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ロールド  作者: ハム
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第7話

夜も空けきらぬホテルの一室で本島は落ち着く事なく連絡を待っていた。

その表情は深刻で余裕など微塵もなかった。

そんな時本島の部屋の電話が鳴る。本島は直ぐ様受話器を取り応対した。


『もしもし…』


『…本島か?…私だ』


『や、柳か、待ってたぞ……それでどうなった?』


『…悪い報せだ……』


『…ま、まさか……』


『…あぁ…一足遅く、卵は羽化してしまったよ……全く…困ったもんだ…』


『…そ、それで河野は…』


『…彼には悪いが埋立て地を封鎖させて貰ったよ……これ以上の被害の拡大を防ぐ為にね…』


『…じゃあ、河野は?』


『…事態が収集し生き残っていれば助けよう……しかし…何名かの所員に関しては、もう手遅れだ…』


『…奴等はもう発症しているのか?』


『…お前も資料は読んでいるんだから知ってるだろ?…あれは発症迄にはまだ時間が掛かる……それにしても困った事になったもんだ……』


『…あぁ……俺はどうすれば良い?』


『…お前はそのまま待機だ…下手に動くな……また連絡するから、其処で待て…』


『…わ、分かった…』


電話はが切れ深い溜め息と共にベッドに腰を下ろす本島、これからどんな事が起こるのか予想も出来ず悶々とし、苛立ちと焦りからベッド横に置いてあったウィスキーを口に流し込んだ。


『…すまん、河野……』


その頃、田沢達は出張所事務室で各々情報収集をしていた。テレビは映るのだがどのチャンネルに合わせてもウイルステロ等のニュースはなく、大野の恋人や、向井の家族にメールで何気なく聞いてみたが、そんな情報は無く何かを感じ取った田沢は事務所にある無線を駆使し自衛隊の情報を得ようとしていた。


『…どうです田沢さん?』


『シッ…静かに…』


田沢が無線を弄ると自衛隊と思わしき会話が聞こえてきた。


『ジッ……こ…ちら第2……隊…接地……了です………』


『…ジッジ……解……周囲の……避難……なってい…』


『……半径……3キ……避……誘導……了……』


『……良いか……今……誰が……来ても通しては…ならな…い…もし……従わな……場合……発砲…許可……る…』


『何言ってんだかよく分かんないっすねー…』


『どうやら…此処の埋立て地は完全に封鎖されたらしい…後…信じたくはないが発砲許可も出たみたいだ…』


田沢の放った言葉に皆信じられぬと言った表情をしていた。


『田沢…それは本当か?』


『聞き取り辛かったですが、多分合ってます…』


『しかし…ありえないでしょう…日本の自衛隊に発砲許可が降りるなんて…』


『……もし、それ程のウイルスが撒かれていたのなら……あり得なくはないよ…』


『じゃあ…何ですか?俺達が橋を渡ろうとすれば撃たれるって事ですか?』


『信じたくはないが…そうなる…』


『…まぁ…此処は安全だし、幸い食料品も備蓄されてる…外出禁止ならば安全になるまで此処にいようじゃないか!…なっ、田沢』


『そうですね。情報が何も入って来ないですし、こう言う時は下手に動いても仕方がない…会社にも此処に居る事は無線で連絡もしているから、安全になるまで此処に居よう…』


『取り敢えず戸締まりは完璧です。神谷さん仮眠室か休憩室で彼女を休ませては?』


『…おぉ…そうだった。秋山さんだったかな?こっちが仮眠室になっているから使うと良い…』


『あ、ありがとうございます…』


神谷は秋山を仮眠室に案内し大野と向井は事務所の応接用ソファに深く腰を下ろした。田沢は無線とにらめっこしていたが、戻って来た神谷に声を掛けた。


『…神谷さん。ちょっと良いですか?……』


二人は事務所のドアを出て何やら話をしていた。大野と向井はテレビのニュース番組を呆然と眺めながらソファに寄り掛かっていた。


『どうした田沢?』


『…何かおかし過ぎません?テレビはいつも通りで、此処であってる事を一切報じてないですし…先程の自衛隊の指示も異常です…』


『…確かに、おかしい…』


『……俺には嫌な予感がしてならないんです……もしもの場合に備えて、何か武器になる物はありませんか?』


『おいおい、武器とは物騒だな…』


『万が一の為ですよ…万が一の…』


田沢の表情から何かを察した神谷は、田沢に付いてくる様に促すと階段を降り倉庫内を進んで行った。


『田沢、此処には色んな物が置いてあり、色んな荷も入ってくる…』


『…はい』


『中には何故か税関をすり抜けたが送り先に届けられない物もあってな……』


『…はぁ…それって一体…』


『…まぁそう急くな…普通ならそんな物警察に渡して終わりなんだかな……それをやると一応捜査が入ったりと面倒なんだよ……まぁ…社長公認で俺が此処に預かってる訳なんだが……勿論極秘事項だぞ……』


