無重力オフィス
無重力、あこがれますか?
いや、人間ってすごいよね。
人類がその生活圏を宇宙にまで伸ばしても、その営みはまるで変わらない。
しがないサラリーマンは、今日も会社に行くのです。
円筒形のコロニーは、遠心力によって壁面内部に1Gの疑似重力を発生することができるけれど、使用できる面積は限られている。
事業の拡大に伴い、慌ただしく急設された事務所が、無重力ブロックに追いやられるのもむべなるかな。
みんな、フワフワプカプカ。
必死で天井を押さえながら、仕入れ値交渉をしている人もいれば、窓辺を悠々自適に漂っている人もいる。
あーあー、あっちでは、乱高下するディスプレイに振り回されてら。
まあ、浮き沈みが激しいのは、うちの部長のご機嫌もご同様。
本日は、見るからに、斜めの模様です。
「お前ら、最近、浮ついてないか!」
バン!
両手でデスクを強くたたいた部長が、バランスを崩して浮き上がる。
危ない!
とっさに机に足をかけ、思い切ってジャンプ、伸ばした右手が部長の手を掴む。
「いや、すまなかった。」
そこには、固く握手をする男の姿があった。
阿鼻叫喚の悲鳴の中で…
反動で飛んで行った机が何を引き起こしたのか、確かめる勇気は僕にはなかった。




