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改史 大戦  作者: BT/H
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第5章 第1次世界戦争編 G-0001 病人の怒り

 病人とはかつてイスラム世界の覇者であったが、第1次世界大戦前には国力を奪われ、瀕死の病人と呼ばれていたオスマン=トルコ帝国のことを指します。

 史実では事実上とあるものが奪われたことにより、協商陣営と敵対します。

 1914年7月24日

「緊急電です!!英国で建造中の我が国の戦艦が英国に接収されました。」

 未来のトルコである現オスマン帝国はこの時点で世界からは瀕死の病人と呼ばれていた。かつて東地中海を支配するに足る国力はすでになく、その国力の根源たる海軍は旧式化、整備不良、兵員不足、練度不足で動く船すらないともいえる状況だった。

 史実において1908年に発生した青年トルコ革命は海軍にとっては極めて好都合だった。どの問題も動く船なしでは解決しない問題だ。この革命を主導した人間たちは海軍を再興しようとした。西洋列強の退役艦(それまでは旧式艦でもないよりはましと思われているほどひどい状況だった。) を導入し、再建を開始した。しかし、直後のイタリア=オスマン戦争や第1次バルカン戦争で事実上の敗北を期す。特にギリシャとの交戦による敗北はオスマン帝国にとって重大だった。海軍力が劣っているとみなされていたからだった。

 ただし、ギリシャは歴史的に海軍国であり、オスマン帝国に支配されていた時代に多数の海軍兵を輩出し、オスマン帝国海軍の精強さを維持していたことを考えれば額面戦力以上の戦力であることは疑いない。

 その結果を見たオスマン帝国は英国に対して新造戦艦の建造依頼を行った。史実において新造戦艦は第1次世界大戦に伴い、のちの英首相、当時の海軍大臣のウィンストン・チャーチルの命令で接収されている。これが国民の怒りを買い、結局同盟陣営に押しやることになった。

 改史では第2次米墨戦争の影響をまともに受けた。

 1つ目は革命の時期だ。実質的に第2次米墨戦争(第1次米墨戦争も因縁のような理由(これもこの戦争をきっかけに米国の常套手段化している。) で開戦、当時のメキシコ領の3分の2を奪っているのだが) は日露戦争直後に米国が行った侵略戦争だった。

 さらに日露戦争の講和条約でのロシアから日本への割譲範囲にウラジオストックが含まれていたこと。これはロシアの極東域での南下政策の断念と他地域…すなわちバルカン半島・黒海方面・コーカサス方面・アフガニスタン方面等への国力の注力への危機感。

次は我が身という恐怖から革命を主導した青年将校たちは早急な革命を行った。史実よりもおよそ1年早い革命はその分だけ1年早い海軍再建を行うことになる。

 そして2つ目は第2次米墨戦争後の中南米の軍拡。英独を含む各国の軍用艦船の大量輸出による中古艦の不足だ。史実において輸入できたドイツ艦がすでにメキシコにわたっていたこと。中古艦相場の高騰から早急な新造艦発注が行われたことなどだ。

 ただし、英独の建艦競争が史実よりもひどく、それに影響を受けた各国ともに建造数を増やした関係で国内の軍用造船産業を圧迫。建造力に余裕のある国家に生産させ、輸出する体制をとっている例も多く、その代表がオスマン帝国の輸入艦だ。

 オスマン帝国戦艦は全て英国経由で発注された。改史におけるロシア帝国の黒海艦隊の大規模増強(ド級8隻、超弩級4隻を1915年中までに保有と推測していた。) に対抗してド級6、超弩級6を整備する計画だった。

 このうち英国で建造予定だったのはド級1(史実の英名エジンコート)、超弩級2(史実英名エリン級) だけであり、ド級5隻は英国設計、スペイン建造のエフスターフィー級戦艦(こちらも史実よりも早く建造が開始されている。) をスペイン国内で船体を自力航行できるまで完成させたうえで英本国に回航し、艤装を行う。超弩級4隻は英オライオン級を原型に日本で建造。砲、機関を英国が手配。日本国内(正しくは戦後新設の旅順海軍工廠) で航行可能な状態まで完成させ、英本国に回航。砲を乗せる工事を行う(すでにトルコに編入されている2隻は英国回航を経験しているが残り2隻は日本国内で砲まで搭載を予定。) 方法で建造された。

