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HAKONIWAシークレット!(前編)

少女とはなぞの

  ロボットが似合うもの!

 とある箱の中で。


 チャリン。


 何も無い中空に現れた、栗皮くりかわ色の小さなコインが落ちて、はずんだ。


 どこか不思議な声がして、粛々(しゅくしゅく)と告げる。


 "銅貨一枚を獲得しました"


 あぁ、もう。


 またハズレたぁー!


 銅貨は、ガチャで一番の残念賞。


 くぅぅ、次のチャンスに期待をかける。


 "スキル【ガチャ】が使用可能になるまで5時間59分です"


 不思議な声が言及した、スキル【ガチャ】は、この世界で私が授かった、まさに唯一の能力だった。


 魔法さながらの力で、アイテムや新しいスキルをランダム(・・・・)に獲得する。


 もっとも今は、何も無い所からひたすら銅貨を生み出す能力なのだけれど。


 まあ、でもね、ガチャが当たらないくらい、嘆くほどの事ではない。


 全く身体からだが動かないって事に比べれば些事さじと言える。


 最初に意識が覚醒した時を思い出す。


 光も、音も、風の流れも、温もりも、自分自身の事さえも、何も感じられなかった。 


 身じろぎも、まばたひとつさえも、出来ない。


 ただ声がした。


 それが福音ふくいんだった。


 "スキル【ガチャ】を発動しました"

 "初回特典によりレア確定ガチャとなります"

 "スキル【認識強化】を獲得しました"


 その瞬間、(わず)かに視界が晴れる。


 携帯で撮影しているイメージと言えばいいのかな。


 小さな枠の中の景色が意識を向けた方向とは逆に流れて、暗い石造りの部屋の様子が見えた。


 窓も明かりも無かったけれど、光源の有無は影響しないみたい。距離もアングルも自由自在で、室内を俯瞰ふかんする事も、自身の姿を捉える事も出来る。


 むしろドローンかも。


 どうやら、ここは正方形の部屋であり、扉がひとつあるだけで、あとは粗末な木の箱が床にポツンと置かれているのみの様だ。


 他には誰の姿も無かった。


 そう。


 私、箱になってる!


 確かに、好きな歌手とかいつも箱推しだったけれど、まさか人間をお払い箱になって、かつてドサ回りの歌手を支えた"みかん箱"に生まれ変わるなんて思わなかった。


 今の私には、笑うとエクボのできるほほも、それをつねる指も、困惑してかしげる首もない。


 ただの箱。


 道理で動けないわけだ。


 本当に、【認識強化】が当たってくれて良かった。スキル【ガチャ】には感謝しかない、グッジョブ。


 でも、だいぶ銅貨がはかどっているので、新しいスキルも何卒なにとぞよしなに。


 動けないのに、銅貨などのアイテムをもらっても宝の持ち腐れで何の役にも立たない、かと言えば、そうとも言い切れない。


 数えたら今もらった銅貨で。


 "収納している財貨の価値が基準値を越えてレベルが上がりました"

 "スキル【ハードロック】を習得しました"


 わーい、レベルアップ!、それに念願の新スキル、やったあ。


 宝箱である私は、収納中の財宝の価値が増える事でレベルが上がるみたい。


 最初にもらったのは【宝物鑑定】で、箱の内部にある物を鑑定できる。これは、自分も鑑定が可能で、それにより私は、"ダンジョンに配置された宝箱"であると判明した。


 ここ、ダンジョンらしいよ。


 そういえば、扉の外を何かが徘徊する気配が時折しているのだけれど、一体何が・・・かは、深く考えない様にする、今は、ウン。


 ちなみに、この部屋の扉が開いた事は一度もない。【認識強化】には、扉をすり抜ける能力までは備わっておらず、扉の向こうは未知の世界だった。いつか開くのだろうかとも思うけれど、やっぱり怖いから開かずの扉でいて欲しいかも。


 今回のレベルアップで得た【ハードロック】を使うと、無骨な南京錠が現れて、私は施錠される。ついでに、バリアーで箱を破壊から守る効果もあるらしい。


 多分、レベルアップで覚えるスキルは、箱に関連する物だけなのかも知れないなと思う、なんとなく。


 だとすると、次に覚えるのは、いよいよアレかな。


 トラップ


 身を守る術が欲しいの、何があっても逃げられない身の上なもので。


 さらに、レベルアップの恩恵はスキルだけに留まらない。


 "レベルアップにより進化の条件を満たしました"


 よし、これで三回目の進化だ。


 "リストから進化先を選んでください"


 いでよ、リスト!


 見たいなー、と念じると、ゆらりと浮かび上がってくる。


 ボロい財布

  大きなチェスト

   びっくり箱

   オルゴール

  寄せ木細工

 行李

  魔法瓶


 やっぱりボロい財布があるなあ、毎回やたらと推してくるけれど、むしろ退化してないかな?


