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幽世のリリン  作者: R09(あるク)
第三章 蝿の王編

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第187話 ゴブリン侵入!

第187話


「み、みんな無事かあっ!!」


 横倒しになったバスの中で野津俊博は叫ぶ。

 バスの中には赤ちゃんの泣き声が響き渡っていた。

 誰もが席から投げ出されている。

 かくいう野津も頭のどこかを切ったのか.。額からつうっと血が流れ落ちている。

 だがそれよりも自身の言動に驚いていた。


 もともと野津は目立ちたがらず無口な方である。

 それが今はこんなにも必死になって……。


 危機的状況の中でリーダー的な資質が開花されたのかもしれない。

 まったく自分らしくない。

 でも今はそんなことを言っていられる状況ではない。


 そんな中で、二人だけ、しっかりと立っている者たちがいた。

 バラキとラミー。

 突如としてバスに乗り込んできた異人……。

 この路上バス、乗っていた者が全員、今や足場となっているバスの側面に転がっているにもかかわらず、だ。

 バラキは穏やかに微笑んでいる。

 その隣で、少女であるラミーも寄り添うようにして立っていた。


「あ、あなたたちは、無事だったのですか……?」


 思わず野津の口から声が出る。


「ええ」とバラキは流暢な日本語で話し始める。


「僕たちは運良く、着地できましたので」

「運良く……?」


 事故だぞ? そんなことあるのか?


「ラミーも運動神経がいいものでね。僕が補助をしてあげていたからか、まったく無傷で着地が可能でした」

「ラミー、補助なんてされてないもん」


 ラミーがぷうと頬をふくらませる。


「それより何よ。あんなゴブリンの群れ、避けられなかったの?」


 ――()()()()……!?


 言った。

 確かにそう言った。

 野津も最初にそれを見た時、まるでファンタジーアニメに出てくるゴブリンのようだと思った。

 だがそれは俺だけじゃなかった──!

 いや或いは本当にゴブリンなのかもしれない。

 先ほど、空まで覆う濃霧の先に雷光とともに見えた巨人の影……。

『ゴースト』以外の何者かがこの濃霧の中にまぎれていても、おかしくない。

 いや、おかしくないのか……? おかしいに決まっている……これまでに『濃霧現象』についてそんな話、聞いたことがない。あくまでもそこに現れるのは『ゴースト』だけだったはずだ。

 だが。


 ――「この世の者ではない何者かが出現する場合もあったという話もあります」


 過去、全校集会で何度となく聞かされたその言葉。


 ――「ゆえに、濃霧警報が発令されたら皆さん即座に自宅など安全な場所に避難しましょう。それが完全に安全……というわけではありませんが、とにかく外出が危険だということは間違いはない。閉じこもっていれば過ぎ去っていくはずです」


 その言葉と共に、先程バスへ向けて走る途中、駐車場で襲ってきたトロール……巨大な人型の醜い化け物のことも脳裏をよぎった。


 つまり。


 これが、全校集会で校長が言った「この世の者ではない何者か」──。


 だとすれば、あいつらは本当に「ゴブリン」。駐車場で襲ってきた醜い豚のような化け物らと同類だと思えば納得がいく。


(一体どうしちまったんだ。水城は……!)


 未知の怪異の連続に混乱している野津の耳に、あのバラキとラミーの会話が入ってきた。


「ねえバラキ。まだ()()は現れないの? これだけ知人が危機に遭っているとなったらそろそろ気づいてもいい頃なのだけど」

「それがですね、ラミー。反応が薄いのですよ。信号は送り続けていて届いてはいるはずなのですが、どうも相当に強力な結界か何かによって封じられているみたいでね」

「何よそれ! ラミー、楽しみにしていたのに!」

「まあまあラミー。まだチャンスはいくらでもありますよ」


 ──はあ?


 野津にとっては何の会話かわからない。

 信号? 結界? 楽しみ?


「あんたら……何を言っているんだ、あんたら。さっきから」

「いいえ。何でもありません」とバラキは目を線のようにして微笑んだ。

「それより、アレをなんとかしなきゃいけないんじゃないですか?」

「アレ……?」


 バラキと名乗る男に促されるまま、上を見た。

 上といっても横転したバスの中では側面にあたる。

 その車窓。

 そこにゴブリンたちが集まり、何かを振りかぶってガラス窓へとぶち当てた。


 その光景と衝撃音に野津は驚いた。

 ゴブリンたちが振り下ろしているのは、簡易な手製の斧。

 木の棒にとがった石をくくりつけた、原始的なその武器でガラスを破り、このバス内へと侵入しようとしているのだ。


「野津さん! あれ……!」


 野津の後輩。北藤翔太の同級生である高木が思わず悲鳴に似た声をあげた。

 バス内の赤子の泣き声はますます大きくなる。

 ゴブリンたちがガラス窓をこぞって割ろうとしている光景にサラリーマンはすっかり怯えきって「ひい」と情けない声を出す。赤子の母は我が子を守ることに必死だ。体を丸めてぎゅっと赤子を抱きしめている。


 30代ぐらいの夫婦はその夫の方が妻の肩を抱いて必死になぐさめていた。妻の方は恐怖に震え上がり、すすり泣きを始めている。


 原田先生はバスの側面に転がり、どうやら気を失っているようだった。

 水城工業の小野山と櫻井がその原田先生の肩を持って揺り動かしている。


 一方で宇和島組はすでに戦意を取り戻し、ゴブリンたちを見上げていた。

 疋田麗央ひきたれおはその巨体に見合った落ち着きと殺気で。

 寺沢龍雅もさすがにひきつった表情で。

 ボクサーの柴田も自然とファイティングポーズを取っていた。


(どうすればいい、どうすればいい、どうすればいい!?)


