第5章 第1次世界戦争編 B-0005 べンツピルス上陸作戦
1914年9月30日 日本国ロシア派遣軍 空軍部 徳川
「偵察機通信途絶。ドイツ艦隊発見の報告、編成の報告と対空砲撃を受けた旨の連絡がありました。編成は戦艦2を含む輸送船多数!!」
予想されていた事態。海上からの上陸作戦に対応するため、日本がロシア方面に持ち込んだ飛行機は全てバルト海上空を飛行している。それ以外の地域では旧来の騎兵斥候。安全領域での索敵であるため損害はほぼない。
「曳火砲撃を利用した対空砲撃だと思う。現在、多数の艦が修理中、入渠している。その搭載対空砲まで臨時搭載した可能性がある。先日の独ロの海上戦闘では水上機の偵察があった。それに対する対策だ…。」
徳川は状況をつぶやく。
「作戦通り…陸軍に臨戦態勢を要請します。」
副官が声をかけると、徳川は首を縦に振り、副官は走りだす。
「さてと…奴らの最終目標はわかっているだが…どこに上陸するか…それが問題だ。」
リガ海軍基地
「緊急出港急げ!!」
リガにいるロシア海軍の小艦艇の乗員たちがあわただしく走る。ドイツ艦隊が来る以上、迎撃に出るしかない。
「ダンツィヒのお返しだ!!」
あの海戦から生き残った艦もいる。当然、兵士も士気が上がっている。
「日本の重砲兵の射程の外に出ないようにせよ。どうせ敵艦隊はこの湾内に来る。兵站路の確保のためにな!!」
ロシア第1軍 司令部
「作戦目標はリガだと⁉わが軍の最大の兵站拠点ではないか!!」
情報は各所に伝わるが、最も深刻に受け止められたのはロシア第1軍だった。リガはロシア第1軍への兵站を担う最大拠点だ。
「敵兵力は偵察機からの情報及びドイツ領内の予備兵力を考慮すれば1個軍規模と思われます。リガを失えば第1軍は第2軍のように壊滅の可能性が高いです。」
「糞!!」
「幸いにも日本軍が首都より前進。既にリガ周辺に広く配備されています。半個軍規模ですがしばらく時間は稼げるかと…」
「第1軍は上陸が確認され次第、後退を開始することを総司令部に伝えろ。そうしないと第1軍が皆殺しにされる。後方に防御拠点の構築を要請してくれ。リガの東側だ。最低でもそこで止めるしかない。」
「了解。」
ロシア サンクトペテルブルク
「日本の飛行機がドイツの艦隊を確認。戦艦2と兵員輸送艦複数を確認。兵站拠点を考慮して敵作戦の最終目標は港湾都市のリガの占領であると思われます。」
情報は王宮にまで伝わる。
「海軍には出せる戦艦はいないのか?」
皇帝ニコライ2世も口を開く。
「残念ながら先日のダンツィヒの戦いでの損害が重く、出撃可能な戦艦は2隻、装甲巡洋艦も2隻それが限界です。敵艦隊と性能を比較すれば」
「新造戦艦は?」
「まだ未就役です。あと2~3カ月必要です。予想よりもドイツの攻勢が早すぎました。1,2番艦の乗員を転用しても艦には艦ごとに癖があります。それに慣れない以上、練度不足は否めません。」
「むしろそれを狙って作戦を早めたともとれる状況であろう。ドイツ側にはすでに新型戦艦が就役しているのだと思われます。」
「動かせ戦艦を投入せよ。タイミングは任せる。」
「はッ」
1914年10月1日 ベンツピルス
ベンツピルスはリガの西方にあるバルト海に面した港湾都市である。造船や木材加工、交易等で栄えた街であり、1913年時点で2万9000の人口を有する。
その沖合にいるのはドイツの艦隊。町の周りにある高地からは砲撃の跡とその結果のまばらになった煙…日本の重砲連隊が計2門配置していた28㎝榴弾砲による形ばかりの応射だった。それは当然、戦艦の反撃により直ちに沈黙させられている。その残骸が煙を上げている
小型の水雷艇に手漕ぎカッターが曳航されて港に向かっている。ボートには陸兵。港湾を制圧するための先遣隊を乗船させている。既に3度目の往復だ。
「切り倒せ!!照準を確保!!直ちに商船、カッターへ攻撃を開始。」
森に隠されていた28㎝榴弾砲の砲台から射撃が開始される。弾種は野戦重砲としての運用が考えられた榴散弾…空中炸裂をする曵火砲撃を考慮に入れた砲弾である。装甲を貫徹しなければならない軍用艦船に対する対艦攻撃には向かない砲弾である。民間船舶には上部構造物を破壊する効果はあるし、弾片防御用の装甲すらないので上部構造であればある程度貫徹する。
