奴隷少女と冷酷魔王の甘美な絆③
執務室で調べ物をしていた魔王ベレス、廊下でデルと目も合わせなかった魔王ベレス。
その間もあの人は、あの人は……。
「まあ、その呪いの在り処もヤツにはわかるまい。あれは発動すると少しずつ大きくなっていく。愛に応じて大きくなる。ヤツがお前を大切に育てていたのは知っている。すべてを見通す水晶があるのでな。それにしても偶然とはいえ皮肉なものよ。地獄の大王と呼ばれる魔王ベレス。その彼がまさにその地獄の苦しみを味わい続けている」
「アポロン……。あなたがたという神たちは……」
「そして今しがた、お前にも呪いを埋め込んだ」
「……!?」
アッハッハッハとアポロンはいかにもおかしそうに笑う。
「ああ、そうさ。これさ。この魔界の種をお前に埋め込んだ」
「……!?」
「アルラウネ。聞いたことぐらいあるだろう」
アルラウネ。そう。根の部分が人間の形をした植物型の魔界の化け物だ。
「しかもこいつは特注品でな。埋め込んで、僕が指を鳴らせばすぐに発芽し、その生贄を養分として美しい花を咲かせる。なあに。死ぬわけではない。一生、その美しい花弁で僕を楽しませてくれればいいのさ」
「そんなものをわたくしに……!」
「おっと。助けを求めても無駄だ。なんせあの魔王ベレスは呪いで、その力のほとんどを失っている。それにお前にも悪い話ではあるまい。一生、美しい花の養分となりながら、その血を吸われ続けながら、僕を楽しませ続けられるんだ。奴隷小屋にいるよりは数段、マシだろう?」
「なんと愚かな……」
「おっと。これはゼウスの親父にも秘密だ。アレも好き勝手なヤツだからな。良い薬になる。奪われたと思わせておけば良い」
アポロンはデルにくるりと背を向けた。
「ではそろそろ頃合いだ。お前はこの世で一番美しい花となれ。そう。永遠に。この『ミス・ヴァース』と幽世が滅び去るまで」
だがその時だった。
後ろを振り返ったアポロンの目の前に。
「な、なんだと」
デルがその姿を見たのは。
「ベレスさま!!」
そこに立っていたのは誰であろう魔王ベレス。
「そんな、どうやってここを……!?」
アポロンの顔が驚きで歪む。
同時にデルの体で何か異変が起こった。
アルラウネだ。
アルラウネが発芽したのだ。
みるみるうちにデルの胸から上はアルラウネの芽とツルで覆われていく。まるでデルを根とするように。皮膚を突き破り、体に巻き付き、今にも花を咲かせんと。わななく。蠢く。嬲る。生気を奪う。犯す。
ベレスさま……。
「アポロンよ」
ベレスが地を這うような恐ろしい声を発した。
「私を怒らせたな」
その直後だった。
ベレスのひと睨みで。
たったそれだけで。
たったそれだけのことで。
ジュッ!
言葉一つ上げることはなかった。
アポロンはベレスの視線により一瞬で蒸発した。
その塵が舞いながら消え失せる。
幽世の英雄がまた一人、
消える。
消えていく……。




