表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽世のリリン  作者: R09(あるク)
第二章 怨霊編~胎児よ、胎児、湖面はそこだ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/249

第93話 美優vsメドゥーサ

第93話


 ──再び、津羽井つばい山の麓、名坂なざかの坂道。


 無謀に見えるほど真っ直ぐに、美優はメドゥーサの前へ出た。

 シラットの構え。肘も膝も、力の方向も――最短を取れる洗練された動きだ。


(化け物でも、人の形なら関節はある。なら――外せる)


 そう思いながら、美優の左手はポケットの中で、“薄い角”――折りたたみの縁を確かめていた。


 美優がその気になれば、人の関節ぐらい、それが男であっても、簡単にへし折ることはできる。

 ただし――相手が“人”なら、だ。


 美優の前にいるのはメドゥーサ。

 ギリシャ神話でもレジェンド級の化け物。


 美優は、メドゥーサの関節を取りに行く。

 速い。

 その腕に、自分の腕を絡めようとしている。


 だが、メドゥーサには、例の「邪眼」がある。

 見た者すべてを、石にしてしまうという、呪われた力。

 それゆえ、神話内でも多くの犠牲者を生んだ、最強クラスの力。


 メドゥーサが笑う。

 まぶたがゆっくり上がっていく。

 目が開けば終わりだ。

 美優の指先は――まだ、関節に届かない。


 そして、その美優の背のすぐ後ろには、翔太の姿。


(くそっ……! あと一歩……!!)


 伸ばした手。

 だが、それが届いた頃には、メドゥーサの目は見開かれているだろう。


(面白い、お嬢さんだ、こと)


 メドゥーサは、その美優の蛮勇のごとき、勇ましさを面白がっている。


(特別に、いい石像にしてあげる。――ずっと、大事に飾って、あげ、る)


 そして、目を見開いた。

 その瞳に落ちた人影は──











 メドゥーサの顔だった。











「ひ、ひっ……!」


 メドゥーサが目を開いた瞬間、美優は折りたたみの手鏡を開いていた。

 鏡が月光を返す。

 ゆえに、メドゥーサの瞳に映ったのは――メドゥーサ自身。


 まずい――

 みるみる、顔の半分が石になっていく。

 たまらずまぶたを閉じ、取り乱しながら背後へ飛んで距離を取る。


 その一瞬で、美優は肘を取った。

 最初から、これを狙っていた。

 手首を殺し、体重を落とし、角度だけを奪う。

 ゴキッ――肘が外れた。


「ぐひぃっ!」


 さすがのメドゥーサも悲鳴を上げる。

 何が起こったか、分からない。


 ──痛い、痛い、痛い。

 ──なぜ、なぜ、なぜ……


 美優はメドゥーサが背後に飛んだそのスピードよりも速く、間合いを詰めていた。

 そして、メドゥーサが動揺している隙に肘を固め、着地の衝撃を利用して──折ったのだ。


(な、何が起こったんだ……)


 思わず、翔太も足を止める。

 目の前には、再びシラットの構えを取る美優の背中。

 その向こうには、左肘を折られ、その痛みにもがく、メドゥーサ。


 美優の手の中で、小さな鏡がきらりと光った。


「女の子の持ち物、なめないで」


 これに、翔太は思わず言葉を失う。


 握り込めるサイズの折りたたみ鏡。

 “持っていて当たり前”の道具が、今日は武器になった。

 美優は、それを握ってタイミングを測り、

 メドゥーサが目を見開いた瞬間を狙って、パカリと鏡を開いた。


 その当たり前を、メドゥーサは見落とした。


 ゆえにメドゥーサは、鏡に映る自分を見るはめになった。

 折りたたみ式の鏡なら、女子なら大抵持ち歩いている。

 逆に翔太にはできない。

 美優が女子だからこそ、できた作戦。


「い、痛い……痛い、痛い、痛い、痛い、痛い……!」


 そう悲鳴を上げるメドゥーサの顔は、すでに、口元を残してほぼ石化されている。


「メドゥーサと聞いて、私が完全に丸腰で向かうと思う?」


 そう美優は言う。

 美優のシラットは、ミリ単位の正確な動きが特徴だ。

 その美優だからこそ出来た奇襲。


 とはいえ、一か八かでもあった。

 それなのに、根拠のない自信はあった。

 その自信の源は。


 ──翔太くんを守る!


