第4章 第2次米墨戦争編-8 本命の戦い
メキシコシティー 軍司令部 1907年9月1日
「緊急事態です!!米軍主力が上陸。目標はベラクルス!!ベラクルスに上陸しました!!」
「タンピコ北部戦線が活発化。砲撃を受けました。ネルソン・アップルトン・マイルズ軍攻勢開始です。」
ネルソン・アップルトン・マイルズ中将旗下 司令部 1907年9月1日
「タンピコを救援しろ!!」
ネルソン・アップルトン・マイルス中将は自ら前線に立つ。その号令のもと砲撃が開始される。
ぎりぎりの線だった。細い補給線でようやくたまった物資をのすべてを吐き出す攻勢だ。タンピコさえ完全制圧してしまえば港湾からの十分な量の物資の供給が可能である。殲滅される寸前だったタンピコ守備隊も救われる形になる。今時点で戦闘人員が開戦時の4分の1になっているのは異常である。本来ならば戦線が崩壊していておかしくない損害である。だがジョン・パーシング准将は粘る。戦力が3割を切った部隊(壊滅した)や指揮官が戦死した部隊のうち特にひどい損害を受けている部隊を解体し被害の少ない部隊の補充に使うことを繰り返した。その結果、部隊数は減少したが部隊当たりの戦闘能力は少なくとも数字の上では低下していない。
このような戦闘ができたのは戦闘正面の幅が小さいことが原因であった。大兵力の利が生かせないうえに兵力の集中ができるためだ。それでも兵力の交代周期はどんどん短くなり、兵員の疲労も限界に近くなっている。そのシフトなどを効率的に組むことで長期の宣戦の維持に成功した。
「モニター艦があの短期間で奪われたことは想定外だったが、対応はできる。海岸砲を持ってきてよかったな。」
ジョン・パーシング准将は戦後そう語ったという。
日露戦争の旅順要塞攻略戦において日本軍は海岸砲を要塞攻略戦に投入した。米軍はこれに倣ったのだ。ただし、これには日本と似た事情も存在した。米国は陸軍予算を削りまくっていたために予備砲弾などの不足が生じていた。そのため砲弾備蓄に余裕のある海岸砲を投入していたのだ。
メキシコ軍に鹵獲されたモニター艦の一部は味方艦に撃沈された。が鹵獲された艦が戦場に投入されたときには海岸砲から狙われることになった。陸軍にも相当数の被害が生じるもモニター艦はすべて撃沈されている。
結果的に4万名中、戦病死1万2000、戦傷1万4000(内2000本国帰還)、治療中4000 という犠牲と戦力低下を生んだ。
戦力として維持できているのは再編成された1万名の部隊だけだ。
その代償としてメキシコ軍は述べ16万人投入。内6万名の兵士が戦傷・戦病死し、戦力として期待できなくなった。残余の消耗した10万人ではネルソン・アップルトン・マイルズ退役中将率いる20万人の兵士を押しとどめることはできない。
「谷間を抑える。谷間での遅滞戦闘で時間を稼ぐ。」
メキシコ軍の司令官も冷静に撤退を下命。再び物資不足になった米軍は攻勢を中断。再びメキシコ主力軍を潰し損なうことになった。
メキシコ ベラクルス 1907年9月1日
メキシコ領、メキシコ湾岸最大の港湾都市ベラクルスに上陸するはアーサー・マッカーサー・ジュニア中将の第2上陸軍は初期上陸時8万名の兵員がいた。こののち、本国で編成される部隊の多くがベラクルス港に揚陸しマッカーサー軍に編入されることになっている。
名前からわかるようにアーサー・マッカーサー・ジュニア中将は太平洋戦争時のダグラス・マッカーサー将軍の関係者(父親)である。退役寸前の老将は日露戦争の観戦武官をしていたほど日本との深い関係がある。
ベラクルスを抑えることは第1次米墨戦争時以上に重要である。第2次米墨戦争当時ベラクルス―メキシコシティー間には鉄道が走り、いざメキシコシティーを攻めるとなればこの補給網は最重要になる。
メキシコシティーを攻めるのならばここを取るしかない。補給が不足するのが目に見えている。
「上陸に際して抵抗はありません。斥候部隊も当面の敵は発見できません」
「陽動は成功したみたいだな。まあ出兵前の兵力分布と総兵力を考慮に入れれば陽動は成功しているといってもいい。出る前からわかっていることだ。」