そう言って倉庫入り口から見て右奥に連れて来られた田沢、神谷はその足下にあるハッチを顎で指し示した。そのハッチを恐る恐る開くと中には短い梯子が表れ神谷はそれを降りて中へと入って行く、中は真っ暗だったが神谷が備え付けられた照明のスイッチを入れると薄暗いながらも周囲は光に照らされた。下水の様な丸く長い空洞に背丈は小さいが長い棚が置かれており、壁には白い布が掛けられており埃を被っていた。


神谷がその布を取り払うと被っていた埃が宙に舞いライトに照らし出される。思わずくしゃみが出る田沢、埃も治まり改めて周囲を見回すと其処では日本では絶対にあり得ない光景が広がっていた。壁一面に様々な銃が置かれ、弾の種類も様々、日本刀や軍用マチェット、手榴弾等武器と言われる物が揃っていた。


『…な、何なんです此処は…』


『驚いたか、田沢!』


『当たり前でしょ!何で日本にこんな物が…』


『だから言ったろ、此処には届けられない物もあるって…』


『しかし……これって全部本物ですか?』


『あぁ…全てな…』


田沢は手近なショットガンを手にとってみた


『…これは……』


『どうだ、凄いだろ?』


『……いや、これは使えません…』


『そんなはずはない!どれも月1で社長とメンテナンスしてんだ!使えない訳はないだろう?』


『そう言う事を言ってるんじゃありません……これは威力がありすぎる…』


『武器が欲しいと言ったのはお前だろ?』


『マチェットとスタンガン、ナイフに先程上にあった鉄パイプと金属バットは使えます。あと、ハンドガンも…ただ他のに至っては威力が有りすぎる!もし自衛隊にバレたら会社を潰しかねない…』


『…んー…確かに…』


『…取り敢えずさっき言った物だけ運びましょう…』


『おぉ…そうだな!…俺は代車を持ってくるから…』


そう言って神谷は梯子を登って行った。田沢は使えそうな物を選び梯子の上に居る神谷に渡して行った。軍用のショルダーバッグも4つあったので、それも持って行く事にした。


改めて周囲を見回し気付く、トンネルの様な地下室の先に鉄の壁があったが扉の様になっていた。その隙間から更に奥に通路がある事が分かる。荷を運び終え梯子を上がる田沢は神谷に尋ねた。


『…神谷さん…』


『…ん?…どうした?』


『地下の武器庫なんですが…更に奥に続いてるみたいでしたが…』


『…あぁ…あれか……ありゃ…この埋立て地を作った際に作られたもんでな……』


『…あれは何処に続いてるんです?』


『…確か……この埋立て地の橋の向こうって聞いた事がある……』


『……そうですか……あそこは使えますね…最悪の場合…あそこから脱出しましょう……』


『…しかし、俺も社長に聞いただけで実際は知らねぇぜ…』


『…分かってます…あくまで最悪の場合ですから…』


『……分かった…』


『…神谷さん…俺…さっきの武器庫に用事を思い出したんで戻ります……』


『おい!ちょっと待てよ!これどうすんだ?』


『…すいません…向井に使い方説明しといて下さい……あと、大野には銃は渡さないで下さい…』


そう言って倉庫の闇の中を田沢は武器庫に戻って行った。神谷は頭を掻きながらやれやれと言った表情を浮かべていた。


研究所から飛び出した死者3体は夕暮れにも関わらず雨雲により薄暗くなり大雨の降り注ぐ中をさ迷い歩いていた。彼らは元々実験解剖用の死体。見た目は男2体、女1体ではあったが、一糸纏わぬ姿で髪の毛も剃られ、乳房と性器を除いては見分けの付かない姿をしていた。更に身体は死後防腐処理をされており、薬品によって白ではなく黄色い肌をしていた。


大雨の中鼻をひくつかせ、何かの匂いを感じ取った死者達は一度立ち止まり歯を剥き出しに絵顔になった、そして静かに言葉を発する。


『………ブレイン……』


何かを嗅ぎ取った彼らはその匂いに走り出す。大雨等気にもなっていない様に、彼らが匂いを嗅ぎ付けた先には傘をさし自販機の前で飲み物を購入している男女4人の姿があった。


『…たく……何で帰れないんだ?』


『仕方ないよ…自衛隊って国の命令で動いてるんでしょ?』


『大体この埋立て地…コンビニすらないのに……食料位支給しに来いよな……』


『そんな事言っても仕方ないでしょ?食料なら会社にあるじゃない…』


『俺は今日ラーメン食いたい気分だったの!』


『…はい、はい、解放されたら皆で食べに行きましょ。』


『………ねぇ………』


『…ん?………どうした?』


『……あ、あれ…何?』


恐る恐る指を指した方を見ると死者達が立っていた。徐々に近付く彼等に恐怖心を抱きながら興味深くその場に居合わせた4人は死者を見詰めていた。




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