第5章 第1次世界戦争編 E-0009 追撃の再開
1914年8月31日 AM4:00 マルキース島 第10戦隊旗艦 御岳
「糞逃がしたか!!」
第10戦隊の指揮官である秋山少将は悔しがる。最も北にて哨戒活動を行っていた第10戦隊は最速でマルキース島に帰還することができた。しかしそこには彼らはいなかった。およそ20時間前に朝日に向かうように出港した。
「提督!!」
「申し訳ない。わしの読みの甘さじゃ。」
「提督。敵をとってくだされば結構です。」
「敵の位置がわからんのにどうするというのだ。」
「実は第3派の夜襲の際に緊急出港したドイツ装甲巡洋艦2隻を確認。当方の防護巡洋艦矢矧が送り狼になり、追跡中なのです。給炭船も1隻生きております。位置報告を考慮に入れるとおそらく目標はピトケアン諸島です。」
「御岳と恵那を両舷に接舷。石炭の補給を急げ。」
「了解。」
ドイツ東洋艦隊 参謀 アドルフ・ラインハルト
「やはりつけられています。煤煙が見えます。」
見張り員が指揮官に報告する。
「厄介だ…行先がばれてしまう。」
参謀の一人がうなる。
「追跡艦隊が来る…」
絶望に打ちひしがれるものもいる。
(馬鹿考えろ。無様でいい。生き残るすべを考えろ。)
「しかし目をつけられた以上、奴らは自艦の燃料が切れるまで追い続ける。日本の追撃艦隊が来ます。」
「散開するか?」
「追跡艦が1隻とは限りません。奴らの残存艦は少なくとも3隻。何隻追撃に出しているかわからない。2手に分かれても生き先は同じですし、位置が報告されているのに逃げようがありません。」
我慢できない。口を出す。
「それよりも夜間。気が付かれぬように進路を変更すべきです。そしてそのタイミングで速力を上げ、敵を振り切りましょう。」
「集結地点も変更しなければならん。燃料消費が速くなるのならば補給地点も近くしなければならん。補給船の位置は確かメキシコからこっちに向かっている。となると…イースター島か。」
「少し進路をずらすことになる。おそらく日本艦隊の主力はドレーク海峡に先着するだろう。だが当面生き残れる。今日を生き抜けぬものは明日を見ることができません。提督。ご決断を。」
1914年9月1日 AM00:00 マルキース島
「矢矧から入電。見失ったとのこと。矢矧からは燃料がすべてなくなるまで捜索するとのことですが」
「無意味だ。最寄りの島に停泊させろ。補給が来るまで矢矧の戦は終わりだ。死ぬな。」
「了解。」
「問題は敵がどこに向かうかだ。この進路変更で迂回するにしても目標を変えるにしてもその目標さえ押さえればこちらの勝ちだ。どこに向かうと思う。」
「提督。それには答えが出ているのですよね。」
「だから聞いている。私の中ではこうだ。奴らはピトケアン諸島にはいかない。だ。どこに行くか。」
「だからその答えも出ているんでしょ。捕虜になってた連中の答えで。」
「馬鹿。自分で考えろ。わしがいなくなったらどうする。」
1914年9月1日 AM01:00 ドイツ艦隊
「およそ30分おきに敵艦が打電していた定時通信暗号電の内容が違います。解読こそできませんが、おそらく敵追撃艦を撒くことに成功したようです。」
「速力そのまま目標イースター島。」
「イースター島で補給できなければこれ以上の航行ができません。賭けですね。」
「ああ。」
1914年9月1日AM03:00 巡洋戦艦金剛
「何を言っているんだ秋山少将。イースター島に行くだと!!敵はピトケアン諸島に向かっていると報告してきた矢矧の戦果を無視するのか!!」
「無視しないから行くのです。ドイツ艦隊がピトケアン諸島に向かうのは矢矧が通信してきた情報で分かります。わが艦隊が追撃すればおそらく燃料補給中に接敵撃沈することが可能でしょう。」
「だったら!!」
「馬鹿なのですかその程度のこと敵艦隊もわかっています。だったら敵艦隊は別の目標に向かうでしょう。」
「それがイースター島という確証はあるのか!!」
「地図を見てください。補給はおそらくドイツ友邦国メキシコからくると思われます。」
「なぜそう思う。」
「ドイツは放棄した防護巡洋艦から砲を計8門取り外しています。防護巡洋艦の砲は10.5㎝砲。この砲をシャルンホルスト級装甲巡洋艦は有していません。」
「砲弾不足解消のためだ。」
「しかし、防護巡洋艦はすべて喪失しています。砲弾の積み替えも時間を考慮に入れれば十分な量ができたと思えません。少なくとも8門もいりません。つまりこの砲弾をドイツ艦隊は何処からか砲弾を調達することができるということです。」
「それがメキシコ…」
「正規品か横流し品かわかりませんがありうる話です。メキシコからピトケアン諸島の間にある有人島はイースター島くらいしかありません。」
「しかし…ピトケアン諸島を…放置するわけにはいかない…」
直後、通信兵が走りこんでくる。
「矢矧から定時通信。」
「何を急いでいるのだ?」
「『宛 旗艦金剛 』あとは位置座標です。」
座標を言うと秋山は顔を青くする。
「普通の電文ではないか」
東郷は無神経な発言をする。
「馬鹿者が…」
「普通ではありません!!彼らは帰還命令を無視しています!!矢矧はピトケアン諸島に向かっています!!」
「なんだと!!」
「ピトケアン島に辿り着いても装甲巡洋艦2隻…勝てるわけがない」
死ぬ気だ。情報を本隊に伝えるためだけに。
「馬鹿者が…帰還命令を取り消す。命令だ。ピトケアン諸島を偵察。敵艦隊に捕捉された場合、艦を放棄。擱座もしくは自沈せよ。燃料が尽きた場合、補給艦到着まで待機せよ。」
「秋山少将!!」
「第10戦隊は残存燃料をできる限り投入してイースター島に向かう。」
「少将!!」
「東郷提督。否定されるのであれば何か代案はあるのですか?豪州からの補給は豪州海軍による独領占領作戦に投入され、いつ届くかわからない。ハワイは遠距離。南米からはドイツ艦隊の餌食になる可能性が高い。」
秋山は東郷振り向く。
「早急にドイツ艦隊を排除しなければ太平洋の物流は完全停止します。我が国の生命線ですぞ!!」
ピトケアン諸島 アダムズダウン 防護巡洋艦 矢矧
「アダムズタウンに敵艦隊見られず。」
「燃料がわずかだ。アダムズタウンに燃料の補給を要請。直ちに哨戒を開始する。
「了解。」
「…とはいってもアダムズタウンにも燃料はほとんどないだろう…。」
第10戦隊旗艦 御岳
「矢矧から入電。『アダムズタウンに敵艦隊見えず』」
「予定通りですね。イースター島に向けて進路をとります。」