 そこから溢れ出す万能感。

 それが、美優の集中力をさらに研ぎ澄ました。


 石化され、片腕を失ったメドゥーサを見て、美優は潮時を確信した。

 そして、一気にきびすを返し、驚き、呆然としている翔太の手首を取る。


「今! 翔太くん! 逃げるわよ!」


 そう言って駆け出す。

 翔太も、「あ、ああ……」とそれに着いていく。

 このまま、坂道を下るだけ。

 メドゥーサが追ってくる前に、この場から逃げ出すだけ。

 そう思っていた。


 だが。


 数歩で、二人の足が止まる。

 前方から、甘い声が何重にも聞こえてきた。

 その視線の先。坂道にあふれていたその影たちの姿は──


『見つけたわ……見つけたわ……。あの方は、こちらだわ……』

『見つけたわ……見つけたわ……。あの方は、ここにいるの……』

『見つけたわ……見つけたわ……。皆さんもこちらへ来て……』

『見つけたわ……見つけたわ……。ようやく会えました、ようやく会えました……』

『見つけたわ……見つけたわ……。ここにいらっしゃいましたのね』

『見つけたわ……見つけたわ……。探しました探しました……』

『見つけたわ……見つけたわ……。ここで通せんぼをしましょう……』

『見つけたわ……見つけたわ……。そうしましょう、そうしましょう……』

『見つけたわ……見つけたわ……。そうしましょう、そうしましょう……』

『見つけたわ……見つけたわ……。そうしましょう、そうし……』


 道路を埋めるほどの数。

 同じ顔、同じドレスの少女が、四つん這いで這っている。

 逃げ道を数で塞いでくる。

 カサカサ、カサカサと。

 首は変な角度で固まり、目だけがカチリ、カチリと同時に動いた。


 ──恐怖。

 あまりもの大量の怪異の姿に、翔太の背筋が凍った。


 口は笑っているのに、歯が生えていない。

 暗い空洞から甘い声だけがこぼれる。


「こ、これって……」


 思いもしなかった展開に、さすがの美優も驚きを隠しきれない。


「こいつらだ……。テレビでやってた」


 そう。

 あの「ゴスロリ少女事件」。

 あれ以来、姿を消したと思われていたが、

 それが、こんなに大量に。

 しかも、いつの間に。


「そうね……あのゴスロリ少女事件の……」


 その美優の声をかき消すように、羽音が聞こえてきた。


 バサッ、バサッ、バサッ、バサッ。


 上空。


「な、なんだあれ……」


 翔太の視線の先、空では、白い天使像が渦を巻いていた。

 キューピッドの形だが、目は白く、瞳孔がない。

 石の腕が動き、弓を引き絞っている。

 キィ……と、金属みたいな音が夜に混じった。


 背後にメドゥーサ。

 前にゴスロリの群れ。

 上に天使像。

 囲まれた。

 退路はない。

 逃げ道が――消えた。


 翔太の体には、イーナリージアが満ちている。

 魔術回路いっぱいに、太陽神ラーの力が脈打っている。

 しかし、これだけの敵を相手に……


 途端だった。


 ──来た……


 思う。

 胸の奥が、冷える。


(この感じ……まただ。まずい)


 実は何度か、こういう夜があった。

 息が浅くなって、音だけが大きくなる夜が。


 いじめの罪は、思い。

 いじめられた側は、こうして一生、心にその傷が残る。

 それがふとしたタイミングで、フラッシュバックする。

 その瞬間は、自分でも読めない。

 いつ襲われるか、分からない。

 いじめられた人間は、この痛みを、死ぬまで背負って生きていく。

 恥辱として。痛みとして。自分を責めるもう一人の自分と共に。


 翔太の指が、言うことをきかない。

 足裏が地面に貼りついたみたいに動かない。


 この怪異による“囲い”が、別の囲いに重なる。

 教室で囲まれた記憶が、勝手に戻ってきた。

 声の圧と、逃げ場のなさが重なる。

 教室で囲まれた記憶が、勝手に戻ってきた。

 逃げ場を失い、

 痛めつけられた心の傷。


 それが、今夜に限って、


 ――開きかける。


(息が……)


