第5章 第1次世界戦争編 A-0001 各国の憂鬱
A=西部戦線 西部戦線第1話です。
開戦前 フランス首都 パリ
「英国と日本に関してどうしますか?」
「参戦させなくとも勝てるのならば参戦させなくていい。そのほうが戦果を独り占めできる。」
「しかし海軍としては日本の参戦なくして太平洋・インド洋の制海権確保に責任を持てません。現時点で極東に存在する戦力はすべて旧式化した防護巡洋艦と駆逐艦のみです。(史実では少数の装甲巡洋艦もいたが改史ではドイツ本国艦隊対策のためにすでに廻航されていたため存在しない。) その一方ドイツ極東艦隊は装甲巡洋艦2隻を保有します。」
「日本からの返答では全面参戦を要求しています。さらにドイツ東洋艦隊に向けてすでに艦隊を出撃させたとも。」
会議が否定論に進むしかし一人の将軍がそれを否定する。
「日本に関しては参戦を認めたらどうだ。」
ジョセフ・ジョフル中将だった。
「日本は遠い。我が国の目標であるアルザス=ロレーヌやアフリカをとろうとは思わんだろう。日本には太平洋の島をくれてやればいい。祖国の若者の血代わりに血を流してもらうのは悪くはないだろう。」
現地時間1914年7月26日AM8:00 フランス パリ バー
グリニッジ標準時 同日AM7:00
「なぜ我々が戦争に行かねばならないのだ。」
とある市民が朝っぱらからバーで酒を飲みながら愚痴を垂れている。
「セルビアが先に皇太子を殺したことが悪い。正義は彼らにありだ。」
「うわさによるとベルギー国境に配属されるらしい。」
どうやら動員を受けてパリにやってきた複数人の若者で兵舎に入る前に命の洗濯をしているようだ。
「数年前に流出したドイツの作戦計画…確かシュリーフェンプランだっけ?それを警戒するためにって噂だぞ。」
「その噂は嘘だよ。」
近くで飲んでいた老人が声をかけてくる
「へえなんでまた?」
「確かだいぶ前にイギリスがベルギーを永世中立国にしたんじゃ。つまりはベルギーに侵攻すれば自動的に英国も敵にすることになるんじゃ。すでに二正面作戦をしているドイツはこれ以上敵を増やしたくないじゃろ?だからそんな作戦はあり得ないんじゃ。」
確かに1839年に結ばれたロンドン条約にて独立が保証されている。この時期、ベネルクス三国(ベルギー、ルクセンブルク、オランダ) はベルギーの独立に関して対立しており、その安定のための条約であったが、17世紀ごろ、イギリスとオランダが対立状態にあったことがこの条約に影響したことは否定できない。このベルギー独立に際し、フランスが援軍を発していることと、その30~40年後にはプロイセン王国 が成立していることからフランスが東の国境を固めるという戦略的意図があった可能性がある。
「へえならベルギー配属は運がええってことだ。戦争しなくていいってことっだ‼乾杯‼」
その話を聞いた若者たちは大騒ぎに入った
結果的に入営が遅れ、酒が入っていることをも考慮に入れ怒られることになる。しかもすでにドイツ軍がフランス国境線を越境、攻撃を開始していたのであった。
現地時間同日PM01:00 フランス参謀本部
グリニッジ標準時 同日PM00:00
「ドイツ軍の侵入を確認‼急ぎ迎撃態勢をとれ‼」
参謀本部は混乱の一途をたどっていた。宣戦布告からたったの1時間ほどでドイツ軍は越境攻撃を開始した。ドイツ軍は2日前に総動員を行っていた。
「この状況においてシュリーフェンプランはあり得ない‼全戦力を国境地帯に送り迎撃を‼」
「いいやドイツはベルギーに無害通行権を要求したという情報だ‼シュリーフェンプランがないと判断するのは」
「現在動員完了している師団はすべて国境に張り付けなければ防衛線はあっという間に突破されるぞ‼シュリーフェンプランにかまっている余裕はない‼」
「戦力が足らない。直ちに英国に出兵を要請‼」
「馬鹿‼英国の参戦はこの前断ったばかり今参戦要請をすれば英国になんといわれるかわかっ…」
「国が失われるよりはましだ‼」
