くま 第5話
さくらは、デザートのアイスクリームを、瀬戸内君と千葉君の二人から、まんまとせしめて、ご満悦。
クマ達は、汚さないように、私とあきちゃんとで預かっている。
それにしても、なんだってこんなことをしたのだろうか。
しげしげと怪盗を眺めていると、あきちゃんが眉をひそめて声をかけてきた。
「ねえ、これを見て。」
インバネスコートをめくる。
「名探偵のちょっとシャレにならない秘密、探りあてちゃったよ。」
忍ばせていたのは、盗聴器のようだった。
千葉君に冥福を祈られ、女性二人に詰め寄られた瀬戸内くんは、洗いざらい白状した。
全ては、うちの宿六が、ぬいぐるみのクマの名前を知りたいがための、あきれた愚挙だった。
あまりにも哀れな様子だったからと、瀬戸内くんは、加担した動機を語る。
脱衣所で拉致されたクマを受け取って、宿の人に気づかれないように、盗聴器を忍ばせたホームズの衣装を着せたのは、瀬戸内君の犯行だったが、一度は言ってみたいセリフ第1位の「犯人はお前だ!」を実現させた功績により、罪一等を減じられ、あきちゃんに放免を言い渡された。
それにしても、なんて、情けない…
やっていい事と悪い事の区別もつかんのか、あの宿六は!
帰ったら、きっと成敗してくれる。
そんなことを考えていたら、隣のさくらが裾を引っ張って、内緒話をせがんできた。
「おかあさん、あのね。」
耳打ちされたクマの名前の秘密…
そうか、そう言う事だったの。
翌日、再会を期して、友人たちと別れる。さくらも随分とかわいがってもらった。総じて、楽しい旅行だったと言えよう。帰りのバスの窓から、二人でクマの両手を取って振った。
さてと、旦那の始末をつけなければ。
盗聴器を突きつけて、言い放つ。
「次に問題を起こしたら、さくらが大きくなった時に、盗聴器の話をするからね。」
おうおう、うろたえるがいい。
幼くて理解できていないからといって、倫理観を伴わない行為をしてはダメだ。
深く反省しなさい、まだ許さないからね、ニコリ。
「それで、あなたが知りたがっていた、クマの名前なんだけれどね。」
旦那の心臓に、ナイフをつきつける。
「佐々木君と渥美君って、言うんだって。」
「ふ、二人もいるの?」
おそるおそる、旦那が聞いてきた。
「二頭いるからね。」
「まさか男の子?」
「そうね。」
「ど、どんな子?」
「さくらにとっては、ヒーローかしら。」
「嘘だぁ!」
「あら、本人に確かめてみる?」
手招きして呼ぶ。
「さくら、おいでー。」
「なあに?」
「クマさんには、好きな人の名前をつけたの?」
「うん。」
旦那が絶望に沈んだ。
「二人は、かっこいい?」
「かっこいい!」
とどめだ。
「お父さんよりも?」
「おとうさんよりもかっこいい!」
よし、悪は滅びた。
さくらは、ずっとクマの名前を決めあぐねていた。
でも、コンビになったおかげで決まったようだ。
フルネームは、佐々木助三郎と渥美格之進。
遠山さくらは、時代劇が大好きな女の子だ。
次回は、『最初の挨拶 名探偵の先生と助手のハチ』です。
明日、更新です。




