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道化師  作者: 夜行
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6


 僕の中では生徒会長が犯人だと確定している。ただそう思いたいだけなのかもしれなけど、おそらく間違っていない正解だ。

 あの時に僕だけに見せた笑み。それがすべてを物語っていた。

 あの後、どうなったかというと、先生が来てその場を治めてくれた。僕は違う部屋に連れて行かれて事情を聴かれた。

 盗っていない、と真っ直ぐに言ったし、先生もどうやら僕がそんな大それた事をするわけがないと思ってくれたらしい。とゆーか、そんな僕にはそんな度胸はないだろうとまで言われたが、無実が証明できるのなら何を言われて何を思われてもどうでもいい。

 一応、疑いは晴れた、はず。

 だけどそれ以上に――。

 1番先に誤解を解かなければいけない人がいる。

 あれからラインを送っても返信はない。未読のままだ。電話をする勇気は、ない。きっと言葉に詰まって何も言えない。ただの言い訳の臆病なしだ。

 僕がどういう人間か葉月にしっかりと知られてしまった。きっとこの事件は僕を犯人にするのが目的ではなく、その後の対処のなさを葉月に見せつけて、僕がどれほどダメな人間かを脳裏に刻ませるのが目的だったのろうと僕は思う。

 そしてそれは見事に成功。このまま連絡はとれずに自然消滅。そんなときに頼れる生徒会長がいいところを見せれば……。

 でもあの葉月がそんな簡単に落ちるとは到底思えない。なんたって意思の強い子だ。周りに流されたりしたのを1度も見たことはないし、あの子は激流に流されずにたたずむ1本の樹だ。それほど自分というものを持っている。

 まわりに影響は受けない。

 だったら?

 だったらどうする?

 信じるしかない。

 葉月という人間性の強さを。

 たぶん葉月が僕に愛想をつかすなら、自分を信じてくれなかった時だろう。

 堂々としてればいい。けど、それが1番難しいのも事実だ。

 何この試練。無理ゲーじゃね? とか思うし思ってしまったらダメなんだろうなぁ。

 はぁーあ。どうしたものか。

 たしかに葉月のことは考えないといけないけど、きっと何かをする必要はなにもない。さっきも言った通りに信じていれば、それだけでいいはずだ。

 だったら他にすることがあるだろう。

 そう、仕返しだ! ぶっころ。




  ♠♣♥♦




 仕返しと言っても具体的に何をするかに迷う。選択肢はいくらでもあるのだろうけど、もっとも重要なのは僕が返り討ちにあわない事。もし返り討ちにあったら、その時点で人生終わる。

 同じことをやり返す? のが、まぁ妥当っちゃ妥当。でもこれはリスクが高すぎる。もし仮に誰かの財布を生徒会長のカバンの中に隠す前に見つかってしまったら。

 今回の事件の犯人も僕になってしまう。そう考えるとなしだなぁ。

 何か、何かぎゃふんと言わせるいい仕返しないかなー。あわよくば葉月の事も諦めさせれるような仕返し。

 もう捕まっちゃえば話が早いのに。でもそれを仕向けた僕も危ういよねー。

 言い逃れできないような決定的な証拠が必要になる。

「あークソ、道化師の力がほしい」

 本気でそう思う。そうすれば簡単に話は終わるのに。でもそんな事が起こるはずもない。てゆーか起こったら起こったらで若干困る。だってそうなったら僕は人間じゃいられないわけだし。化け物なんかにはなりたくない。