言い合う参謀を前にジョセフ・ジョッフル中将が喝を飛ばす
「言い合っている暇があればすぐに国内に通達を出せ‼動員を急がせろ‼」
数時間前 ベルギー首都 ブリュッセル 王宮
「ベルギーは道ではない‼国だ‼」
ドイツからの無害通行権を求める書簡を目にしたベルギー国王 アルベール1世は吠えた。
「ドイツの要求を拒否。直ちに交戦用意。動員だ‼武器庫から武器をかき集めろ‼英国に中立侵犯を受けるとの報を出せ‼」
史実においてはすぐにドイツ軍の侵攻を受けベルギーは戦火の洗礼を受ける。だが改史ではしばらく肩透かしを食らうことになる。
現地時間・グリニッジ標準時 同日PM01:00 英国 首都ロンドン 陸軍省
「ドイツがフランスに侵攻」
「動員開始から高々30時間程度だぞ‼もう侵攻するだけの兵力が‼」
混乱はここにも広がっている。英国自身もここまで早く戦争になるとは思っていなかったのだ。
「フランスに援軍を送る必要は」
「フランス自身が先日断っているんだ。自業自得だ。」
「しかし、フランスが負ければ次はわが国。さらに対独同盟は瓦解しますぞ‼」
「海軍が動員令を発令いつでも艦隊が出撃可能な状態に向けて準備を開始した模様です。」
「陸軍も出兵の準備はするしかない。」
結果的に次の日には英国は参戦を決定することになる。
ルクセンブルク 東部国境
「首相‼無茶です‼そんなんでドイツ軍を止められるわけがありません」
ルクセンブルク首相のポール・エイシェンは1枚の書簡を持ち自転車に飛び乗ろうとする。
「これが我が国の正義なのだ。」
彼は自転車にまたがり、進撃してくるドイツ第5軍の前に立ち、150年前に約された中立に関する条約の内容を読み上げるのだった。
ドイツ軍第6軍 司令部
「突撃だ‼」
司令部で叫ぶはループレヒト・フォン・バイエルン。功名心に駆られ開戦直後敵方面に予定以上に突出した。目の前には戦う準備のできていないフランス第1軍南隣の戦域にはドイツ第7軍とフランスの第2軍。こちらも第6軍につられるように前進を開始している。北隣はドイツ第5軍。それに相対する軍団はない。実質的にはフランス第1軍に対してドイツ第5・6軍が押し寄せている。
「司令‼まだ動員が完全ではない師団も多いです‼戦力の逐次投入になりかねません後続の到着を‼」
ドイツ軍はこの進撃に際し、かなり無茶をしている。動員に関してすべての師団がすぐに集まるわけではない。そのため集まった兵士を師団ひとつに集中し、早急に師団を充足させている。その優先充足対象になった師団以外は通常よりも動員が遅れることになる。
そしてその優先させた師団を引き連れ、フランス領内に進撃しているのだ。
「敵はまだ動員ができていない。奇襲効果は今だから通用するんだ‼今のうちに押し込めるだけ押しこめ‼防衛線を構築してすべての時間稼ぎをするぞ。」
「司令‼逆撃をこうむってからでは遅いんですよ」
「わかっている。航空偵察を厳とせよ。」
フランス参謀本部
「現実的な防衛線はマルヌ川=ソーヌ川流域です。ここならば河川防御陣、河川間は塹壕で防衛することができます。さらにマルヌ川は下れば首都パリ。ここから河川を利用した補給線を維持できます。ソーヌ川も南部リヨンや地中海からの補給線が使えます。敵軍の砲兵陣地に補給が阻害される地域に来れば双方ともに野戦軽便鉄道を利用し補給を行います。」
「現在前線にいる第1軍と第2軍はどうする」
「遅滞戦闘を命じます。」
「それでは実質的に第1・2軍を見捨てることになる。それより第1軍と相対している2個軍のうちルクセンブルク方面から進撃する軍(ドイツ第5軍)に第3軍と第4軍で奇襲を仕掛けさせましょう。この2軍の間には予定以上に大きな隙間が空いています。ここに奇襲をかけ、ルクセンブルク方面からの軍を半包囲殲滅しましょう。隣の軍が大損害を被れば必ずもう1軍(ドイツ第6軍)も後退するはずです。」
「現状の戦力で最終防衛線を固めるか、現状の兵力を時間稼ぎに投入して、新しく動員した部隊を最終防衛線に投入するか。」