アーサー・マッカーサー・ジュニアは報告を背中で受ける。そして振り返る。
「だがメキシコシティーにも兵力は残っている。速攻を仕掛けろ。鉄道を抑えろ。無傷でだ。騎兵隊を前進させろ。」
メキシコシティー 9月1日
「ベラクルスへの防衛計画はあるのだろ!!」
「しかしそれはタンピコに兵力を送ったことですでに実施困難なものになっていますしかもタンピコで6万人も失ってしまっては対応できない。」
「首都の4万人を出せ!!敵は鉄道線に沿ってくるはず待ち伏せだ。待ち伏せならば3倍の兵力でも」
「迂回されたら終わりだ」
「時間を稼げれば各戦線から抽出した軍と新規兵力が間に合う!!攻勢を以て時間を稼ぐべきだ!!」
「戦力の逐次投入になる!!8万に4万をぶつけても!!」
「義勇軍と転戦軍合わせれば同数以上になるはずだ。遅滞戦闘と待ち伏せに集中すれば!!」
会議は混沌とする。話し合いに先は見えない。
「首都防衛軍の全力をオリサバに向かわせろ。」
ディアス大統領は話し合いに終止符を打つ。
その場は静まり返る。迎撃ポイントはそこしかない。
「よろしいのですか?大統領」
「遅滞戦闘及び鉄道の破壊と農作物の退避・焼却を実施する。」
「だ、大統領!!それは焦土作戦では!!」
「ただでさえアメリカに国力差をつけられているのに焦土作戦に出ればより国力に差ができます!!」
「しかし…」
「私とてつらい。だがやるしかないのだ。やらねば祖国メキシコは失われる。」
その場の軍人は状況を把握した。第1次米墨戦争の再来だ。
第1次米墨戦争時米墨国境線で双方は膠着した。米国は補給線の関係上、攻勢の限界点に達したといってもいい状況だ。メキシコ側も敗北による状況悪化から交戦は難しい。
そんな状況を打破したのが後方の港湾都市、ベラクルスへの上陸・メキシコシティへの進撃・陥落だった。
「了解いたしました。米軍を食い止めて見せましょう。」
ベラクルス 鉄道車両操車場 9月3日 AM3:00
ベラクルスに上陸した米軍はすぐに操車場と鉄道路線を抑えた。しかし米軍にとっての悲劇はすぐに訪れた。
操車場が爆発したのだ。正しくは操車場に入っていた蒸気機関車がほぼ同時に一斉に爆発したのだ。
ただの破壊活動ならば線路が吹き飛ばされるだけ。しかし、今回は極めて運が悪かった。その時操車場には多数の兵士を積んだ車両や武器、弾薬、食料、燃料を積載した車両などがかき集められていた。それを巻き込む形になったのだ。ある蒸気機関車は給炭機の真下で爆発したためになかなか消えにくい石炭火災を生じさせた。これは極めて例外的な被害だ。最も大きい被害は爆発した機関車から吹き飛んだ燃焼中の石炭が荷に触れ大火災を引き起こしたことである。
結果は大火災・大爆発と米軍が拿捕に成功した車両のうちの5割以上の焼失だった。
ただし米軍は貨車・機関車も持ち込んできたため物資の出発が遅れるだけだった。ただそれだけでも重要な時間稼ぎだった。
オリサバ 9月7日
メキシコ軍が想定したオリサバへはメキシコ軍が先に到着した。米軍はオリサバの東コルドバという町に布陣した。双方ともに鉄道を使っての強行軍すなわち先頭をゆく車両が攻撃を受けるまで全速力で前進した。鉄道のスピードを考慮に入れれば騎兵など線路さえあれば勝てるわけがない。停車中にその都度騎兵が偵察。荷降ろされるもすぐに騎兵は追い抜かれる。そのため先頭車両は予期せぬ攻撃にさらされることはわかりきっていた。
この点では米軍が有利だった。米軍は航続距離を伸ばすのと煤煙による発見を防ぐために無煙炭を使用していたのだ。無煙炭はその名の通り煙を出さない。これは軍事的に重要だ。煤煙は発見は早める。近年の例では日本海海戦のロシア艦隊がそうだ。
さらに無煙炭は熱量が高い。同じ量でもほかの低品質な石炭を燃やすよりもより長時間燃える。そのため航続力が若干伸びるのだ。
この無煙炭の産地は極めて古い地層に集中している。これは普通の石炭よりも長い時間をかけて生成されるためである。有名な産地としてはイギリス、アメリカのアパラチア山脈(古い山脈はなだらかになる傾向がある。)
この戦争で使用されている石炭もアパラチア山脈産である。
