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幽世のリリン  作者: R09(あるク)
第三章 蝿の王編

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第195話 狡知の神vs蠅の王

第195話


 危険度・災害クラスLEVEL9のリリン悪魔リリンの戦い。

 LEVEL9とは、地球自体が危険にさらされるレベルということだが、天界・魔界どちらにおいても地球を破壊したことのある者はいないため、ここが計測の限界となっている。

 それだけ力があるともくされているものだけがLEVEL9とされ、実はそれ以上の力を持つ場合もある。

 つまり最高値のその先……さらなる強さがあるわけだ。


 またいくらLEVEL9同士といえど、全力を出しては、文字通り地球が破壊される。

 力は抑えざるを得ない。

 天界・魔界においてこの「地球」がなくなれば、天界・魔界もふくめ滅亡すると伝えられているため、これは禁忌。

 つまり、LEVEL9同士が戦うとなれば、どれだけ力を調整するか、そのチキンレースともなる。


 その意味で、ロキもベールゼバブも、それぞれのギリギリのラインを緻密に計算しつつ戦っていた。


 だが、ベールゼバブの「蝿神降臨ばいしんこうりん」はロキの計算を見事に狂わせた。

 無数の蝿が集合して形成されたベールゼバブの巨大な虚像。

 2本の短剣「飢餓の双刃(ハンガーデバウアー)」がロキの力を奪い取ったことで、ロキが計算していたバリアの強度が、試算よりも弱かった。

 ゆえに、潰された。


 読み違えれば時に致命傷となる。

 地球破壊に至らないための、力を抑えながらの戦い。

 だがこの瞬間、ベールゼバブに軍配が上がったのは偶然ではない。


「ほう……なーるほど。だてに魔界のプリンスと恐れられるだけはあったわけか」


 ロキは潰されたバリアから瞬時に外へ飛び出していた。

 そして濃霧に覆われた路面に立つ。


「これは、面白くなりそうだ。久しぶりに心踊るぞ。さあ、ベールゼバブ。お前の力、どこまで見せてくれる? だが忘れるな、我は気まぐれだ。楽しませてくれなければ、次の瞬間にはお前を裏切るかもしれん。それが我、ロキの流儀だ」

「あれから逃れたか……」


 ベールゼバブもベールゼバブで計算が狂い驚いていた。

 まさか、あの技で傷一つ負わないとは……。


「そもそも貴様の流儀などに乗って戦うつもりはない」

「言うねえ。とはいえ……この空気、この力の高まり、悪くない。お前となら、退屈な永遠も少しは色づくかもしれぬな。さあ、続けるがいい。その力でこの我をどれだけ壊せるか、見せてみろ!」

「わけの分からぬことを!!」


 どれだけロキが強いといえ、この「飢餓の双刃(ハンガーデバウアー)」がある限り、ロキは計算できないレベルで力を吸引され、コントロールが困難なはずだ。


(ならば白兵戦で……!)


 地上に降り立ったロキへ向け、ベールゼバブは急下降した。


(ロキのこと……。あの言葉、口調に惑わされてはならぬ!)


「ほう。肉弾戦を望むか」


 ニヤリとロキが笑う。


「だがあいにくだったな、我もそれは得意だ」


 そんなロキに2本の短剣で斬りかかるベールゼバブ。

 ロキはそれを杖状のレーヴァテインで次々とさばいていく。


(くっ! こちらの速度は「飢餓の双刃(ハンガーデバウアー)」で数倍になっているはずなのに……!)


「どうした! お前が所望した戦い方であろうが!」


 ロキはたった一本の杖で2本の短剣のスピードについてくるばかりか、威力も先程より増している。

 なぜだ……吸引し続けているのに……。


「ふん!」


 ロキは短剣を受け止めた杖をしゃくるようにして、その下部でベールゼバブの脇腹を叩いた。ベールゼバブの表情が苦悶に変わる。 


(杖でこの威力か……!)


 一度、大きく距離を取ろうと後方へと飛び退くベールゼバブ。

 この距離を瞬時に詰めるロキ。

 そのロキの前にベールゼバブではなく、蝿で形成された蠅の王の巨像が再び立ちふさがる。


「これは、もう、見た」


 ロキは冷静にレーヴァテインの先から巨大な火焔かえんを噴出させ、これを一気に焼き尽くした。

 驚愕を隠せないベールゼバブ。

 ロキの落ち着き払ったその反撃に、次の手を考える隙もなく、ベールゼバブは首に大きな衝撃を感じる。

 いつの間にかロキがベールゼバブの背後まで飛び、手刀を後頭部の脊髄あたりに当てたのだ。


 ベールゼバブは前のめりに倒れていきながら思った。


(な、なぜだ。なぜ、「飢餓の双刃(ハンガーデバウアー)」で力のコントロールを奪っているのに、コイツはまったく動じない──!?)

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