表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽世のリリン  作者: R09(あるク)
第三章 蝿の王編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

205/240

第198話 神の結界を破壊する者

第198話


 灰色の霧が、再び視界を塗りつぶしていく。

 10体はいるであろうロキの分身……いや『ゴースト』。

 そう。この濃霧は地球に生命を誕生させた“生命のスープ”。

 その濃霧から自らの『ゴースト』を産み出すなどと……。

 生命誕生の奇跡を、皮肉にも、悪魔であるベールゼバブは目の当たりにしていた。


 むちゃくちゃにも程がある。

 これには、さすがのベールゼバブも恐怖せざるを得なかった。


(これが、北欧神話でも最もやっかいな邪神とされるロキの力……)


 ベールゼバブも認めざるを得なかった。

 自身も魔界のプリンスと恐れられる存在ではあるが、ロキのその“力”の底は、計り知れないほどに、深い。


 ロキ“たち”のクスクス笑いが止まった。

 そして一瞬、時が止まったような沈黙が流れる。


(……来る……!)


 ベールゼバブの直感が的中する。

 次の瞬間、霧の奥から影が飛び出した。

 三体のロキ──、いや正確には、ロキの『ゴースト』か。

 本物と寸分違わぬ動き、魔力、殺意。

 虚実を見極める暇はない。


 ベールゼバブはたまらず、超高速で空中へと舞い上がる。

 それにあの三体は同じ速度でついてくる。

 なんという能力だ。


「ちっ!」


 ベールゼバブは再び飢餓の双刃(ハンガーデバウアー)を構えた。

 フルパワーでなくともいい。

 この三体を仕留められれば、ひとまずは、良い。

 それには、“スピード”だ。


 ベールゼバブは自らの能力を“速度”に全振りした。

 たちまち放たれる衝撃波。

 飢餓の双刃(ハンガーデバウアー)を降ったその腕すら見えない速さだ。


 さすがのロキの『ゴースト』も面食らう。

 そして悲鳴を上げる暇もなく、二体が霧に帰す。

 だが、最後の一体が死角から迫り、肩口を浅く裂いた。血の熱が肌を伝う。


 気づけば、ロキが持つレーヴァテインが杖の形から刀へと変貌を遂げていた。


 (─——速すぎるっ!)


 これがロキ最強の武器といわれるレーヴァテインの恐ろしさだ。

 そして息をつく暇もなく、さらに四方から魔力のやいばが突き上がる。


(次は何体だ……!?)


 背後では空間が裂け、無数の刃が無音で迫る。


 本体であろうロキは霧の奥で静かにこれを見上げている。だが、その視線は、迷いなく獲物を解体する解剖者のよう。


(いや、それも罠かも知れぬ)


 本体に見せかけているだけ。

 実はこの『ゴースト』の群れにまぎれて、必殺の一撃を狙っているのかもしれない。

『ゴースト』の連携。遠距離からの遠隔攻撃。、何体から攻撃されているかわからない、不可視の罠……。そのすべてが同時に押し寄せ、呼吸のリズムを奪っていく。


「くそ……っ」


 ベールゼバブは急旋回し、決死の勢いで反撃に転じる。だが切り裂いた影はまたもや『ゴースト』。手応えは霧に溶けて消える。

 次の瞬間、頭上から四体同時のやいばが振ってきて、飢餓の双刃(ハンガーデバウアー)の両刀で受け止める。動きが一瞬鈍ってしまった。


 このままでは押し切られる……!


 そう悟った瞬間だった。


 そこにいるすべてのロキが上空を見上げた。

 そして異口同音にこう言う。


「何っ……!?」


 パキ……。


 乾いた音が、結界の上空から響いた。

 ロキも動きを止め、ベールゼバブも息を呑む。

 霧がざわめき、空気が微かに震えた。


 パキ……パキィン……。


 結界の天蓋に黒い亀裂が走る。

 蜘蛛の巣のように広がる亀裂は、ひとつひとつが重低音を伴い、空間そのものを軋ませていく。


 ――何だ、これは……?

 ロキ“たち”は瞳を細めた。結界を破れる存在は限られている。いや、本来、存在しないはずだ。

 ベールゼバブの背筋を冷たいものが這い上がる。外から……何かが来る。


 亀裂は枝分かれし、空全体を覆う。

 そして──。


 ガシャアアアアンッ!!


 世界が砕ける音が響き、天蓋は粉々に崩れ落ちた。光の破片が雨のように降り注ぐ中、亀裂の中心にひとりの青年が浮いていた。


 ――魔王ベレスだ。


 彼は何も言わず、ゆっくりと右手を空へ掲げる。


 ……世界から音が消えた。

 風も、霧も、遠くの魔力の唸りも、すべてが吸い込まれていく。

 掌に集まっていくのは、色も熱もない、純粋な「消滅」。空間が歪み、景色が波打ち、存在そのものが押し潰されるような圧。


 ロキの表情がわずかに歪む。

 ベールゼバブの飢餓の双刃(ハンガーデバウアー)が反射的に後退のため動く。

 その想像を超えるような魔力の波動に、抗うなどという発想すらも霧散する。


 掌の魔力は限界を超え、周囲の空気がひび割れるように揺らぐ。

 その圧は一瞬のためらいもなく──。


 ──閃光が走った。


 すべてが消えた。霧も、大地も、空も。


 そしてロキ自慢の固有結界と『ゴースト』たちも……。


 その光が収まった頃、ロキは驚愕する。

 固有結界は完全に消され、元の水城市の三叉路に帰っていた。


(……あり得ない……!?)


 まさか、ベレスの力がこれほどとは……。


 だが驚いている場合ではなかった。


 宙空に浮かぶ魔王ベレス。


 そのはるか上空に、巨大な“目”が見開き、こちらを見ていたのだ……!


 その姿、その存在は、もちろんロキもベールゼバブも知るところだった。


 世界中の神々さえ手を出せない存在。

 悪魔王サタンですら、その戦いを避け続けていた存在。


 そう。


 あの。


 九天くてんの王……この世の“魔”の中では最強の存在。


 神からも悪魔からも恐れられる、この惑星の異次元の存在・陰皇いんのすめらぎと畏れられる、それ《・・》が、いつの間にか、濃霧に覆われた空でも分かるほどハッキリと、その巨大な一つ目を見開いていた……!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマ・ポイント評価お願いしまします!
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