第5章 第1次世界戦争編 G-0004 戦いの前
戦闘描写はほぼなし戦闘前の準備や落としどころを探る段階ですね。
1914年10月29日 AM9:00 アレキサンドリア 日本軍司令部
ポートサイド陥落についての情報はすぐにアレキサンドリアの日本軍司令部に伝わる。
ここには第2近衛師団と第1常備師団司令部があるが、ここにいる司令官は第1近衛師団司令官の柴五郎中将とフランス方面派遣軍総司令の浅田信興大将の2人とその直属の参謀たちだけである。
いまだスエズ運河を通過していない第1・3歩兵師団のうち第3師団司令部と第1常備師団司令部要員はすでにフランスに入国現地での情報収集にあたっている。(第1師団司令部は移動中の部隊を指揮。)
「スエズ運河がオスマン帝国軍に占領されました。」
報告に来た若い士官が叫ぶ。
「スエズ運河の閉鎖状況は?」
柴がとっさに聞く。
「ポートサイドには戦艦、スエズには駆逐艦と巡洋艦数は…」
「もういい。完全に封鎖されたことだけがわかれば十分だ。第1・3師団は通過不能ということだけがわかる。直ちに無電電信を飛ばせ。」
「設営されておりません。」
「英国の通信部に頼め。急げ。「スエズが占領。封鎖されたから引き返せ。」だ。急げ。」
「了解。」
「英国軍はほとんどいないはずだよな。柴中将」
「はい。浅田総司令。一応砲兵などはいますが、それでも連隊規模。退却中の部隊を含めて5~6000いればいい方でしょう。我々に手を貸せと言ってくるでしょう。」
「しかし、今回のオスマン帝国の行動に非はない。交戦してよいものか…」
「本国の返答を待つしかありません。いいえ。本国の返答を待つと時間稼ぎしてください。それ以上に問題なのが武装の不足です」
「イタリアからの輸入兵器を使用して日本からの船舶量を減らすそのために武装が少ない。訓練目的にイタリアからアレキサンドリアに輸送した小銃も弾薬を優先したために少ない。全員に小銃を割り当てることすら困難だ。」
「特に砲兵は全員分の砲すらありません。これも小銃と同様の状況です。」
「近衛師団しか、武装はない。近衛師団のモ式連発銃と随伴砲兵だけだな。まともな戦力は。」
「武装は英国の倉庫を頼りましょう。それと指揮権も。総兵力が多い方が握ることを強硬に主張。海岸線への布陣を避けましょう。」
「君の判断は正しい。そうしようか。」
アレキサンドリア 英軍駐留地域倉庫
「予備の兵器か。あまり数はないぞ。」
英国の倉庫を訪れた士官が英国の士官からそういわれる。倉庫の中を確認すると埃だらけだった。
「記録にない武装とかあるか?」
「あるだろうな。退役兵器とか…噂をすれば出てきたぞ。」
箱から取り出して英国士官が見せてきた小銃はかなり埃をかぶっていた。
「かなり古そうだけどなんだ?」
「リー・メトフォード。1895年に生産が中止された黒色火薬用小銃。まあ、現用銃弾の無煙火薬でも使えるけど5000発も打てばライフリングが削れて命中精度がかなり落ちる。まあないよりはましというレベルかな?」
「ほかには?」
「リー・エンフィールドの在庫は少ないよ」
英国士官は肩をすくめることしかできなかった。
1914年10月30日 日本国大本営
「英国からはスエズ運河の防衛線への参加要請が出ています。」
大本営では英国の要請についての話はすぐに軍部での議題に上がる。
「英国からの供与を含めてもアレキサンドリアに駐屯中の全兵士の3割が非武装です。」
状況は最悪だ。まともに使える戦力は自前の武装を持っている近衛師団だけだった。
「オスマン帝国の兵力は?」
「海上戦力に関しては戦艦4、巡洋艦3、駆逐艦8陸上戦力に関しては不明です。」
「何もわかっていないのと同じではないか!!」
「沿岸にわが軍を配備するわけにはいかない。指揮権は確実にわが軍が奪い取れ。」
「艦砲支援がある領域ではまともな戦にはならん。ナイル川までは進出される。水不足の解消と双方のナイル川を利用した河川防御に移行する可能性が高いな」
戦局は誰もが悪いと考えている。それは現場でも後衛でも同じだ。
「アレキサンドリアの陥落は確実に防ぐことこれを作戦目標にしないといけない状況である。そしてそれはわが軍が交戦しなくても実現できる。どうせナイル川東岸は死守困難だ。」
そんな会議の中、急報が飛び込んでくる
「緊急電です!!第1・3師団の乗船する船団が拿捕されました!!」
それは日本陸軍にとってスエズ戦役の泥沼にはまる一因となるのであった
同刻 アレキサンドリア 日本司令部
「どうやら英国通信所が船団への通信を怠ったために起きたことのようです。」
情報収集にやった士官が報告に来る。
「最優先と英国に申したはず!!」
その報告に怒りをあらわにする参謀
「怒っても意味はない。これが何を意味するのか、その対策を考えるのが優先だ。」
