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カップルの自転車乗り 名探偵の先生と助手のハチ
「なんだか、いいですね」
学生服の男の子と、女の子が、自転車を並べて止め、ペダルに片足を掛けた、そのままで、多分、もうずっと話し込んでいる、そんな様子が見受けられました。
夕暮れの、こんな何もない道ばたでさえも、時間を忘れて、楽しそうにしている学生さんを見かけると、なんだか青春をお裾分けしてもらったみたいで、ほほえましいような、ほっこりした気持ちが芽生えてきますね。
そんな、私のこぼしたつぶやきが、先生にも聞こえてしまったようです。
「ああ、あの学生さんたちだね」
私の視線の先を追い、先生がおもむろにおっしゃいました。
「あの二人、もうすぐ、分かれることになるんだろうね」
「えっ!」
先生は微笑んで。
「同じ方を向いて、ペダルに足をかけたまま、明らかに帰路の途中だから、次の分かれ道で、別々の方向になるのではないかな、そのために、こんな何もない道ばたに、自然ととどまっているんだろうね」
わぁ。
「なんだか、いいですね」
タイトルは、ホームズの『孤独な自転車乗り』から。