「一瞬だけ道化師の力が使えればなぁ」

 なーんて思ってしまうのもまた事実。

 でもそんなことはありえない訳で、自分の力でなんとかするしかない。

 そうこうしている内にもう夜が深くなっていた。

「……続きはあっちで考えるか」

 夢の世界へ。道化師の僕ならもっと何かいい案が浮かぶかもしれない。淡い期待を胸に抱いて僕は静かに目を閉じた。

 ゆっくりと眼を開けるとそこに広がるのは眼下に無数の光、ではなくただの公園だった。小さい葉月との遊び場だ。

 結局のところ葉月の小さいころの写真を見せてもらうって約束は果たせていない。これも全部あの野郎の所為だ。

 でも交換条件だから俺の小さいころの写真を犠牲にしねーと。ほんと、あったっけかな? まぁそれは夢から覚めたら探してみっか。

 さぁ今日も楽しく遊ぶぞ。

 と、思っていたら盛大に腹が鳴った。

「…………」

 う~ん、最後にメシ喰ったのっていつだっけ? このままでは死んじゃうぞ俺。そろそろ何か食べないと力が落ちてしまいそうだ。

 でも今騒ぎを起こすわけにはいかないし、どうしたもんか。

 小さい葉月を喰う、なんてありえないし。可愛い過ぎてもったいない。あれだな、人間が食材で作ったりする可愛いキャラとかを食べるのが忍びないとか、そーいった感じだ。

 しかし冗談を言っている場合ではない。

 どうするか。

「ふ~む……喰うしかあるまい」

 だって喰わなきゃ死んじゃうし。できるだけ騒ぎを起こさずに喰う。

 本当は子供がいいが贅沢は言ってられない。それに子供がいなくなれば親は騒ぐ。逆に大人がいなくなっても言うほど騒がない。

 世の中狂ってるよな。

 俺はなるべく葉月の家から遠い場所に移動した。さすがにあの近辺では無理だ。

 俺はひょいひょいと家の屋根の上を跳んで移動する。こうやってみるとやっぱり高さが違うと変な気分だ。地面までの距離が近すぎるし楽しくない。

 偉い人と馬鹿は高いところが好きって言うしな。俺はどちらかな?

 上から見下ろす光たちは最高に綺麗だ。まるで星の上を飛んでいるかのような気分になる。

 俺の道化師としての娯楽? として3本の指には入るね。

 ちなみにあと2つは食事と夕日を見ること。この3つは素晴らしい。掛け値なしに素晴らしい。道化師としての3大欲求と名付けよう。

 食事はもちろん空腹満たすことで幸せな気持ちになれる。誰もが絶対に経験した事があるはずだ。すべてが満たされるようなあの感覚。おまけに俺の場合は前菜(悲鳴やら恐怖の顔)があるから尚の事。

 夕日は救いだ。いつまでも続かない。ある時間限定の産物だ。いつでもどこでも見れる訳じゃないからこそそこに惹かれてしまう。しかも夕方にしか見れないし、俺が夕方から夢の世界に入るなんてこたーとっても稀だ。中々見れるもんじゃない。

 朝日はよく拝むけどな。でもやっぱり夕日には勝てない。

 最近見てないなー夕日。近々見とくか!

「さて、あの家にするかな」

 周りに他の家は一応ある。あんまり周りに家がない家だといかにもって感じで嫌な感じだ。

 家の中には何人いるかはわからない。そんな特殊能力は道化師にはない。まじそんな能力ほしーわー。

「さてさて、どっから這入るかなー」

 さすがに玄関から這入る訳にはいかねーよな。どっかの小窓から這入る? なんか俺コソ泥みてーだな。まぁ今日は良い風吹いてるからどっかの窓があいてんだろ。

 そう思って2階を見上げればカーテンがひらひらと舞っているのが見えた。

 俺は自然と笑みがこぼれる。

 やや態勢を縮めて勢いをつける。そして一気に2階へ。一切の音も立てずに俺はベランダに降り立った。

 さて、どんな人間がいるのやら。

 ゆっくりと中へ這入っていく。なびくカーテンに触れるようなことはしない。中へと這入った瞬間、俺は自分の目を疑った。

「ようこそ」

 女だ。1人の女が椅子に座ってこちらを見据えていたのだ。怖がることもなく、脅えることもなく、ただただ俺を真っ直ぐに見つめていた。

「…………」

 気味が悪い。純粋にそう思った。それは女の態度もそうだが容姿もだった。明らかに病的。しかしそれと相反するように力強い目をしている。俺はそれに気圧されている。

 肌は白く肉などついていない。なぜ生きている、と思うほどの容姿だった。髪は黒く、まるで墨汁の滝のようだ。その黒髪が気味悪くカーテンのように揺れている。見た目幽霊だ。