 野津は心の中で繰り返し叫ぶ。

 ゴブリンたちはあちこちの車窓を破ろうとその斧を振り下ろしている。

 こんな狭いバスの車内。

 入りこまれたら大変なことになる。

 ゴブリンは創作の中では人を襲い、喰い、さらい、そして犯すとされている。

 そんな化け物がこれだけの数、入り込んできたら……!?


「よお、野津ぅ。あの緑色の化け物も水城名物か?」


 寺沢龍雅が金属バットを構えながら言う。


「いや。初めてだ。ゴブリンが現れたなんて話、少なくとも俺は聞いたことがない」

「ゴブリンだあ……?」


 龍雅の眉がピクリと動いた。


「あれが、あのゴブリンだって言うのか」

「分からない! だがそうだとしか考えられない」

「なるほど。さっき駐車場で見たあの巨体の化け物の同類ってわけか」

 ここで麗央が割って入ってきた。

「……どちらにせよ、()()しかねえだろ……」

「は?」

 麗央の口から飛び出したその信じられない言葉に野津は思わず間抜けな声を出してしまった。

「……殺る」

「殺るって……」

「……それ以外の選択肢はあるか……?」


 その言葉と同時だった。

 ついに窓ガラスの一つが完全に粉砕された。

 降り落ちるガラスの破片に誰もが腕で自身の頭や目を守ろうとする。

 割れた窓からは当然、ゴブリンが中へと頭を突っ込んでくる。

 その長い耳。縦に割れた瞳孔。そして長い舌。

 笑うように開かれた口の中には、まるで肉食の獣のような牙がズラリと並んでいた。

 そしてまるで覗き込むように頭をこじ入れてくる。


 ――そのゴブリンの首元!


 頭から滑り落ちるように入り込もうとした一匹のゴブリン。

 バス内へと侵入しようとずるり、と体ごと入ってきた瞬間。


「はっ!!」


 その首元へ向けて竹刀が飛んできた。


 今井咲。

 剣道三段。

 個人戦で県大会優勝、全国大会ベスト4。


 その咲が放った剣道最速の技、「突き」が。


 ――ゴブリンの首元に深々と突き刺さったのだ……!


 ピエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!


 聞いたことがない悲鳴をあげ、ゴブリンはバスの中を吹き飛んでいった。

 そして震えているサラリーマンの肩にぶつかる。

「ひっ!」

 サラリーマンは再び情けない悲鳴を漏らす。


 その場が静まり返った。

 首筋に剣道の「突き」を食らったゴブリンは、サラリーマンの肩にぶつかった後、そのまま下へと落ちた。

 ぴくりとも動かない。

 だがその体がボタンを押したのか、バス内にひどく間抜けなアナウンスが流れた。


『……次、止まります……』


 そのゴブリンは仰向けで、口から白い泡を噴いていた。

 力なく開いた口からはだらしなく、長い舌が垂れ下がっている。


 ──死んだ? ……いや、気絶した……?


 この仲間がやられた光景に、ガラス窓をあちこちで割ろうとしていたゴブリンたちの動きが一瞬、止まった。


「今井……先輩……?」


 高木がこの信じられない光景に思わず今井咲の方を見る。

 咲はふうと深い息を腹の底から吐きながら、竹刀を中段に構え直していた。

 その落ち着き払った表情で前を見据えるその目の気力には、男である高木も思わず怯んでしまった。


 そんな沈黙の中、再びラミーがバラキに不満を漏らす。


「バラキ。まだなの? ラミー疲れちゃった。早くアレを呼んでよ」


 その言葉を受けてバラキは天井を仰ぎながら両手を広げ、さらに体に力を入れた。


 ◆  ◆   ◆


 ――その頃。


 北藤家。


(――誰だ……?)


 ベッドで休んでいる北藤翔太ほくとうしょうたは何者かの呼びかけにより、深く沈んでいた意識の底から、まるで海中に漂っているかのように苦しそうな心の声を発した。


(……誰かに……誰かが……俺を……呼んでいるのか……?)


 指にはめられた御守カメア、ソロモン王の指輪がぎゅっと翔太の指を締め付ける感覚があった。


(……なんだ……。休ませてくれるのか……じゃあ、なんだ、この呼びかけは……)


 翔太はいまだ夢の中にいる。

 バジリスクに襲われた傷は、すでにその不思議な力ですべて塞がっていた。

 だがその心までは、魂までは、まだ癒えていない。


 翔太という人格は、完全に眠りの中にいた。


 だが。


 何者かの不可解な“呼びかけ”により──。











 塞

 が

 っ

 て

 い

 る

 は

 ず

 の

 額

 の

 第

 三

 の

 目

 が

 、





 ──つまり。











「666」の目が……。









 う

 っ

 す

 ら

 と

 開

 こ

 う

 と

 し

 始

 め

 て

 い

 た

 !

 !

 !!

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