浅田信興大将がその場を鎮める。
「本国の様子は予想できるか?」
「どうやらすぐに情報が文屋に嗅ぎ付けられたか情報が流されたか知りませんが既に号外として流れています。国民は憤怒にあふれていると思われます。」
「まるで此処のようだな。」
「わざとらしいですね。私は何者かが意図的に情報を流したと推測します。」
と、意見を出すのは前田利為中尉だった。加賀100万石で有名な前田家のこの時点での当主である。
「仕組んだのは何者か?」
「この事件で最も利益を得る者。そしてそれが実施できる者は一つと考えます。」
「英国か…。」
「かの国ならばやりかねません。」
「そういえば前田君は独英双方に私費留学経験があったな。」
正しくは英国留学中に開戦したためにフランス派遣軍に欧州から合流した。
「はい。そこでは様々なものを見てきました。英国の手口。アヘン戦争を見ればわかります。」
前田がそういうと参謀の一人が
「アヘン戦争はだいぶ昔のことでは?」
と言うが、前田は無視する。
「英国にとって今回だけを見れば、日本国民の対オスマン帝国感情を悪化させること自体がスエズ奪還のための兵力を確保することになります。」
「今後を考えれば?」
「一例では自国のオスマン戦艦強奪に伴う反英世論の抑制といったところでしょう。あとはフランスへ行くわれらを自国の利権のための戦に投じるといったところでしょう。」
「そのほかについては?」
肩をすくめる。
「しかし、英国の好きにさせるわけにはいきません。第一、英国のやり方は好きではないでしょう。」
「確かにな。おそらく、時間制限は英国の援軍到着まで。日本の戦力よりも英国植民地軍の戦力が大きくなった瞬間指揮権を強奪し、我々を矢面に立たせることになる。」
「いいえ。半分でも危ういと思われます。」
「ならば制限はオセアニア軍団の到着か…」
「いいえ。メソポタミア方面戦線に投入予定だった英印軍第6師団です。輸送中に進路を変更。ポートスーダンに向かっています。」
「その間に戦闘で解決することは困難です。外交的な交渉を行うしかないと思われます。」
「各人、英国にもてるだけの縁を使い、こちらからも逆に世論操作を行うべきでしょう。そして、戦は英国の援軍が到着する前に外交的に解決すべきです。そうでなくては矢面に立たされかねません。私は私の人脈を使います。柴閣下。閣下も各国受けが良いのでご協力お願いします」
「オスマンへの交渉はどうする?」
「回航中の戦艦の艦名の由来になった山田虎次郎氏と連絡を取り、交渉させるべきと愚考いたします。」
「山田虎次郎…か。」
オスマン帝国占領下 地中海洋上 山田虎次郎
「申し訳ございません虎次郎さん。ご迷惑をおかけいたします」
山田虎次郎はポートサイドに呼ばれた。協商側陣営に民間人乗船の旨を連絡したうえで民間商船を傭船。食料、飲料水とともに山田虎次郎はスエズ運河地中海側の港町に向かっている。
「いいえ。同胞を助けることをお許しいただきありがとうございます。」
目的はスエズ運河東側に設けられた日本人収容区 の世話と通訳のためだ。
「日本はエルトゥールル号以来の友人です。この度の不幸な事態でもできるだけの行動をしなくてはなりません。」
「ありがとう。」
船はスエズ運河に向かって南下する。通訳の必要性は急ぎだ。当然最短距離だ。
「あの船はなんだ?」
たまたま前方を見ていた虎次郎はある船に気が付く。水平線上にほとんど煙突しか見えない。隣の男は隣の水員に望遠鏡を借りる。
「迎えでしょうか?」
スエズには戦艦以外にも駆逐艦8軽巡洋艦3がいる。1隻ぐらいお迎えの護衛に来るかもしれない。
「イタリア海軍です。」
マストに上がるのはイタリア海軍旗
「サイズ的には駆逐艦です。艦種識別可能か⁉」
海軍士官がいてもわかるわけがない。かつての戦争で敵国であったが、この船は民間船。海軍船舶のことなどわからない。
「イタリアは中立国です。しかし、人道的理由を名目にセルビア救援に参加して難民の避難を実施しており、国家的には協商よりです。」
「戦闘状態ではないはず。本国からの無電もない。」
近くに寄ってきた上等水員が状況を報告する。
「接近してくるな。」
船はどんどん接近してくる。そして回頭を始める。そしてしばらくしてイタリア艦は並走状態になる。
「英国旗!!」
駆逐艦のマストの旗は架け替えられた。
「停船旗!!」
砲身はすでに商船の方向を向いていた。
エジプト ドゥミヤート エジプト方面司令部
この時点で日本が主導するエジプト防衛戦線の防衛司令部はナイル川河口都市のうち一番東側にあるドゥミヤートという都市だった。ナイル川を中心に町があり、東には地中海とつながった汽水湖が広がる。
「通達の船が英国に拿捕されただと!!」
そこに駆け込んできた知らせは状況を悪化させるに十分だった
