイをにぎったまま、かけ直すか考え込む。
そうしていると、急に手の中でケータイが震えだした。
驚いたあまり、私はびくりと肩を震わせる。
それは、メールだった。差出人はやっぱりママ。宣告でも受けるような気持ちで、私は恐る恐るメール本文を開く。
だけどそこにあったのは拍子抜けするような内容だった。
『今日、拓斗くん誕生日らしいから。お祝いしてあげてね』と、題名なしの、本文もそのたった一行。
「なんだ……」
思わずひとり呟く。そして自分に笑った。私、ひとりで勘違いして、すごく緊張してたみたいだ。
第一ママの離婚なんて、慣れてたはずなのに。何動揺してたんだろう。
だけど思った以上に不安だったらしい私の心は、離婚じゃなかったことになんだか安心して緩んでて。
その勢いで、私はとても勇気のいるはずのことを、簡単にやってのけてしまった。
『新しいパパとは、上手くいきそう?』
得意の早打ちで、すぐにママに返信する。だけど返信が完了して我に帰る。
軽い気持ちで簡単に聞いたけど、私、これがどんなに重い意味を持つか自分でわかってた?
もし上手く行きそうにない、なんて言われたら。
――怖い。なにこれ、これじゃさっきと同じ状況だ。
しばらく何もできず、じっとママの返信を待つ。ママはメールの返信は早いはず。
でも10分たっても、30分たっても、ママからの返信はない。大嫌いな、メールを待ってるこの時間。
新着メール問い合わせの回数だけが増えていく。
やがて一時間を過ぎたところで、私はどん底まで沈んでいく自分を感じていた。
どんな時でもメールの返信は欠かさないママ。それなのに、返信しないってことは……。
だめだ、と思った私は、とっさに考えることをずらした。
いつものくせ。辛い時には楽しいことを考えること。――そうだ、お兄ちゃんの誕生日。
思い立った私は、お兄ちゃんに『お祝いしよう』とメールする。
お兄ちゃんからはすぐに『わかった』と返事が返ってきた。男の人らしい、淡白で短いメール文章。
でももう少し、絵文字とか顔文字とか使ってほしいのにな。
なんだかすっかり楽しい気分になった私は、そのまま夕方の街に買い物に出かける。
そして買ってきた材料で、はりきって大きなケーキを作った。昔から料理は得意。いつもどおり、かなり上手くできた。
ケーキにさしたロウソクは、20本。ハタチだなんて、なんだか大人の響き。
テーブルの上にクラッカーをならべた私は、椅子に座ってお兄ちゃんの帰りを待つ。
お兄ちゃん、きっと喜んでくれる。そう思うだけで、私の方が嬉しくなっていた。
美沙と拓斗の名前は、前作をもじってます。
美香→美沙、達也→拓斗。エピソードも所々かぶらせてます。※話は全く無関係です。
次話も、美沙視点です。