 呼吸が浅くなる。

 心臓の鼓動が、急に遠くに聞こえる。

 肺に空気を含めない。

 息苦しい。

 血の気が引いていく……


 と、その時だった。


「こっちよ!」


 危機を打開しようとしたのは、やはり美優だった。

 だが、突発的に暴れ出した過去のトラウマを、翔太は制御できないでいる。


 力はあるはずなのに、動けない。

 翔太は自分が情けなくなる。

 恐怖が、足を止める。


 ダメな自分が嫌になる。

 あれだけ修行を積んでも。

 神の力を体に宿しても。

 精神力が伴わなければ、足手まといにしか、ならない。

 

 翔太の体は凍ったようにぎこちない。


 ──恐怖だ。


 恐怖というものは、思惑と肉体の歯車を空回らせる。

 いくら、成長したとして。

 いくら、神の力を持っていたとして。

 幼少期のいじめによるトラウマからの恐怖は、止められない。

 いくつになっても、体中を重い鎖で縛ろうとしてくる。


(くそっ!)


 美優は翔太の硬直に気づいた。

 あの頃の、小さかった頃の翔太と、今の翔太が重なる。

 美優は知っていた。

 翔太の心の傷を。

 美優は知っていた。

 今も、その傷と闘っていることを。


 だから、言う。

 叱らない。

 だが同情もしない。

 あくまでも、背中を押すような声で。


「息、吸って。――そう。大丈夫」


 それは翔太が転校前によく聞いた幼き頃と同じ声色。


「翔太くん、今は昔のことを考えなくていい。ここにいるのは私だよ」


 美優は知っていた。

 翔太が人一倍繊細で、優しすぎることを。


「ついて来て。私が先に動く」


 だから、その表情、顔色、動きから、自分の役割を見つけ出した。


 ──翔太くんは、相手を憎むことでしか、自分の力を完全には発揮できないのよね……


 憎めない相手に対し、翔太は自らの恐怖のかせを外せない。

 それは昔からだ。

 優しいほど、怖さが先に出る。

 だから翔太は、何度も“戻り方”を練習してきた。

 そして、こちらに戻ってきて、高校デビューした。

 そのつもりでいた。


(……そんな翔太くんのこと、誰よりも、私が知っている)


 シラットの手合わせをしても、それは目に見えて分かった。

 翔太は、美優相手に、まだ本気を出せたことがない。

 美優に対する「怒り」や「憎悪」がないからだ。


 ──本来の翔太くんは、もっと、強い。

 優しさが、それを邪魔している。


 だからこそ、美優は心に決めていた。


 ──だからこそ、私が、翔太くんを、守る。

 

 だから、

 道を指し示した。

 翔太に。

 過去を忘れさせようとした。


「大丈夫。行くよ、翔太くん。」


 美優は振り返らずに言う。


「気にしないで。私は知ってる。いつだって翔太くんは立ち上がってきた。

 まだ、心の傷が残っているのも分かっている。

 でも、それを乗り越えようとしてきたことも、分かってる。

 今の翔太くんの力──解放すれば、私なんかより、ずっと強いことも分かってる。

 だから……まずは、その鎖を外せばいい!

 そのために! 私を利用すればいい!」


 ピシッ。


 何かが、割れかけた。


「私は、知ってる。翔太くんは、強い。

 一瞬、昔の傷が暴走しているだけ。

 顔を見れば、分かる。動きを見てれば、分かる。

 大丈夫!

 すぐに、その鎖は、

 外れるッ──!」


 ピシピシピシピシ……


 パリン──!


 そして、壊れた。

 過去の映像が。

 心の傷を映す鏡が。


 破片が、いつの間にか白い羽根みたいにほどけた。

 それが、頬に触れて消える。


「だから──そんな優しい翔太くんだから、

 私、翔太くんのこと……信じられる!