 1914年WW1開戦時エスパーニャ級1隻、オライオン級2隻が編入されていた。

「レシャディエ(エリン)級2隻、スルタン・オスマン1(エジンコート)、ハイレディン・バルバロッサ(史実の旧式ドイツ艦の艦名)(西エフスターフィー)級2(残り2隻は建造中)いずれもダメです。兵は銃剣で脅され、船を下されました。」

「日本から回航中のエルトゥールル(和歌山沖で難破したエルトゥールルにちなみ命名)級は死守しろと命じろ!!電信員を呼べ!!」

 日本で建造されたオライオン級の3,4番艦がスエズ運河経由でトルコに向けて回航中だった。この2隻も接収の恐れがある。それに対しての警戒警報を出さなければならなかった。


  インド洋西部 オスマン帝国海軍戦艦 ファティ (エルトゥールル級3番艦) 艦長室

 オスマン帝国海軍の超弩級戦艦ファティは同型艦のトラジロウ(エルトゥールル号遭難時に義捐金を持参した山田寅次郎にちなむ) はもうすぐスエズ運河を通過し、付近の港であるポートサイドに入港する進路をとっていた。

「本国から入電です。英国国内にあった我が国への引渡し前の戦艦群が全て英国に接収されたとのことです。」

 場は凍る。報告が意味することは2隻の戦艦がトルコに帰還できない可能性を示したものだ。

「それで警戒しろと。報告時は命令を全文のべよ。具体的命令がないのであれば我々で行動を判断せねばならん。」

 トルコ人艦長が通信兵に聞く。

「申し訳ございません。警戒命令のみ具体的な指示はありません。」

 通信兵が答えると「失礼いたしました。」というと艦長室をあとにしようとする。

「待ってくれたまえ。」

 通信兵を呼び止めるのは下村 忠助中佐だった。史実においてユトランド沖海戦に観戦武官として参加し、乗艦である巡洋戦艦クイーン・メリーの爆沈により、妻と1男1女を残し、運命を共にした軍人である。改史では第1次世界大戦の危機を考慮して、すでに本国を出港したオスマン帝国回航艦隊に水上機、高速艦艇を乗り継ぎ、補給のためにインド入港中だったと同艦隊に合流した。

「英国の戦艦接収行為が敵対的行為なのか戦時のために行われた一時的な行為であり、戦後、艦艇が返却されるということであるのか、その代価が存在するのか、本艦隊の安全に関する情報が全くない。それを伝えてもらいたい旨を打電してほしい。内容は任せる。」

 下村にとっては重要な事だった。回航艦隊には他にも日本軍人が参加していたが、彼の到着により、その日本人たちの頂点についた。彼らに対する責任がある。

「は?」

 通信兵の頭には?マークが浮かぶ。

「馬鹿者。敵対行為ではなく一時的な行為である場合、当方からの砲撃などしてみろ。開戦の口実にされるわ。今後の方針を決めるのに必須な情報である。」

 トルコ人艦長がそれに対して補足説明を通信兵をどやしながら伝える。彼も同じ内容を疑問に思ったようだ。

「了解!!」

「艦長。それに付け加え、行動および距離に応じて迎撃はする旨も伝えさせてもらいたい。」

「下村中佐!!」

「私の使命はこの艦隊をコンスタンティノープルに送り届けることだ。そのために必要な手段はとる。」

「下村中佐…わかりました。通信兵!!」

「了解!!」

 彼は艦長のデスクから立ち上がり、艦橋に向かう。

「当直。トラジロウの艦長を本艦に呼べ。そのための行動は全て副長に一任する。あちらの指揮も一時的に副長に取らせろ。」

「艦長。私は私室に下がります。」

「うん。兵を呼びに行かせる。」

「ありがとうございます。」


 英首都 ロンドン

「英国の意思を確認したい。我々の要求は話したはずだ。」

 オスマン帝国大使館の人間が英国との交渉をしている。英国が接収を決定した戦艦はすでに納入されている戦艦、完成前に輸送中の戦艦すべて。ド級戦艦5、超弩級戦艦2隻だ。(史実よりもはるかに多い戦艦を建造依頼している。)

