もしもマッチ売りの少女が転生者だったら
マッチ売りの少女は思い出した。
そうだ、私は・・・、私は、日本人だった!
これは、前世の記憶。実家は町の八百屋さんで、そう、どこにでもいるような普通の娘だった。
彼に会いたくて、切ない恋心にこがれちゃったりもした、年ごろの娘さんでもある。
そうか・・・、私、そんな年ごろで死んでしまったのね。
というか、今現在進行形で、命が危ないんだわ!
自分の置かれている状況もだんだんと思い出してきた。
このままだと今晩には、自分の命はついえてしまうのだという事も、ここが物語の中の世界だという事も。
なぜ、日本人だった自分がこのような境遇になっているのか、懸命に記憶を手繰り寄せる。確か、死後の世界から、私をこの世界へ送ってくれた人は、物語の神様だと名乗っていた。物語が有名になったおかげで力が使えるとか、物語の世界で試練を受けて生まれ変わるとかなんとか・・・
そうだ、あのとき神様は、私に不思議な力をひとつ授けてくれると言った。
前世の私にまつわる物語、つまり人生における象徴的な出来事から力を抽出して分け与えてくれるのだと。
物語の神様は、授ける力について、何か望みがあれば叶えてくれると言い、私は迷わずに答えていた。
会いたい人がいるの、あの人に会わせてと。
物語の神様は、難しい顔をして言った。これから私の向かう世界に彼はいない。それでも会いたいというのならば、相当な無理をしなければならない。
私は、それでもと願った。
物語の神様は、授ける力について、火にまつわるものになるだろう、また、その力がふるえるのは、人生の終焉を迎える直前になるだろうと言った。それが私の前世の物語を最も象徴しているために、強い力を引き出せるのだと教えてくれる。それでさえ、わずかな時間、姿を見、言葉を交わすのが精いっぱいになるだろうという事だった。
確かに火は、私の人生を象徴している。私が、彼と出会い恋したのは、実家が火事で焼失してしまったために、家族で身を寄せた先でのことだった。そして、私の最後もまた、特殊な部類に入ると思う。
私は、火あぶりになり処刑されたのだから。
私の名前はお七、八百屋お七。恋する人に会いたい一心で、江戸の町に火を放った娘。
私の死後、この出来事は、物語となり有名になったのだという。そのおかげで物語の神様は、私を転生させる力を使えるようになった。しかし、私は、生前に罪を犯している。その罪を償うため、私にふさわしい物語の世界へと送ったのだ。
本当に、生まれ変わるための試練として。
この世界の私は、懸命に生きてきたと思う。人々には、どんな風にうつったのかしら。試練を果たすことが出来たのなら良いのだけれど。
私は、この世界での物語の終焉で、マッチに火をともす。
恋しい人たちに会いたいがために。
次回は、『おとぎばなしアラカルト』、明日、更新です。