 だから私、怖くても、戦える!」


 その声で、翔太の呼吸が少し戻った。

 視界がはっきりする。

 手の震えが止まり、足に力が入った。

 心の闇の渦に呑まれる寸前だった。

 荒い息を吐く。

 そうだ。

 また、あれだ。

 体が先に怯えて、頭が遅れて追いつくやつ。

 ……でも、戻れた。


 いつも美優は、そうだ。

 的確に自分のことを把握してくれる。

 そして救ってくれる。

 何か、手はあると教えてくれる。

 じゃあ、美優は何をしようとしているのか。


 それを確認しようとして、翔太は驚愕した。

 

 その美優が向かったのは、


 ──あろうことか、メドゥーサの真正面だった。


 メドゥーサは折られた肘をもう一方の手でゴキゴキと動かしている。

 そして──ハマった。折られていたのではない。関節が外れていただけだ。


「あ、あなた、鏡なんかで、私を、倒せる、と、思った?」


 そのメドゥーサへ向かって美優は走る。

 翔太の手を引いて。


「これだけ、囲まれているのに、往生際が、悪い、のね」

「そうかしら?」


 見ると、いつの間にかメドゥーサは、自分の石化も解いている。

 ちょっと目を離していた隙に。どうやって──?


(これは──呪いの解除、その手順……この化け物、隠し持っているわね)


 だが、その詮索は今じゃない。

 今は攻める時。

 美優はメドゥーサの目前でいきなり、低くしゃがんだ。

 そのまま体を軸に伸ばしきった左脚で回し蹴りを放つ。


 メドューサの脚を刈るつもりだ。


 しゃがんだのは視線を合わせないため。

 まぶたを上げる前に、攻撃を当てるため。


 そしてこの、美優の攻撃の速度は、メドゥーサを完全に上回っていた。

 メドゥーサも、さっきの手鏡を警戒し、簡単に二人を攻撃できないでいた、そこが隙だった。


 美優の回し蹴りは見事、メドゥーサの両脚を跳ね上げた。

 あの、怪物が。

 ギリシャ神話で知らぬ者はいないであろう、メドゥーサが。


 たった一人の、ただの人間の少女によって、弾き飛ばされる。


 それはまるで、神話が上書きされたような光景だった。


「今よ!」


 そして、美優は翔太を引いて、メドゥーサの横をすり抜ける。

 またしても、奇襲。

 戻ってくるはずがないと思ったところで、正面突破。

 だが、それにも理由がある。

 このメドゥーサの背後には、デルピュネーがいる。


 ──デルと合流さえすれば、また何か策があるはず。


 そう思っての、計算づくの正面突破だった。


 だが、敵は神話上の怪物だ。

 転ばされたメドゥーサ。

 その美しく長い髪。

 それが、


 髪が蛇に変わり、一匹が跳んだ。

 美優の肩を狙って、口を開く。


 速い。


 牙から滴る毒が地面を焦がす。

 まだ美優は気づいていない。

 蛇が大口を開け、美優の肩を噛もうとする。


 しかし。


「させない!」


 翔太の手が先に動いた。

 ぐしゃり、と蛇の首が潰れる。

 さっきまでの恐怖が、一瞬で反転した。

 美優を傷つけるものだけは、許せない。

 弱さが逆向きになる。

 守るための強さに変わる。


 その目には、再び、力が宿っている。


 美優も思わず、その場に止まった。

 

 翔太の手に血管状の光が走っていた。

 イーナリージア。

 魔術回路が燦然と輝いている。


 翔太の目がうすく光ったように見えた。


「翔太くん!」

「ごめん、また俺、どうかしてた」

「ううん、それより」

「分かってる。まずはここから……」

 

 だが、毒蛇の髪の群れは次々と伸びてくる。

 いつの間にかメドゥーサは、頭髪すべてが蛇となっていた。

 伝説上の姿を取り戻している。


 翔太の目がさらに力を帯びた。

「怒り」「憎悪」

 美優を傷つけようとしたことが、許せなかった。


「……飛ぶぞ」

「え?」

「掴まれ。落とさない」


 美優は、何のことか分からない。

 だが翔太に変化があったことは分かる。


「行くぞ!」


 イーナリージア全開。魔術回路がはち切れんばかりに脈打つ。

 翔太は呻いた。


 ──痛い……!