「交渉予定内容が漏れたのか⁉」
「いいや内容までは漏れていないはずだ砂漠のど真ん中のテントでわざわざ会議をしたんだ『何か企んでいる』程度の情報しか!!」
参謀たちが騒ぐ。
「何か企んでいるからの予防線と思われます。そのため民間人である山田氏を事実上拘束したのでしょう。ならば奪還するのみです。海軍が置いて行った水上機を使いましょう。これ幸いですから交渉文書を持たせ、スエズに送り届ける。英国のこの行為逆用しましょう。」
英本国 サー・クロード・マックスウェル・マクドナルド 邸
「柴…」
クロード・マックスウェル・マクドナルドはエジプトからの無電を受け取っている。いや正しくはエジプトからパリに送られた暗号電をさらにロンドンに打電したものである。これは機密保持のためだ。パリで一度電文を回収できたのであれば、監視しなければならない電文が膨大な数になる。
「確かにそうだな。あの事件も…我々が悪辣だったことが原因だったともいえよう…」
第1近衛師団師団長である柴五郎はクロード・マックスウェル・マクドナルドとのつながりがあった。義和団事件という当時の清国による列強に対する宗教組織の反乱とそれに便乗した清王朝と列強との戦争。その際に起きた戦いでの戦友だった。
特に北京は最悪な戦場だった。援軍は輸送用鉄道が破壊されたために来るのが遅れた。それ以前には清国役人に日本公使や独国公使が殺害されている。
その状況下で宣戦布告。北京の各国軍は義和団兵、清国正規兵をの圧倒的戦力差、そして士気の差を相手に籠城戦をしなければならなかった。
いや籠城とはおこがましい。近代的な城なんてない。あったとしても守備兵不足で守備範囲を狭める必要があり、結局城壁を放棄するしかない。そうなれば大半が民家や非防衛施設などを改造した急造陣地だ。攻撃するのに特別な装備は必要ない。
この場合は通常の攻城戦や野戦とは違う。攻撃側に必要なのは防衛側を上回る兵力と味方の屍を踏み越えていけるだけの士気だ。反列強・宗教の力で集まった兵力、反列強・宗教の力で保たれた士気。いくら武装が鉄砲すら持たない貧弱さでも大苦戦する。
この時、事実上総指揮を執ったのが柴五郎だった。この戦いが終結し、半年後には日露戦争のための日英同盟が成立した。
「あの時、私は同盟を後押しした。そして彼らはそれに答えた。(日露戦争では) 我々の代わりに戦ってくれたようなものだ。」
英公使館などは壁が破られ陥落寸前のところを日本軍に救援された。日本軍が守っていたのは最重要、且つ最大の敵兵力を抱えていた重要拠点だったのにもかかわらず兵力を割いてくれた。
「それに我々は常に中国から略奪した。特にアヘン戦争など祖国にとって永久に恥さらしになる戦争だ。柴は今回の件を同一視しているようだ…」
非正義な戦。それは英国自身がわかっている。
「オスマン帝国に対する影響力の確保…ロシアに対する戦略だろうな…オスマン帝国のロシアへの接近は避けなければならない。地中海に再建された黒海艦隊が出てくればスエズが危ないということか…」
しかし、その戦略の段階でスエズが占領されるのは本末転倒である。直ちに奪還されるとしてもだ。
地中海 オスマン船籍民間船
民間船は停泊している。いや民間船が英国海軍の指示に従わず、停船したということだ。
「山田虎次郎氏を引き渡してもらいたい」
日本の水上機が停船を要請、その旨を記した通信筒を投下したためだ。英国は渋る。山田虎次郎の身柄をできるだけ英国で確保しておきたかった。虎次郎は日本が唯一保有するオスマン帝国へのチャンネルである。それがスエズに向かうこと。これはオスマン帝国からの1種の交渉アピールともいえる状況だった。
「山田氏は日本国国籍保有者である。日本軍が保護するのは当然だ。」
交渉とは何か?敵と通ずるのか?少なくとも情報という意味だけでも日本に利する。そして日本がエジプト防衛軍の指揮権を有している以上、英国は日本のやることを妨害することが困難だった。
だからこそ山田を確保して英国の指示下にてオスマン帝国へのチャンネルとして活用したかったのであろう。この状況で日本の捕虜を解放できればそれは英国の手柄。この捕虜を事実上英国が生んだという不利な前提状況をも打ち破れるだろう。
(開放するしかない…日本の言い分がはるかに理論的だ…それに山田を駆逐艦に移せていない…ここでは孤立無援だ…だがなぜここまで焦るのかがわからんが…)
民間船を拿捕した駆逐艦から移乗した士官は周りの圧力に抵抗することはできなかった。表面上抵抗するオスマン船員、表面上交渉する日本人。交渉はまとまり、山田虎次郎は水上機の後席に乗り込み、ドゥミヤート エジプト方面司令部に向かうのであった。
どんどんコメントお待ちしていますね。さみしい。
コメント=ガソリンです。