 高確率でダンジョンには似つかわしくない物がリストに登るのは、元日本人というのが影響していそう。


 オルゴールに、一寸ちょっと()かれたけれど、どうせゼンマイを巻く人がいないってオチだし、じきに壊れてしまいそうだから、ここは無難に一番頑丈そうな物を選ぶよ。


 "小さなチェストは、大きなチェストに進化します"


 おおっ、グングンサイズアップしていく。人が悠々入れそう。側面に持ち運ぶための取っ手が増設されている。えっと、ほらふたが膨らんでいて、所々(ところどころ)金具で補強された、いかにもな海賊の宝箱を想像してもらえたら、それが今の私の姿、うんうん、だいぶ立派になってきたんじゃないかな。


 まあ、動けないし、中身が銅貨なのには触れないでほしいのだけれど。


 "進化により条件が満たされました、トラップ系スキルの習得が可能になります"

 "トラップ【ポイズンニードル】を獲得しました"


 おおっ!


 "進化により条件が満たされ、スキル【ガチャ】のランクが上がりました"


 なんですと!


 箱のグレードが影響していたのかあ。そうか、箱のサイズ次第では入らない事もあるし、ある程度、見合った物が当たる仕組みなのかも。もし魔法瓶とか選んでたら・・・、うん、チェストで正解だったね。


 ほかにも影響を与える要素があるのかも。


 何にしても楽しみが増えた。


 【ガチャ】は、インターバル待ちなので、まず【ポイズンニードル】を確認する。


 うわぁ、針でプスッといくだけで、徐々に体が麻痺して死に至るって、ガチの猛毒を精製する能力を得てしまったよ、マジかあ。


 えーい、ままよ、ここは実験のため。


 【ポイズンニードル】セット!


 おー、相変わらず不思議な光景。


 【ガチャ】のコインみたいに、何も無い所から現れた装置が、カチっと取り付けられた。


 トラップは、好きな物をひとつセットでき、使うとインターバルが必用で連続使用不可、なるほど。


 今は一種類だけれど、任意に付け替える事もできる、という事は、動けない私でも、自分の意志を反映できる物がまだあるって事だ。


 ガチャを引いて、レベルも上げて、スキルを手に入れよう。


 でも、よくよく考えると、戦いもせずに、それどころか動くことすらも無くて、ただガチャを引いているだけで、しかも、それがハズレたとしてもレベルは上がるのだから、ガチャと箱のコンボは破格なのかも。


 嫌が上にもガチャのランクアップには期待が高まる。これで銅貨ともおさらば出来ると良いのだけれど・・・


 "スキル【ガチャ】を発動しました"


 チャリン。


 "銅貨一枚を獲得しました"


 なんて事も、あるものの。


 "スキル【オートマッピング】を獲得しました"


 動けないんだけど!


 正方形の部屋の地図をどうしろと!


 "スキル【念写】を獲得しました"


 おー、呪いの血文字で文章を残せる様に、って、怖いから、雰囲気あり過ぎるから。


 綺麗(きれい)に消せるのは不幸中の幸いかも。


 日本語だったなあ、読める人はいるんだろうか。


 と思っていたら。


 "スキル【自動翻訳】を獲得しました"


 思わず、ひとつしかない扉を見つめてしまう。


 あれから、扉を開ける者は現れてはいない。


 それから、アイテムの種類も増えている。


 "ダガーを獲得しました"


 他に、ポーション、銀貨、日用雑貨などが混ざるように。


 レベルも幾らか上がって。


 "スキル【キャスター】を獲得しました"


 なんと、車輪が付きました!


 もちろん動けませんけど、それが何か?


 "トラップ【クロスボウボルト】を獲得しました"


 クロスボウがガチャンとセットされるのを見て絶句する。こんなのが当たったら即死するから!


 罠は全体的に殺意が高すぎて心臓に悪い。もっとも、本当に悪いと思っていたら素直に謝るんだけどね、あはははー。


 ごめんなさい。


 覚えたトラップは、これでよっつ目。


 あとの二つ、【アラーム】は、モンスターを呼び寄せる警報を鳴らし、【ガスボム】は、毒の煙りを撒き散らすグレネードランチャー。


 そんなガチャを引くだけの平和な日々を過ごしてニ十五日目、ついに、その時は来た。


 扉が開く。


 警戒しつつ部屋に入って来たのは、人間!、ふわあ、やっぱいたよー。人数は五人、うち四人は剣や鎧で武装したガラの悪そうな奴ら。なので、その影から顔をのぞかせた紅一点に驚かされる。


 なぜ子供が!


 年端もいかない小さな体にそぐわぬ、大きなリュックを背負わされて、そこはかとなく大事にはされていなさそうな雰囲気がある。


 あれれ、彼らの私を見る目が妙に輝いてる気がするなあ。そっか、私、宝箱だもんね、うん、わかってた。


 きゃあああ!


 一人が仲間から離れて、ランタンをかざしながら(そば)に来て(かが)む。宝箱わたしを調べるつもりだ。


 おおっ、何気に明かりを見るのは初めてだよ、ランタンなんだね。まだ電気の無い文明レベルと思っていいのかな。なんて、呑気にしている場合じゃないから!