一方メキシコには有力な無煙炭鉱山はない。あったとしても輸入炭を含め良質な石炭はほぼすべて軍用艦船に投入そして海に消えた。残った少数の良質な石炭が必要なところにあるとは限らない。
メキシコは運に見放されていた。低質な石炭や木材を燃料とした先導車はオリサバとコルドバの間で米軍に奇襲された。
この間の鉄道路線は若干カーブしている。メキシコ車両の進行方向は北東に近いが、地形の影響で線路は東にそして南東に向けてカーブしている。
米軍は南東方向に曲がるカーブの外側のレールを外していた。メキシコ軍はオリサバで給水・給炭を行ったためその時間を与えてしまったことになる。これも低質燃料を使用していたことに起因する。
「き、緊急停止!!」
前方の偵察車両に乗る兵士が叫ぶ。同時に信号拳銃を空に向けて発射する。後続車に対する停止命令だ。後方車両はこれで止まる。
「どうした!!あっ!!」
車両から飛び出てくる兵士が状況を理解する。
「総員対ショック姿勢!!脱線します!!」
見張り兵士が扉から中に大声で声をかける。
「後方機関車蒸気を抜け!!」
兵士の一人が電話機に向かって叫ぶ
直後車両は現在のベラクルス州フォルティン・デ・ラスフローレス附近で脱線した。
「打ち方はじめ!!」
有線電話に対し付近に潜んでいた米軍兵が叫ぶ。
米軍はその地点に向けて砲撃を行う。コルドバで下された騎兵軽砲部隊によるものだ。
「総員突撃!!」
脱線地点に突入するは待機していた軍用列車に搭乗する歩兵隊だ。
「打ち返せ!!後方機関車は問題ないか!!」
「後方機関車最後尾車両を破壊。しかし何とか動かせそうです。」
「脱線した車両を切り離せ!!破壊された車両をどけて再連結。兵員を収容し次第撤退しろ!!軌条を破壊しても構わん!!」
メキシコ軍は混乱に陥りつつも対策は立ててあった。
「後方に機関車がある!!破壊しろ臼砲!!味方を撃つなよ」
貨車に搭載されて臼砲が火を噴く。目標は後進用蒸気機関車。
「機関助手負傷!!誰かおらんか!! ガッ」
蒸気機関車の周辺に落ちた砲弾は操縦室に襲い掛かり、機関助手(石炭をボイラーにくべる人間)の頭部に命中する。声を上げると同時に機関手も腕に銃弾を受ける。
「機関車に砲弾が集中しています。機関助手死亡、機関手負傷。機関車の使用はできません。」
「前方の機関車乗務員2人とも骨折をしています。動かすことは困難です!!」
「くっ負傷者と戦死者を放置して敗走する。追撃覚悟で南側の森林に紛れて撤退する。」
結果的に兵士・乗員580名中 生きてメキシコ軍陣地に到達できたのは20名。負傷・捕虜になったのは200名。他戦死し、米軍側の被害は30人にも満たなかった。
ただし車両の残骸は今後の作戦行動に支障が出ることになる。
ヒューストン港 8月2日
「小銃の数が足らんな。」
ヒューストンを訪れる陸軍の武官は戦争初期に捕獲した貨物船から発見された新式小銃の数を確認させ、数の不足を発見した。
「2丁だな。だが高々2丁だ。」
「そうだな状態不良につき廃棄と報告しておこう。」
ベラクルス港 9月5日
「特務部隊…か…」
「そうだ。鉄道線を狙う…そんなこと敵も読んでいる。ならばそれ以外の方法で敵戦線を突破する必要がある。それが特務部隊だ。まあ、日露戦争時の挺身騎兵戦法の真似事の一つであるがな。」
「となると騎兵隊ですか…」
「いいや騎兵も使うが馬車部隊も使う。そうでなければ補給が持たない。挺身部隊の武装はすべてモーゼル弾を使用する小銃だ。作戦自体は鉄道網の襲撃が多いだろう。当然追撃の可能性も大きいい。」
「なるほど追撃に戦力が割かれたら前線の負担が減る」
「そうだ。」
「相手も同じことをやるのではないか?」
「それは金と兵力で対応する。都市部は密告、輸送には先導車両を設け安全確保をしながら進む。操車場の拡充と複線化も行い、十分な輸送量を確保する予定だ。これなら単位時間当たりの輸送力の向上にもつながる。」
それに宣伝を実施する。戦後の役に立たないからやめるようにね。」
「ともかく騎兵・荷馬隊総動員での後方遮断作戦を実施ですね。了解しました。」
コルドバ 米軍陣地 9月10日 AM02:00
「列車砲の配置が完了しました。」