「当面は使用したい。」

 としか答えない。

「この戦艦には我が国の国民が爪に火をともすように集めた金が使われている。それに対し責任ある説明と責任を果たす約束と担保が必要だ。」

 言いたいことはわかる。だが英国としても戦争が始まっている以上、今すぐに金を出すことはできない。

「戦後、引き渡す。」

 端的に返す。

「断る。我が国はロシア帝国の黒海艦隊を相手にしなくてはならん。黒海艦隊の戦力増強に対し、1914年までに超弩級戦艦5、ド級戦艦3隻の引き渡し、15年までに全艦の引き渡しが条件だ。」

「ロシア帝国はすでにドイツ帝国に参戦している。ロシア帝国はオスマン帝国を攻撃する余裕はない。」

「相手はロシア帝国だけじゃない。ギリシア王国は我が国以上の海軍力を有している。ギリシア海軍に対抗するための兵力が必要だ。」

「現時点でのギリシア海軍はオスマン帝国の海軍力よりも低い。現有の戦力だけで十分だ。」

 確かに現時点のギリシャ海軍は前ド級戦艦2、装甲巡洋艦1だ。しかし、英国(日本で建造) に超弩級戦艦4 (2隻が英国に接収)、ドイツ帝国に超弩級戦艦1隻を発注している。

「同時に相手しないといけない状況を考えろ!!」

「同時に相手などありえん。ロシアはドイツ、オーストリア=ハンガリーと開戦している。その上貴国を相手にするなんてありえん。」

「単独講和の可能性を考えろ!!勝敗問わず次の目標は我が国になりかねん。練度不足の兵で勝てるか⁉海兵を艦に慣れさせる必要がある!!」

「単独講和はあり得ない。」

「日露戦争での勝敗はあり得ないはずだったのではないか!!ありえないということはあり得ない。単独講和ののち我が国が攻められないとは限らない。その時にはロシア艦隊はどうなっているかな?戦時体制による建造ペースの加速化でさらなる新鋭戦艦就役の可能性だってあるのだ。貴国はどういった用件で我が国の戦艦を接収した!!ドイツ帝国相手には接収せずとも十分な戦力が揃っているではないか!! 」

「そのような状況では引き渡す。」

「信用できない。担保を求める。保有できない期間への補償を求める。」

 議論は平行線をたどる。

「双方…そのような話の前に1つ問題がある。」

 口を開くは日本の駐在武官だ。

「完成し、日本から回航中の戦艦2隻これをどうするかだ。」

 駐在武官の発言は議題を上乗せしただけだった。双方ともに主張は変わらず、議論は平行線をたどるしかなかった。


 現地時間1914年7月30日AM3:00 ポートサイド オスマン帝国回航艦隊

 戦艦 トラジロウ (エルトゥールル級4番艦) 艦橋

 オスマン帝国艦隊は事実上の英国保護国たるエジプト (名目的にはオスマン帝国の保護国) 領たるアレキサンドリアにて食料、燃料を補給している。しかしその作業は遅々として進んでいない。その中、2隻の艦橋にそれぞれ数名の英国海軍士官が乗り込んだ。

「建造は日本だが、契約は英国。英国が日本に建造を委託しただけの艦である。ゆえにこの2隻も接収の対象とする」

 とのことだった。トルコ人船員は抵抗、双方犠牲者を出しつつ、船からたたき出された。甲板から物理的に海面に落とされたものもいる。

この艦には当然、同盟国である日本人船員・海軍軍人も乗艦している。トルコ人が彼らを人質にする可能性は低いだろうが、複数の意味での危険性はある。英国士官たちは彼らの保護に向かった。しかし、そこにあったのは割腹自決を遂げた下村中佐の亡骸と数名の日本人だけだった。


 下村は史実でもお亡くなりになっている軍人です。彼は海軍大学校主席卒の優秀な人間だったそうです。彼と海軍大学の同期には太平洋戦争中、前後に大臣や侍従武官を務めた人間すらいる。彼が生きておればかなり歴史は変わったかもしれませんね。でも想像するのが大変で、死んでもらったほうが早いと判断いたしました。第1次世界大戦に参加する作品を見ても表現されていないことが多いですよ。完全に存在が忘れられている感がありますね。


 2021年12月24日~25日まで複数回(3回かな三多)連続更新を予定。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 史実から変化した部分が詳しく、当時の情勢が理解しやすくて助かります。 [一言] エルトゥールル級2隻の接収は日本からの反発が大きくなりそうですね。
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