月の音色 テーマ『お弁当』(400文字の上限解除バージョン)
「先輩、これを受け取ってください。」
澄み渡る今日の空の様な、くもりない笑顔で、”雨傘”を差し出す彼女には、秘密がある。
それは、少し変わった予知能力。
いつ、どこで、何のためにか・・・、は、わからないけれど、将来、必要となるであろう品物がわかるという。
それが一見、どれほど役に立たなそうな品物だったとしても、彼女の予知は、絶対に外れない。
例えば、穴の開いた長靴は、植木鉢として、第二の人生を歩んでいる。
チェーンの切れた自転車を渡された時には、さすがに、これをどうするの!と思ったけれど、ストーカーの存在が発覚するにいたった。
偶然、女生徒のそばを自転車を引いて歩いていたところ、絡んできた男がいたのだ。わざわざ自転車を降りて歩いているくらいだから、関係者だと思ったらしい。むろん、悪しき関係の鎖を断ち切るべく、ストーカーは、しかるべく処理させていただいた。
あるいは、釘抜きが無くて困っていた演劇部に、なんて物を持ち歩いてんだよ!とおののかれる一幕もあったりして。
そして、今、目の前に、自販機の下をのぞき込んでいる子供がいる。お金を落としてしまったらしい。
仰げば広がる青空に、渡された雨傘の使い道を知った。
彼女の予知は、絶対に外れない。
翌朝。
「先輩、これを受け取ってください。」
僕は、手渡された包みの意味を、懸命に、それはもう全力で考察している。
ハンカチにくるまれた、このお弁当の意味を。
『大原さやか朗読ラジオ 月の音色~radio for your pleasure tomorrow~』への投稿作品に、若干の加筆修正を施したものです。