「歩兵隊の配置も完了しました。」
「先行偵察隊からの情報から敵は市街地を利用した陣地を急造したようです。市街地侵入前には塹壕戦ただし塹壕の厚みは薄いようです」
「夜戦だ。各隊に突撃を命じろ。列車砲は各ポイントへの砲撃用意。」
マッカーサー中将は命じる。
「闇夜に紛れて突撃する。決して音を立てるな。」
最前線部隊指揮官は部下に命じる。各隊指揮官も作戦前に入念にミーティングを実施、総員に作戦を熟知させる。兵士は靴すら背中の背嚢に入れ足音すら立てないように歩く。背嚢からはすでに一部必要でないものをすでに野営地においてきている。そのため背嚢の中には銃弾と爆薬・食料が詰まっている。
残り100m
「そろそろだな。」
最後尾にいる隊長は前の兵士の肩をたたく。そうすると背嚢をゆっくりと下し、靴を履く。前の兵士たちも肩をたたくと同じように靴を履く。と立ち上がる。隊長はゆっくりと先頭に歩いてゆく。
「突撃!!我に続け!!」
隊長は沈黙を破るように叫ぶと先頭を切り走る。後方の兵士たちも叫びながら突撃する。突撃中に前線兵士が小銃弾を放つ。暗闇に発射する銃弾のほとんどは外れる。ただし数人の兵士は銃弾に倒れる。倒れたそばから後ろの兵士に踏みつぶされて生きていても死ぬ。
が、突撃そのものを止めることはできない。すでに距離100m全力疾走すれば遅くとも30秒程度で肉薄・白兵戦になる。その間に放てる銃弾は一人頭5発程度そしてほとんど当たらないとなれば効果は乏しい。
突撃した歩兵隊は陣地を突破市街地に迫る。
「応戦しろ!!急げ!!」
指揮官が叫び、兵士が兵舎代わりに使っている住宅から兵士が飛び出てくる。が、直後砲弾が降ってくる。かなりの数だ。
「もう米軍はこの数の野戦砲を持ち込んで!!」
兵舎から飛び出したとある大隊長はそれ以上の言葉が出せなかった。彼は砲弾に吹き飛ばされてしまったからだ。
「前線に合流急げ!!白兵戦だ!!」
兵舎には有線電話が敷かれていたために司令部からの命令は電話で伝えられる。砲撃で電線が破壊されていることや兵士たちが闇雲に飛び出していることも指揮系統の混乱に拍車をかけている。
だがとある複数の少尉候補生指揮下の小隊は違った。彼らの小隊は各自丸1軒分の建物がたまたま手に入った。彼らは小隊内での指揮統制が容易であったことが助けとなったが、彼らの指揮・判断が卓越していたということも大きい。彼らの動きはシンプル。この小隊で動いたのは各小隊長と各小隊間通信を敷設する通信ケーブルを背中に抱え走る兵士数人だった。
「だめだな。前線の混乱がひどすぎる。各建屋の下に掘った塹壕に潜む。それができない連中は外の塹壕にこもって砲撃をやり過ごす。」
兵隊には珍しいメガネをかけた若い男がほかの同年代の男たち…に対し方針を表明する。
「どうしてだマヌエル。砲撃でも来るのか」
人なつっこい笑顔を浮かべた男が核心を突く。それが読めるだけでも彼もそれなりに頭が切れる。
「そうだ。フェルナンド奴らは撤退の合図および支援に砲弾の雨を降らせてくる。日露戦争の四平市会戦決戦の際に同じ手が使われた。さっそく生かしてきたな。」
「対策は我々ができることは!!」
少し太り目の男は2人に対して聞く。
「無理だな。フリオ。我々が出てゆけば指揮権は混乱している上位部隊にとられる。その場合、上位部隊の混乱に引きずられることになる。各通信ケーブルを砲撃を受けた直後に切断する。爆薬は余っているよな。」
「わかった吹き飛ばす。」
「むろん周辺に砲弾が落ちてくれてくれなければ意味がない。まあ砲弾が落ちなければ混乱はない。それはそれで上に従えばいいだけのことだ。」
結果的に彼らは隊の損害を最低限までに抑えた。混乱した部隊が砲撃と同士討ちで半数近くの犠牲が出た。その一方彼らは戦死者なし。重傷者数人を生んだだけだ。部隊長が戦死して解体された部隊からの補充要員で部隊定数回復した。
そして米軍は彼らの存在に気がついていなかった。それはのちに大きな影響を生むことになる。
本命の上陸はベラクルスでした。ベラクルスは第1次米墨戦争時の上陸拠点であり最重要拠点であったため助攻の策(本命作戦を成功させるために行う陽動)を使用しました。