 俺は女の言葉に返事をするか悩んだ。なぜか会話をしたらいけないような気がしたのだ。

 だからと言ってこの状態のままという訳にはいかない。俺は慎重に、ゆっくりと足を前にだした。

 警戒はしている。それは女だけではなく、その周りにもだ。何かが居る、とは思わないし思えないが、なぜか警戒をしている。おそらくこれは本能的なものだろう。

 俺も女を真っ直ぐに見据えて状況を判断する。女が座っているのは車いすだ。

「足が悪いのよ」

 俺の視線を読んだのか女はそう言った。俺は返事を返さない。

 ゆっくりと、じっくりと観察するように俺は女の周りをぐるりと1周した。

 なんだこの感覚。何かがひっかかる。それが何かはさっぱりわからんが。

「……お前、なんなんだ?」

 思わず言葉に出ていた。喋るつもりなどなかったのに息をするように声が出ていた。

「なんだ、とはずいぶんな質問ね。人間よ、ただの。あなたと違ってね」

「…………」

 見透かされている。まるで心の中が読めているかのような返しだ。

「別に心は読めないわよ。ただの人間だもの」

 ……どこがだよ。

「きっとそんな事を考えているんじゃないかなって」

 ご明察だよクソ女が。

「あなたはピエロ。世間を騒がせている人喰いピエロ。さっさとしてちょうだ」

「……さっさと?」

 何を言っているんだこの女は。

「わたしを食べに来たのでしょう? ご覧の通り、わたしは車いすでなんの力もないただの人間よ。抵抗できるなんて思ってないから」

「だから自分の命を諦めると?」

「そうね。あきらめるわ」

 この女、狂ってやがる。俺以上に狂ってやがる。今までにこんな人間は見たことはないし会ったこともない。純粋に、気持ちが悪いと思った。

「解せない、という感じね。なら少しお話しましょうか」

「話?」

「わたしね、いつ死んでもおかしくないのよ」

 たしかに生きているのが不思議なくらいな姿をしている。

「死を、受け入れているわ。いつこの命が尽きてもいいように準備をしてきた。だけれども、その時はやって来ない」

 いつから待ってやがんだ?