「奇襲に成功すれば後者が有利なはずです。いくら奇襲と初期の戦闘で疲弊した第4個軍団と新規兵力はいえ総兵力とは有利になります。」
「成功すればね。失敗した場合どうなる。」
「どちらにしても時間は稼げます」
ドイツ参謀本部
「第6軍が予定以上に突出しました。第6・5軍間の隙間が増大しています。」
ドイツ軍参謀本部にもフランス軍がつかんでいる第6軍の異常突出は伝わっている。いいや状況自体はフランスよりもよく伝わっている。これは前線で得られた捕虜の情報からもうかがい知ることができた。
「第6軍はフランス第1・第2軍の間に攻勢を仕掛けています。ここならば正面にぶつかるよりも突破が容易でしょう。」
「ならば第6軍に後退を命じるのは得策ではないな。予備軍の第4軍を第5・6軍の隙間に投入。おそらくそこにフランス軍は奇襲を企てているだろうから返り討ちにしてやれ。」
モルトケ総参謀長は対応策を命じる。それが何を生むかわかる者はいなかった。
現地時間・グリニッジ標準時 1914年7月26日AM8:00 英国 首都ロンドン 喫茶店
「フランスに陸軍を送ると…」
「新聞で読んだ通りです。議会の判断を無視して首相は宣戦布告したようです。」
「議会を無視だと」
「それに今回の戦争大義は彼らにある。」
「われらの参戦はベルギーの中立侵犯を口実にしている。フランスとの戦闘がここまで激化しているのにベルギーへの越境行為が見られないのはなぜだ?」
「我々は踊らされたんだよ。」
「躍らせるといっても何の効果があるんだ?」
「わからないですけど我々が大義なき戦争に参加することになったことだけは確かだと」
「…」
その場は収まったが、このような会話が英国中で繰り広げられそれが人々に伝わると最後に疑惑だけが残る。
曰く
『我々は大義なき戦争に参加することになったのではないか』と
アルゴンヌ森林地帯 1914年8月13日
「突入。」
フランス軍はドイツ第5軍に向け奇襲を敢行した。奇襲の際に隠れるために使用したのがアルゴンヌの森だった。先陣は騎兵の突撃だ。第1次世界大戦の陸戦はスイス国境から海まで続く広大な塹壕戦が有名であるが史実でもこの時期はそこまで塹壕が使用されてはいない。機動戦を考慮に入れれば塹壕なんて掘っている時間がない。塹壕を掘る前に敵が来ていればそのまま応戦するしかない。機動戦を防ごうときちんと守る準備…すなわち塹壕が彫られるようになり、双方攻めれば大損害を生じさせる状態になって初めて塹壕戦が生じた。
しかし彼らを待つのは死を生む雨だった。
「3日前に布陣していれば機関銃陣地ぐらい作れる。」
第5軍司令のヴィルヘルム・フォン・プロイセンはそうつぶやいたという。
奇襲を予期していたモルトケ参謀長の命だった。
「残置部隊は直ちにフランス軍への攻撃を開始せよ‼信号弾‼」
副官が叫ぶと近くにいた兵士が信号弾を上げる。信号弾を合図に隠匿されていた機関銃陣地が火を噴いた。しかもそれは彼らが何もないだろうと判断し、通り過ぎた民家にも配備されており、そこからの銃弾の雨に歩兵、騎兵問わず薙ぎ払われる。
「糞‼罠だ‼撤退する。第4軍にも知らせろ‼」
しかし、第4軍も同様の戦術をドイツ第4軍から受け大損害を被っていた。すでに撤退の意思は第5軍に言わずともわかっている。
「追撃の手を和らげるな。反撃に注意しつつ騎兵隊は前進。航空隊は敵の偵察を厳となせ」
第4軍指揮官のアルブレヒト・フォン・ヴュルテンベルクはそう叫んだという。
そしてこの2個軍の兵士たちの一部は難攻不落のヴェルダン要塞に立てこもることになる。
第1次世界大戦の東西線戦は塹壕戦で有名ですが開戦初頭は塹壕戦ではなく、機動的な戦闘が発生しています。そのため遭遇戦が多い上に包囲殲滅のリスクが極めて大きい戦闘に終始しています。
次話ではその第1次世界大戦初旬の東部戦線での包囲殲滅戦で有名であるとある戦闘を予定しています。