さらにカッターなどは穴が開き、沈み始める。陸兵が装備を捨て水中に飛びこむ。
「あそこから打っているぞ!!突撃!!」
すでに揚陸が終わっていた陸兵が動き出す。
「撃て。打ち続けろ!!」
重砲はその動きを無視して砲撃を敢行している。予想済みの事態だったためである。
「独兵突撃開始を確認。機関銃陣地対抗射撃を開始。適宜射撃を緩めるのを忘れるな。敵兵をこの陣地に拘束させるんだ!!」
独 バルト海艦隊 新旗艦 新鋭戦艦バイエルン
「馬鹿どもが。砲兵陣地に接近すれば戦艦の艦砲射撃に巻き込まれるぞ。」
艦隊司令がつぶやく。
「上陸部隊は混乱しています。第3陣、第4陣は海上で大損害を受けています。第1,2陣は各個の判断で各砲兵陣地へ突撃を敢行中。」
陸軍部隊の情報を収集する戦艦搭乗の陸軍士官が報告する。
「小型巡洋艦アウグスブルク、シュツットガルト陣地へ接近しての砲撃を敢行しています。」
副長が双眼鏡を覗きながら叫ぶ。確かに戦艦の主砲よりも軽巡洋艦は砲の威力が小さい。その分、誤射時の損害が低い。
「馬鹿!!やめろ!!装甲が薄すぎる!!砲の威力が違いすぎるのだぞ!!」
日本軍防御陣地
「小銃による一斉射撃と機関銃の制圧射撃を繰り返せ!!確実に殺せ!!」
日本軍の防御陣地は極めて効率的に作られていた。市街地の外側から数㎞以上離れたところにある森の中にある砲兵陣地を守るように市街地側に向けて攻撃できる。この時射撃される可能性が高い建物からはすでに住民が避難させられている。
「糞!!伐採された木を盾にしようにも場所によっては貫通するし、木から頭を出した瞬間に打ち抜かれる。しかも機関銃の射撃停止のタイミングが狙撃タイミングとほぼ同時、そして正確ときたもんだ…。機関銃がやんでも頭すら上げれん。」
日本の正規兵は各員が狙撃の名手並みの腕を持っている。日本の工業力のなさゆえに発生した平時からの猛訓練がそうさせた。
戦時は平時をはるかに上回る弾薬の消費を生む。平時では民間や訓練名目での使用のみ。戦争とは消費量が違う。戦時では消費量が上昇するために供給も増加させる必要があるが、製造能力は容易に急増させることができない。そのため、戦時量産状態の確立まで、平時からの備蓄弾薬を消費する。この備蓄を生むために平時の訓練で消費されなかった分を備蓄する。
そのために次の戦争までの期間が短い場合、弾薬不足になりやすい。史実第2次世界大戦時、スペイン内戦に義勇兵を送った結果、イタリアが同様の状況に陥った。
だが日本は平時の弾薬製造量を多めに見積もり、厳しい訓練を行う。こうすれば平時生産高をあらかじめある程度上げておくことができる。平時生産高と戦時生産高の差が小さければ小さいほど戦時量産体制への移行期間が短くなる。
さらに言えば、猛訓練の結果生じた練度向上は戦場での無駄弾を減らすことにもつながる。
「機関銃兵を倒せ!!機関銃を無力化してくれればまだだし…」
言った途端、狙撃のために軽く頭を出した兵士が頭を打ち抜かれる。
「糞!!」
「逃げろ!!」
「馬鹿!!」
逃げようと木の陰から上がる兵士は足を打ち抜かれ、歩けなくなる。
失敗した攻撃にさらなる戦力の投入は愚策。しかし、撤退もできない地獄。撤退しようもんなら足を撃たれ、地獄に居残りだ。
身動きが取れない。その状況では戦艦からの支援砲撃はない。味方を巻き添えにする。それが目的だが。
「味方砲兵の支援もない、艦隊の支援もない…」
とつぶやいた瞬間、目の前が爆発する。
「艦隊からの砲撃⁉バカ!!俺たちまで撃つ気か!!」
前線の兵士が叫ぶ。
「測距儀はあるか⁉」
「測距儀も上に出した途端、狙撃、破壊されます!!着弾観測をしようにも!!」
「ならこの丸太に穴を穿て!!そこから測距する。銃剣を取り外して無理やりでもいい。丸太に穴をあけろ!!何もしないよりはましだ!!」
「敵巡洋艦に命中弾。敵艦撤退します。」
重砲兵がドイツの小型巡洋艦との戦闘に勝利した。この28㎝榴弾砲は前ド級戦艦全盛の時代からしてすでに威力不足が露見していた。事実、日露戦争時、旅順要塞内に閉じこもったロシア太平洋艦隊への砲撃では致命打を与えていない。艦隊の損失は全て自沈により発生したものである。