「わからない。いつから待っているのかわからないぐらいの時間が流れたと思う。もう命が尽きる寸前をずっと維持している感じ。気味が悪い」

 自分で言うかよ。

「わたしはね、客観的にものをみてるの。あなたが今見ている光景をまるで自分が見ているかのように見えるわ」

 それは――。

「また気味が悪いでしょう。人間は死が近づくと――狂うのよ」

 狂う。否定はしない。しかし狂い方にもパターンがあるだろう。この女の狂い方は最悪だ。

 冷静に、狂っている。

「自分でも矛盾していると思うわ。きっと世界を探してもわたしほど冷静に狂っている人間はいないんじゃないかしらね」

 人間、なのか。

「たしかに。もうこれは人間ではないのかもしれない。あなたたち、道化師に近い存在なのかもね」

 道化師に……。

「このままの状態がもっと続けば、わたしも道化師になるのかしら」

「なるわけねーじゃん」

 ここは俺の夢の中だ。何を俺の知らない事を口走ってやがんだこの女。

「ならよかった。わたしは化け物になるぐらいなら、その前に自分で死を選ぶわ」

「自分で死にきれねーから今の状態が続いてんだろ」

「まぁそうね。わたしは意気地なしなのよ」

「見りゃわかる」

 女はくつくつと静かに笑った。

 なに普通に会話してんだ俺。未知なる人間に会って俺もテンションが狂っているのか。

「で? どうするの? 食べるの? 食べないの?」

 平然と言ってのける。それに返事をする俺の答えはこうだ。

「誰がお前みたいな気味わりー女喰うかよ」

「そう」

 ホッとした感じではない。むしろ死ねない事を残念がっている風でもある。

「じゃどうするの? 犯すの? 拷問する?」

「どれも却下だな。お前に触れたくない」

「そう。1度ぐらい経験してみたかったわねSEX」

「あっそ。甲斐性なしですいませんね」

 さらっととんでもねーこと言ってくれるなこの女。

「どうせなら子供も産んでみたい」

「お前、死ぬ気ほんとにあんの?」

「あるわよ。死ぬ気満々よ」

 やる気? もとい、死ぬ気に満ち溢れているってなんだよそれ。

「くはっ、ふはは。お前、最高に狂ってやがるな」

 思わず笑ってしまった。

 自分が今までに見たことがない、聞いたこともない、会ったこともない、考えたこともないようなものと遭遇したとき、こんなにも心が踊るものなのだろうか。

 そんな俺の言葉に女は気にもしていない様子だった。

「じゃ、なにするの?」

「うん? うん、あぁ」

 何をするか、か。まぁ、やることは1つしかねーわな。

「おしゃべりでもする?」

「あぁ、そうだな」

 俺たちは意外と気が合うのかもしれない。

 それか数時間、俺たちは時間を忘れて喋った。車いすの前のちょこんと座って見上げる状態でひたすらしゃべった。何を喋ったのかはよく覚えていない。話は脱線に脱線を繰り返してまたそこで話の輪が広がった。

 そんな話の途中で食い物はまだかと俺の腹が催促の音を鳴らした。

「お腹空いてるんでしょ? 右腕ぐらい食べる?」

「喰わねーつってんだろ」

「でもお腹空いてるんでしょ?」

「まぁ、そーだけど」

「だったらこの家から北側に行くとアパートがあるわよ。アパートなら1人暮らしの人多いでしょ」

 まぁそうかもしれんが、同じ人間を売るなよと真面目な事を考えてしまった。

「別にどうでもいいのよ、他人なんて。わたしが死にぞこなってる間に何をしてくれた訳でもないし、これからのわたしの人生において生きようが死のうが影響ないもの。まぁあったとしても、わたしの人生なんてあってないようなものだしね」

「まぁ言いたいことはわからんでもない」

「だったら行ってくればいいじゃない。別に罠とかじゃないわよ?」

 まぁそこは疑ってねーよ。この女は心底そういう女だ。

「んじゃちょっくら行ってくるかなー。あぁ、そうだ」

 俺は立ち上がってからある事を思い出した。

「なに?」

「ちっとよ、相談したい事があんだよ」

「相談?」

「あぁ、すんげー面倒で力じゃ解決できそーにねーこと」

「わたしにその解決方法を聞くの?」

「お前なら答えを導きだせるかもしれない」

「はじめて会った女によくそんな相談できるわね。あなたも大概よ」

「うっせーよ」

 皮肉の雨嵐だ。それがむかつきもせずに心地良いってんだから、まぁ妙なもんだよな。俺はベランダに出て外を眺める。静かな真っ黒な夜だ。都会の夜とはえらい違いだなぁと思う。

