第195話 狡知の神vs蠅の王
第195話
危険度・災害クラスLEVEL9の神と悪魔の戦い。
LEVEL9とは、地球自体が危険にさらされるレベルということだが、天界・魔界どちらにおいても地球を破壊したことのある者はいないため、ここが計測の限界となっている。
それだけ力があると目されているものだけがLEVEL9とされ、実はそれ以上の力を持つ場合もある。
つまり最高値のその先……さらなる強さがあるわけだ。
またいくらLEVEL9同士といえど、全力を出しては、文字通り地球が破壊される。
力は抑えざるを得ない。
天界・魔界においてこの「地球」がなくなれば、天界・魔界もふくめ滅亡すると伝えられているため、これは禁忌。
つまり、LEVEL9同士が戦うとなれば、どれだけ力を調整するか、そのチキンレースともなる。
その意味で、ロキもベールゼバブも、それぞれのギリギリのラインを緻密に計算しつつ戦っていた。
だが、ベールゼバブの「蝿神降臨」はロキの計算を見事に狂わせた。
無数の蝿が集合して形成されたベールゼバブの巨大な虚像。
2本の短剣「飢餓の双刃」がロキの力を奪い取ったことで、ロキが計算していたバリアの強度が、試算よりも弱かった。
ゆえに、潰された。
読み違えれば時に致命傷となる。
地球破壊に至らないための、力を抑えながらの戦い。
だがこの瞬間、ベールゼバブに軍配が上がったのは偶然ではない。
「ほう……なーるほど。だてに魔界のプリンスと恐れられるだけはあったわけか」
ロキは潰されたバリアから瞬時に外へ飛び出していた。
そして濃霧に覆われた路面に立つ。
「これは、面白くなりそうだ。久しぶりに心踊るぞ。さあ、ベールゼバブ。お前の力、どこまで見せてくれる? だが忘れるな、我は気まぐれだ。楽しませてくれなければ、次の瞬間にはお前を裏切るかもしれん。それが我、ロキの流儀だ」
「あれから逃れたか……」
ベールゼバブもベールゼバブで計算が狂い驚いていた。
まさか、あの技で傷一つ負わないとは……。
「そもそも貴様の流儀などに乗って戦うつもりはない」
「言うねえ。とはいえ……この空気、この力の高まり、悪くない。お前となら、退屈な永遠も少しは色づくかもしれぬな。さあ、続けるがいい。その力でこの我をどれだけ壊せるか、見せてみろ!」
「わけの分からぬことを!!」
どれだけロキが強いといえ、この「飢餓の双刃」がある限り、ロキは計算できないレベルで力を吸引され、コントロールが困難なはずだ。
(ならば白兵戦で……!)
地上に降り立ったロキへ向け、ベールゼバブは急下降した。
(ロキのこと……。あの言葉、口調に惑わされてはならぬ!)
「ほう。肉弾戦を望むか」
ニヤリとロキが笑う。
「だがあいにくだったな、我もそれは得意だ」
そんなロキに2本の短剣で斬りかかるベールゼバブ。
ロキはそれを杖状のレーヴァテインで次々とさばいていく。
(くっ! こちらの速度は「飢餓の双刃」で数倍になっているはずなのに……!)
「どうした! お前が所望した戦い方であろうが!」
ロキはたった一本の杖で2本の短剣のスピードについてくるばかりか、威力も先程より増している。
なぜだ……吸引し続けているのに……。
「ふん!」
ロキは短剣を受け止めた杖をしゃくるようにして、その下部でベールゼバブの脇腹を叩いた。ベールゼバブの表情が苦悶に変わる。
(杖でこの威力か……!)
一度、大きく距離を取ろうと後方へと飛び退くベールゼバブ。
この距離を瞬時に詰めるロキ。
そのロキの前にベールゼバブではなく、蝿で形成された蠅の王の巨像が再び立ちふさがる。
「これは、もう、見た」
ロキは冷静にレーヴァテインの先から巨大な火焔を噴出させ、これを一気に焼き尽くした。
驚愕を隠せないベールゼバブ。
ロキの落ち着き払ったその反撃に、次の手を考える隙もなく、ベールゼバブは首に大きな衝撃を感じる。
いつの間にかロキがベールゼバブの背後まで飛び、手刀を後頭部の脊髄あたりに当てたのだ。
ベールゼバブは前のめりに倒れていきながら思った。
(な、なぜだ。なぜ、「飢餓の双刃」で力のコントロールを奪っているのに、コイツはまったく動じない──!?)




