第183話 世界終末の日《ラグナロク》
第183話
ニセ大熊はニヤニヤしながら言う。
『これが英雄殺しの野良猫お得意の『英雄たちの腕』か。初めて食らってみたが、なかなかの力らしいな』
「お褒めに預かって光栄だよ。でも君の本体だったらこうはいかないってのをわかって言ってるね。それは皮肉かい?」
アッハッハッハッハ!
再びニセ大熊は笑った。
『いや。なかなかの結界技術だ。俺に何もさせんとはな』
「まあこの土地そのものが特別な力を持っているからね。でも結局、僕は君の持つ力の侵入を許してしまった。君ほど大物の神が訪れることは想定していなかったからね。オーディンやトールの許可は得て来たのかい? ……いやまあ、君がそんな正しいことはしないか」
『その通り。物見遊山に来るのに、兄貴や甥っ子に知らせるわけなかろう』
――まさか!
この会話で美優の頭に思い浮かぶ神はただ一柱だけだった。
やはり成宮蒼が予想していた通りの存在が……。
それだけの高名な神がこんな所に……!?
「だが君がこの家にまで来たのには理由があるだろう? 間違いなくベレスさまを怒らせるような真似までして」
『俺の性格はベレスもよく知ってるだろう。こんなことで怒るかい?』
「怒るだろうね」
『ほう、何故だね』
「君が、北藤翔太にちょっかいを出そうとしてるからさ、ロキ」
そう!
ロキ。
北欧神話に登場するイタズラ好きの神にして、世界終末の日にもかかわる重要な存在だ。
『なるほど……。ベレスのヤツが怒るとなると、俺の考えはほぼ正しいと言うのと同義だな、シャパリュよ』
一瞬、シャパリュは「しまった」という表情を見せたが、すぐににやついたいつもの猫顔に戻った。
「話はここまでだ、ロキ。じゃあ、さよなら」
シャパリュがそう言葉を発し、背後を向けた直後であった。
どこからか伸びた、シャパリュが殺した英雄たちの何本もの腕が、一瞬でニセ大熊の肉体をバラバラにし。
美優は顔全体にその返り血を浴び。
シャパリュの急激な結界の強化により。
ロキの気配は北藤家から消え去った――。
◆ ◆ ◆
(……ここは……。わしは、どうなった……?)
ほぼ同時刻。
いまだ濃霧に覆われた水城市松本町の路地。
ようやく気が付いた大熊の目に映ったのは、路地いっぱいに広がったテーブル。
そこにはアリス、シンデレラ、白雪姫、人魚姫、赤ずきん。そして茨の眠り姫らしき女性たちが席を埋めており、紅茶を飲みながらコソコソ話をしていた。
「失敗したわ」
「失敗しちゃった」
「まさかシャパリュがいるとは」
「ベレスさまも抜かりないものね」
――そうか!
わしは、あの不思議の国のアリスの格好をした怪異に腹を貫かれ……。
そこでハッ!とした。
貫かれた胸の穴が……。
ない……!
「あら。気付いたみたいよ」
「気付いたわね」
「どうします?」
「どうしましょう?」
「じゃあ、聞きましょう」
アリスがニヤリと笑ってティーカップをテーブルに置いた。
大熊はこのテーブルの席に縛り付けられていた。
胸の穴はすっかり塞がれており、何やら魔法のようなもので治療された、ほのかな魔術の気配を感じた。
治されている?
なぜ!?
わざわざ殺しておいて、それを治すなんて怪異、見たことも聞いたこともない。
やっていることが無茶苦茶だ。なぜ殺したままにしなかった? それともあれは夢だったのか?
ふと見ると白いテーブルクロスがかけられたそこに置かれたアリスのティーカップには並々と血が注がれている。
――夢じゃない!
あれはおそらくわしの血。
わしは本当に一度、こいつらに殺されたんだ……。
大熊は真正面に座っているアリスの目を真っ向から受けた。
こいつら一体、何者だ……?
「さあ、教えてくれるかしら」
アリスは大熊の目を見ながら言った。
「あなたは『反キリスト』という言葉に聞き覚えがあるわよね」
――!?
大熊の心臓が派手に大きく打つ。
「あなたなら何か勘づいているんじゃないかと思ったの。だって疑惑の想いがぷんぷん感じるんだもの。ただまだ、一部の人にしか明かしてない。あなた自身も証拠を掴めないでいる」
さらにアリスの目が妖しく光る。
「“666の獣”の正体に……」
「お、お前ら、何者だ!」
大熊は慌てて話をそらそうとする。
「わしは何も知らん。それよりお前ら、一体、何がしたいんだ! 高木はどうした! 南雲は!?」
「すごくわかりやすいわね。まるで心が透明のガラスでできてるみたい」
アリスはくすくすと笑った。
そこにいるすべての姫も同じように笑った。
クスクス。
クスクスクスクス。
クスクス……。
大熊の脳裏に浮かんだのは当然、北藤翔太。だが大熊にしても確証はない。
それにしてもどれだけきつく縛れているのだろう。身動き一つできない。
こんな化け物たち相手に……。
わしが、このベテランのわしが。
負けたというのか。
「あら。化け物なんて失礼ね。おじさん」
アリスがニヤリと笑った。
その口は耳まで裂け……。
「私はロキ」
少女はとんでもない神の名前を口にした。
「さあ、あなたが持ってる“666の獣”の情報をすべて教えて。そのためにこんな濃霧で国際魔術会議のエージェントたちをおびき寄せて、やっとあなたという情報源に出会えたんだから」
ロキ……だと!?
にわかには信じられないその偉大なる神の名に大熊は激しく動揺する。
「そうよ、私もロキ」
「私もロキ」
「私も」
「私だってそうよ」
その時、濃霧にまぎれて上空に鳥かごのようなものがあることに大熊は気付いた。
そこに入れられている血まみれの二人は……。
「た、高木! 南雲ぉ!!」
濃霧の中で再び、ロキが化けた姫君たちの笑い声が響き渡った。
舞台のモデルは愛媛県八幡浜市。この作品が有名になって聖地巡礼など過疎地域になった町の町おこしをするのが夢です。
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またこの『カスケード』にまつわるまったく別の物語も書いています。
新感覚の異世界転移・陰陽師バトル
【零咒 ~異世界【TOKYO】ダンジョン~】
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