チーターか、超絶技巧か?
「こいつら、また“シンクロショット”をきめやがった!」
敦君がそう驚きの声を上げる。僕も驚き思わず唖然となってしまった。大ダメージ。これで敦君のライフはゼロになってしまった。ロスとなって、もう復活はできない。僕一人で、相手はまだ二人とも十分にライフが残っている。2対1じゃ、勝負は既に見えていた。諦めずにプレイしたけど、華麗な逆転劇など見せられず、やっぱり僕らのチームは敗けてしまった。
……僕らがプレイしていたのは“グレイトショット”という名の一人称視点でのシューティングゲームで、オンライン上での協力プレイも可能だった。僕と友達の敦君は、最近このゲームに嵌っていて、自分達で言うのもなんだけど、それなりに強くて、ランキングを良いペースで上げている。
ただ、チーム名“スクナ”というコンビにはよく敗ける。彼らは通常のプレイは上級者の中では並かそれ以下なのだけど、“シンクロショット”の成功率が異様に高くて、それが強みになっている。
“シンクロショット”
このゲームでは、ほぼ同じタイミングで同じターゲットに弾丸を当てるとクリティカルボーナスが加わり、大ダメージを相手に与える事ができるのだ。ただ、タイミングはかなりシビアで、少しでもずれると成立しない。だから狙ってやるのはほぼ不可能だと言われている。が、しかし、スクナはそれが妙に得意で、よく成功させるのだ。コンビプレイには定評のある二人だけど、それにしても成功率が高過ぎた。
それで、プレイヤー達の中でもよく話題になっているのだ。
どうやれば狙ってできるのか? 裏技があるのじゃないか?
「実は一人で二人分プレイしているからほぼ同時にショットできるのじゃないか?」とか冗談で言う人もいたけど、もし本当にそうならその方が凄い。
「俺は絶対にチートだと思うけどな」
学校の教室で、敦君がそう言った。昨日、スクナに敗けたのがよほど悔しかったらしい。スクナのチートを疑っているのは敦君だけじゃなく、他にもたくさんいて、その所為で彼らはよく叩かれてもいた。
でも、僕は違うと思っている。彼らはシンクロショット以外のプレイは普通なのだ。ズルをやっているようには思えない。だから、
「でも、チートだとしたって、どうすればそんな事ができるの?」
そう疑問を投げかけてみた。大した証拠もなく疑うのはあまり良くない。
彼は少し考えると、
「片方がAIで、人間の方に反応して撃ってるとか」
なんて言って来た。
「それならシンクロショット以外のプレイも巧くなきゃおかしくない? 基本的な実力は二人とも並なんだし。シンクロショットだけチートを使う理由が分からないよ」
「じゃ、あれだ。きっと脳と脳を直接ネットで繋げて、タイミングを合わせているんだよ」
僕はそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「なに、そのオーバーテクノロジー?」
そんな技術を利用しているのなら、むしろ称賛したい。それから少し考えると、僕は彼にこう提案してみた。
「それならさ、僕らでスクナと似たような事ができないか検証してみない?」
「“検証”って、どうやるんだよ?」
「オフラインでタッグプレイしてさ、合図を送って同時に撃ってみるんだよ」
面白いと思ったのか、「なるほどな。やってみるか」と、それに敦君は頷いた。
もしかしたら、スクナは同じ部屋で協力プレイをしているのかもしれない。ディスプレイとゲーム機がそれぞれ二台あれば実現できる。もしそうなら、不正チートではない事になる。だから僕は検証をしてみる事を提案したのだ。
ところがだ。
「ダメだね、これ。難しい」
それでもやはりあまり上手くいかなかったのだ。成功率は多少は上がったけど、スクナには遠く及ばない。
原因は“距離”だった。タイミングは合図を送れば揃える事ができたけど、距離も大体同じじゃなければ着弾のタイミングがずれてしまうのだ。視界を共有でもできない限り、スクナ達ほどの成功率は出せそうにはなかった。
「こりゃ、いよいよチートを疑うしかないぞ」
結果として、敦君はスクナのチート行為に確信を持ってしまったようだった。それで彼はこの検証結果を嬉々としてネット上に書き込んだのだ。彼の疑いを晴らしたくて提案した検証なのに逆効果になってしまった。
彼の書き込みは大きな反響を呼び、ゲームコミュニティ内でスクナに対する疑惑の声が大きくなっていった。きっと敦君はそれで彼らがチートを白状すると思っていたに違いない。けど、そうはならなかったのだった。
……その声に堪えかねたのだろう。スクナはSNS上でこう発表したのだ。
「分かりました。シンクロショットの秘密を公開します」
その発言には、彼らの写真が添えられてあって、そして、それで一目で僕らは彼らのシンクロショットの秘密を悟ったのだった。彼らの頭は物理的に結合していたのだ。
――つまり、彼らは“結合双生児”だったのである。
その写真で批判者達は一斉に黙った。
彼らはコメントを続けた。
「僕らの境遇を意識せずに、皆にフェアにプレイして欲しかったので、今まで公開はして来ませんでした。決して、騙すつもりではなかったのです。
もしかしたら、これを見て、僕らが有利な立場でゲームをプレイしていると思う人もいるかもしれませんが、体が繋がっているからこそ不利な面もあるんです。僕らはそれを努力で克服して来ました。ですから、どうか、これも才能の一つとして認めて欲しいのです。
そしれ、できれば、ネット上で対戦する事があったなら、今までと同じ様にフェアに全力でプレイして欲しいとも思っています。これは僕らにとってハンデではないのですから」
その次の日、学校で会った敦君はもう彼らに対して怒ってはいなかった。ただ、その代わり、「今度、対戦したら、絶対に勝ってやろうぜ」と言って笑っていた。