 神経が焼ける。魔術回路が痛覚そのものに巻き付いてくるような痛み、激痛。

 これがリスク。

 修行不足の自身のミス。


 ──それでも!


 冥船メスケトトの呼吸、夜の冥府を船で渡る太陽神ラーの力を取り入れるあの儀式。

 四拍吸い、十二拍で肺を凍らせ、六拍で吐く。

 その循環が、魔術回路の痛みを和らげてくれる。

 まだこの訓練を始めて間もない。だから真の力は1000分の1も発揮されない。

 だが──

 やる。

 やれる。

 耐えられる。

 行く!

 もう、


(美優に、助けられてばかりの自分じゃ、嫌だッ!)


 バンッ!


 踏み込みでアスファルトにヒビが走る。

 二人の体が、持ち上がった。

 いつの間にか、翔太は美優を抱き上げている。

 突然のことに美優は、翔太の体をがっしりと掴むしかなかった。


「え……わ……翔太くん、これ……」

「いいから、しっかり、しがみついてて!」


 変わった!

 さっきとは別人だ!

 その言葉に美優は翔太の首に腕を回した。


 まるで空を飛んでいるかのよう。

 その高さは十五メートルほど。


(これ……翔太くんの力……?)


 いつの間にか、これほどの力を操れるようになっていた。

 これには、美優も驚く。

 毎晩の修業の成果──それが、確実に、


(──出てる!)


 すかさず追う毒蛇も、とても届かないほどの高さ。


「速……い……?」


 メドゥーサもこれには驚く。

 さっきまで、翔太の美味しそうな恐怖がこの空間に満ちていた。

 それが、一気に掻き消えたのだ。


「ま、まだ、私の、邪眼、が……」


 そして、再びまぶたを開けようとするも。

 その頃には翔太と美優の背は、

 すでに、夜の闇の中へとかき消える。

 目で追えない。

 邪眼そのものが空を切る。

 メドゥーサは、そこで立ち尽くすしかなかった──


 ◆   ◆   ◆


 一方、下降に入る翔太と美優。

 夜空から林へ。林が結構な範囲で燃えている。


「な、何あれ?

「何か、何かがあったんだ!」


 背後を見ると、天使像が二人を追随している。

 矢の先から白い蒸気が尾を引く。

 だが矢の軌道は届かない。


 すでに林の木々直上に二人の姿はある。

 風がゴウゴウと鳴る。着地まで、あと数秒。

 林の中に入りさえすれば、この天使像からも、姿を隠せる!


 次の瞬間、二人は林へ突っ込んだ。

 

 ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ!  


 翔太は体を丸め、必死で美優が傷つかないよう守る。  

 枝が、木々が。  


 バキバキッ! バキバキッ!  

 ザザザザザザ! バキッ、ザザザ――枝が肌を掠める。 


「きゃああああああああああああああ!」  


 この衝撃に叫ばずにいられない美優。  

 だが。  

 翔太は美優を抱えたまま、見事、無事に着地した。  

 なのに、聞き慣れない音。


 バリン!!!


 土を踏みしめたとは思えない、何かが割れる音。


(え……?)  


 ──土がガラス化している……!


 よほどの高熱でもなければ、こうはならない。

 周囲にも熱が残っていて、そこに立っているだけで、肌が痛い。

 周りの木は黒く炭になっていた。

 虫の声もない。


「な、何、この熱気……?」


 炭になった周囲の木々の内部から、まだ真っ赤な熱源が光っているのが分かる。


「美優、無事か?」


 美優は、翔太の腕から降りながら答える。


「さすがに着地の瞬間は、痛かったけど……体は、どこも痛めていないわ」

「良かった……」


 翔太は腕に特殊なイーナリージアを流し込み、それがクッションになるよう変化させていた。

 うまくコントロールできたようだ。


「何が……あったのかしら……」

「分からない。分からないが……」


 翔太と美優は、周囲を見渡す。

 デルピュネーはどこにいるのだろうか。

 そして、ペルセウスは……?


「デルの身にも何かあったのかもしれない……」


挿絵(By みてみん)

メドゥーサイメージ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマ・ポイント評価お願いしまします!
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