だが装甲の薄い巡洋艦であれば致命傷になりかねない。被弾による損傷が出た時点で、戦闘継続は困難だ。
だが、その間に第3陣、第4陣の残存が上陸。彼らは別の目標に対する攻撃を開始しようとしていた。
ベンツピルス 東森林内 日本軍ベンツピルス防衛司令部 兼 第3常備師団所属第3常備旅団司令部
「各陣地はドイツ軍上陸軍の第1陣および第2陣 およそ2個連隊の拘束に成功中。敵艦艇からの砲撃を事実上阻害させております。」
「この間に上陸用の小型艇(当時は上陸用舟艇の類はない。) の損害を蓄積させろ。」
砲兵隊への命令はこれだった。これが現在の戦局を生んでいる。
「兵站は問題ないか?野戦軽便鉄道は無事だろうな。」
「森林による隠蔽により空からの偵察でも気が付かれることはないでしょう。蒸気機関車の煙も囮の煙を多数炊くことで偽造しております。強いて言えば敗残兵の一部が鉄道の存在に気が付いて攻撃を仕掛ける場合…ですかな?一応、鳴子を使用した仕掛けで敵情をわかるようにはしていますが…」
「ならば問題は夜か…何しろ冬が近い…日没も近いだろう…夜になれば狙撃の成功率が激減する…」
「撤退しますか?」
「仕掛けが生き残っている陣地は死守だ。仕掛けを失った陣地は撤退だ。失った陣地は?」
「今のところありません。戦艦の主砲弾を食らっていたらダメでしたでしょうが。」
「上出来だ。だが、敵が撤退した場合は重砲兵陣地を捨てること。罠を忘れるなよ。」
「了解。」
ドイツ上陸軍司令部
「第1,2陣上陸部隊の第・歩兵連隊は戦力の半数を喪失、壊滅状況です。しかも、撤退しようにも狙撃されます。再編可能な安全地帯へ撤退ができません。再編しようにも補給物資の輸送スケジュールを考慮してこの状況では補充兵の輸送も困難です。」
「桟橋も自爆されましたからな。輸送船桟橋に横付けしての揚陸は困難です。工兵隊が修繕作業をしていますが、数日はかかることでしょう。」
「第3・4陣の第・歩兵連隊は戦力の1割程度の損失です。隊内での再編成ができ次第、戦闘への投入は可能です。ただ…」
「第1・2陣の被害がひどすぎるか…」
「便宜上、第・歩兵連隊を再編統合すれば、1個連隊として扱えます。ただ再編自体が現状不可能ですので…一応、第1・2陣でも徹底に成功した兵がいますので第・連隊に回せば…同連隊の補充にもなります。しかし、現状指揮下にある兵士が2個連隊規模になることは事実です。」
「1個師団中、半数の兵力を失った状態といいたいんだな。」
「はい。」
「仕方ない。それを採用する。2個連隊は動かせる。あの砲兵陣地をどうすべきか?」
師団状況の整理及び再編についての会議が作戦会議に移行する。その最中伝令兵が飛び込んでくる。
「日本軍の使者がこれを持参しました。」
緊急連絡を報告に来た伝令が1枚の手紙を持って来ている。
「撤退に失敗した兵士のほとんどが捕虜になった。下手に砲兵陣地を砲撃できなくなったぞ。何しろ捕虜ごと打つことになりかねん。」
1914年10月2日 AM03:00 第3重砲陣地
「砲兵の連中は砲を捨てて撤退か…旧式砲とはいえもったいないことですね。」
「仕方あるまい。砲の設置にだって丸1日以上かかる。どうしても放棄するしかない。ま、新品捨てていくよりはましだ。」
「ハハハそうだそうだ。」
砲兵陣地からは砲兵がすでに撤退している。現状守備兵だけだ。守備兵も順次撤退を開始している。守るものがない陣地ほど守る必要がないものはない。だが、撤退時間の関係で1個大隊…560名ほどが各陣地に残留している。
「総司令部への埋め火点火線の展開は成功しております。」
「だが夜襲に最適な時刻だ。軍を動かすのはまずい。それにこの守備を撤退させる野戦軽便鉄道の騒音は危険を生むやもしれん。砲兵の撤退でも鉄道馬車方式で騒音なしで撤退したのだぞ。」
「で、捕虜はどうするんです?投降を条件に砲兵陣地に収容しましたが、人質に取っていると言われかねませんが…。」
「輸送力は足りないという名目でとりあえずここに放置だな。武器は頂戴した以上、抵抗はできんだろ。」
守備隊の2人の中隊長が話している。その中飛びこんでくる伝令兵
「敵襲です。」