 わ、罠、使わなきゃダメなのかな、待って、待って。


 【ガスボム】や【アラーム】は、子供を巻き込んじゃうし、【クロスボウボルト】は即死させてしまうから、えーい!


 【ポイズンニードル】をセット。


 って、これも死ぬヤツだったあ。


 慌てふためく私をよそに、そいつは何でも無い様に。


「あー、鍵と、これは罠が仕掛けてあるが、問題ない・・・OK、罠は解除した」


 嘘でしょ!


 でっ、でも、でも、【ハードロック】のバリアーは・・・


「よし、鍵も開いた」


 解錠には無力でした。


「よくやった!」


 鍵を開けた盗賊とおぼしき男は、しかし、宝箱わたしを開けること無く、最も大柄な男に場所を明け渡して、離れて見ていた少女のいる辺りに下がった。


 代わりに大男がニタリと笑顔を張り付かせてふたを開けると。


「なんだこりゃ、銅貨とガラクタばっかりじゃねーか!」


 腹立たし気にわめいた。


 おー、スキル【自動翻訳】が仕事をしてるなあ、バッチリ分かる。


 うん、大きなお世話だ、コノヤロー!


「なんだハズレかよ」


「で、どうする?」


 ずっと外の警戒をしていた残り二人に声をかけらた大男は。


「まあ、無いよりマシか」


 そう言いおいて少女を呼ぶ。


「おう、悪いがコイツの回収を頼む」


 でも、わからないな、なんで子供なんて連れ歩いているんだろう。


 少女は雑貨などをリュックにしまい、ポーションは専用の肩掛けカバンへ。箱に身を乗り入れて、せっせと硬貨を小袋に詰め込んだところで、少し重そうに持ち上げた肩掛けカバンと小袋を、背後から近寄った盗賊が取り上げた。


「おっと、コイツは預かる」


 そう言うと扉へ向かい、振り返れば、少女はリュックを背負い直して立ち上がるところだった。


 あぁ、私の大事な宝物があ。


 光る涙はこぼれない、チャリンと鈍い色の硬貨が落ちるだけ。


 "スキル【ガチャ】を発動しました" 


 ちくしょう、私に対抗する力があれば。


 "百回特典でレア確定ガチャになります"

 "スキル【光学迷彩】を獲得しました"


 遅いよ!


 だが、まだやる事がある。


 彼らが部屋を出ていく際に、【認識強化】の"不可視のドローン"を扉の外へ飛ばした。


 どこまで届くか不明だけど、こっそり彼らを追跡する。せいぜい私を楽しませろ。


 それにしても、ダンジョンってモンスターがウジャウジャいるんだなあ、エンカウント率がめっぽう高いよ。【アラーム】なんて使った日には、とんでも無い数が集まりそうだから気をつけよう。


 でも、お陰で戦闘シーンを堪能できる。


 おー、大男がまたモンスターを倒したぞ、強い、強い。


 ただ、彼らの口ぶりからするに、何か異常事態っぽい。すみやかな脱出に方針転換したものの、遅きに失したみたい。


動く首無し騎士の死体(スリーピー・ホロウ)・・・」

なんで、あんな化け物が、逃げるぞ」

「気づかれた、速い!」


 ここで大男が非情な決断を下す。


「そのガキを囮にしろ」


 すかさずナイフを手に盗賊が少女に迫り、リュックの肩紐を切り裂いた。反対側の肩紐からも手を引き抜いて荷物を捨てさせると、少女を抱き上げ、駆ける。仲間を置き去りにした素早さで曲がり角に飛び込み、そこで息を潜めて、残りの三人を追った首無し騎士をやり過ごす。


 仲間の悲鳴を背に、少女を抱えて盗賊が向かう先が分かった。


 宝箱わたしだ。


 盗賊は、少女を宝箱に入れて、軽く頭を撫で、ふたを閉めて隠した。


 部屋を出た彼が叫ぶ。


「こっちだ!」


 それっきり、盗賊がどうなったのかはわからない。後を追って確かめる事が出来なかったから。閉ざされた扉は、ついぞ、開かれる事は無かった。


 "収納している財貨の価値が基準値を越えてレベルが上がりました"

 "収納している財貨の価値が基準値を越えてレベルが上がりました"

 "収納してーー"


 な、何、レベルがガンガン上がってる。


 収納した財貨って、この子?


 "『人食い箱に擬態』を達成、進化の条件を満たしました"

 "進化先をリストから選んでください"


 不思議な声がようやく終わった。


 色々あったけど、まず、この子について。


 今は、休ませる。


 後はそれから。

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『みどりの竜』
 一話完結、ショートショートコメディです。


『月の音色』
 声優、大原さやかさんのネットラジオに投稿した400文字以下の物語


『いくとちゃんとおじいちゃん』
 子供に読み聞かせるとき、大人も一緒に楽しめる童話を目指しました。
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