 そのまま出て行こうとしてふと気になったことがあった。

「お前、名前なんてんだ?」

 こんなに話していたのに名前も知らなかった。まぁそこは決して重要ではないと思うが、一応礼儀として、会話をするなら名前を呼ぶこともあるだろう。

「名前? 名前ね。なんだったかな」

「なんだ、忘れたのか?」

 普通ならありえないだろうが、この女にとっちゃそれがありえるかもしれないと思ってしまう。

「だって誰もわたしのことを呼ばないから。自分じゃ自分の名前、呼ばないでしょ?」

「まぁ、ときどき1人称が自分の名前って奴もいるがな」

「あら、気持ち悪い」

「若くて可愛いなら許されるんじゃねーの?」

「そうかもね。子供なら許せる気がするわ」

「で? お前の名前は?」

「名前、名前かぁ、なんだったかなぁ……。2文字か3文字だった気がするけど」

「名前は大概2文字か3文字だろ」

「あら、言われてみればそうね」

 くつくつと笑ってやがる。

「マリー、マリーでいいわ」

「いいわ、ってお前、絶対今考えただろ」

「えぇそうよ? だって思い出せなかったんだから仕方ないじゃない。それにそんな感じの名前だったのよ」

「しかもなぜに外人っぽい名前?」

「あこがれ、かしらね」

「あっそ」

「フルネームも考えてみましょうか。マリー……マリー・クラウン、とかどうかしら?」

「イインジャナイカナ?」

 もうなんでもいいや。気にしたら負け。

「で? 道化師のピエロさん、あなたのお名前は?」

 まぁ普通はそうなるわな。一方が名乗ったのにもう一方が名乗らないなんてゆーのはなしだろ。

 かと言ってどうする? 俺もマリーみたいに忘れたふりをして偽名を名乗るか? 

 いや、ダメだろうな。きっとマリーは俺の嘘に気が付く。たとえ嘘をついたとしてそれが嘘だとバレたとしてもマリーはきっとそれを口に出して言わないだろう。そんな気がするし、そんな事をさせたくなかった。

「皐月、皐月だ」

「あらあら、本当に名乗るとは思わなかったわ。意外や意外。そして可愛らしいお名前ね皐月」

「……そらどーも」

 人が気にしている事を言いやがって。マリーは本名を名乗っていない。でも俺は名乗った。対等、ではもちろんないが、まぁ別にいっか、って感じだ。

「それほどわたしが気に入ったのかしらね」

「まぁ殺すのやめるぐらいには、な」

「あら、光栄」

「んじゃ、またあとで」

「はいはい、いってらっしゃい」

 俺は夜にまぎれた。

 最初は警戒していたが、面白い女だ。なんだ今のやりとり。まるで夫婦のような会話だったと気が付いて俺は1人で笑った。

 ほどなくしてアパートらしきものが見えてきた。

「あいつ、ほんとに人間売りやがったよ」

 ジョーカーとは反対だな。人間に味方をする道化師。道化師に味方をする人間。

 まぁ、なんてーんだ? 友人? みたいな感じだろうな。まさか夢の中で友達が出来るとは思わなかった。できることなら現実世界でも友達が出来てほしいもんだ。

 いや、いたらいたでうざそーだな。夢の中だからこそ友人が成り立つのかもしれない。

 さっさと喰って帰ろう。俺の帰りを待ちわびてはいないだろうが、あまり時間がない。あと2時間もすれば朝日が昇るかもしれない。相談ができなくなっちまう。

 俺はさっさと食事をすませる。味わうこともなく、腹に入れるという感じだった。騒ぎになったら困るので血も気を付けた。この場所には俺が気になっている人間2人がいる。こんなところでジョーカーに見つかってバトルわけにはいかない。

「はー満腹満腹」

 さっさと戻るか。

 俺はマリーの家へと引き返していった。

「あら、早かったのね。おいしかった」

「味わってる時間ねーよ」

「せっかちね。ねぇ、人間ってどんな味するの?」

 味? 味ときたか。

「また答えにくい質問をするな」

 俺はまたマリーの前にちょこんと座った。

「普通に肉と血の味だ。ただそれがたまらなく美味く感じる。この世の何よりも美味く感じる。そういう味覚なんだろーぜ」

「生よね?」

「あ? そらそーだろ」

「お腹壊さないの?」

「肉食動物に同じ質問できるか?」

「まぁ、する意味ないわね」

「だろ? そーゆーこった。そーゆー身体なんだよ。人間とは根本的に違う生物なんだろーぜ」

 まぁ夢だからな。

「そう。それで?」

 とマリーは話を切り替えた。相談したい事とは? という事なんだろう。

「あぁ、ちっと厄介な問題なんだがな。実は――」

 俺は初めて会った女に何を相談しているんだと思いながらも口は心臓のように勝手に動いていく。

 起こった事、今の状況、今後の考え。それをマリーに伝えた。マリーはそれを黙って聞いてくれた。





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