くま 第4話
「もったいぶって、謎解きごっこしてもいい?」
あきちゃんがたずねてきた。
「どうぞ。」
「でわ、ゴホン。」
「さて、うちの男性陣には、脱衣所で、クマを怪盗に変えることはできない。」
「女湯だからね。」
「そこで注目すべきは、額縁の絵。」
「うん。」
「卯月の間なのにアヤメっていうのは、ちょっと引っかかっていたんだよ。」
「藤の花ならぴったりなのにね。」
「そそ、その藤の花の絵は、皐月の間にあった。」
「うむ、見てきたから、間違いない。」
「さらに、傍証となるのが、人数分用意されていた浴衣。」
「そして、決定的なのが、双子のクマ、だね。」
そう言う私の笑みは、凄みが増したことだろう。
あきちゃんがまとめる。
「つまり犯人の条件は、1.女湯に入れる、2.アヤメの絵の存在を知っている、3.そこに手紙を隠すことが出来る、4.全く同じクマを事前に用意できる、ってこと。」
「そして、鍵は、花札ね。」
あきちゃんの言葉は続く。
「元は、藤の花が卯月の間に、アヤメが皐月の間に飾られていたけれど、それを取り換えたんだね。」
「うん。」
「当初、男性三人、女性二人ってことで、部屋をおさえたけれど、杉浦君が来れなくなって、女性と男性の部屋が入れ替わることになった。」
「それで絵も取り換えた。」
「うん、女性用と子供用の浴衣が用意されていたことも、私達がこの部屋を使うと分かっていた証拠。じゃあ、あらかじめ、そんな事が出来たのは?」
「宿の人しかいないね。」
「そうと分かれば、後は簡単。脱衣所でクマを怪盗に変えたのは、仲居さん。」
「まあ、脱衣所で服を着せるのは大変だから、多分、あらかじめコスプレさせたもうひとつのクマとすり替えたよね。」
「ということは、あのメッセージは、さくらちゃんのクマから、さくらちゃんのハートを、新しいクマが盗むということだったんだ。」
さらに、あきちゃんが続ける。
「一旦、すり替えられたさくらちゃんのクマは、私達がクイズを解いている間に、ホームズのコスプレをさせられて、ロビーへと運ばれたわけだね。」
「うん。」
「もちろん、それを宿の人に依頼した人物がいるわけで、まあ、幹事であり、お得意様でもある、瀬戸内君が犯人ってことだろうね。」
「そうだね、でも、さらに黒幕がいるよね。」
「それはまあ、さくらちゃんのクマと全く同じものを用意できないといけないわけだから、少なくとも、瀬戸内君一人では無理だよねえ。」
「全部、あの宿六の差し金かー!」
次回は、『くま 第5話』です。
明日、更新です。




