第22話
またまたかなり期間が開いてしまい申し訳ありません。久々でもしかしたら話が行き違ってるかも知れませんが、その辺はご指摘下さい。ご意見励ましになりますので宜しくお願い致します(^-^)/
松尾が田沢の前から大人しく去ったのは田沢の目が尋常ではなく、田沢の指示に従わなければ松尾は田沢に本当に撃たれていたと感じたからだ、確固たる意思を持っている様で実は頭が混乱しており何を信じて良いかも分からない、只田沢の大切に扱っていた女性感染者を田沢はどんな事があってもあらゆる危害から守ったであろう。今の田沢には松尾は危害を加える可能性を秘めた者でしかなかったと感じ、松尾は田沢の前から素直に引き下がったのだ、例え田沢の大切な女性が田沢を襲う可能性があってもだ、
落胆した表情で階段をゆっくりと力無く降りて行く松尾は己れ自信も考えを整理していた。田沢からは何の説明も受けておらず、只察して田沢の前から去った事が納得理解出来ぬ自分が居たからだ、松尾の思慮は女性感染者はたにとって掛け換えのない人である事は容易に理解出来た。今まで短い時間ではあるがお互いに協力し、この埋立て地から逃げる事を目標とし支え合った仲間と言って過言ではない存在、そんな彼を一瞬にして豹変させた女性、考える迄も無く、由紀恵は田沢の恋人、もしくは奥さんであろうと予測出来た、だが松尾は納得出来ないでいた、
更に深く考える松尾、元々何故此処に田沢の大切な人が居るのか?神谷の話では田沢達はこの埋立て地に研究所の引っ越し業務で来ている事は聞いていた、田沢と此処まで共に行動していたが、この地に大切な人が居るとは聞かされていないし、それを知っていたら避難所より真っ先に此処に向かったであろう。
先程の田沢の表情からは信じられないと言う表情からも懐かしさが溢れていた。由紀恵とは久々に此処で再開したに過ぎない、だとしたら彼女が何故此処に居たのか?
更に考え込む松尾はふと彼女の着ていた物に着眼した。白衣を纏っていたが此処で働いて居て偶然久々に再開したのか?いや、まだ違和感があった。彼女が白衣の下に纏っていた物は服とは言えない代物だった。白衣は此処で手に入れたとして彼女が何故此処に居たのかが不明瞭だ、この埋立て地の何処かで働いてたのか、それとも近くの海で泳いでる最中今回の事に巻き込まれたのか、松尾の頭の中は整理が付かない状況であったが、ふと松尾の脳裏に引っ掛かった事があった。
冷凍室に保管されていた実験用の遺体は聞かされた数だと確か5体、今の時点で確認されているのは外に居た3体と矢上達が燃やし始末した1体の計4体、残りの1体は?それがもし彼女であったらと頭に過った時、松尾はやり場の無い憤りを感じていた。
松尾がその考えに至った頃に彼は一階に到着していた。一階で待っていた河野達は階段からの気配を感じ持っていた懐中電灯で松尾を照らした、そこに田沢は一緒には居らず松尾に問い掛けたが何かを考え込んでいて無反応、河野は松尾に近付き無意識に足を止めた松尾の量肩を揺さぶり松尾に問い掛けた。
『どうしたんだ松尾さん?………上で何があった?田沢君は?』
河野の問い掛けに上の空だった松尾は量肩を揺さぶられた事で我に返る、河野の姿を認識した途端松尾は河野のスーツの胸ぐらを掴み壁に叩き付け顔を近付け河野に問い質した、
『一体どう言う事だ?5体目の死者の特徴を教えろ!』
松尾の目には怒りが溢れていた。河野の松尾が言った事を理解できず委縮し目を見開いていたが、松尾の質問に息苦しそうに答えた。
『一体何の事だ?………5体目の死者?…………そ、それなら多分………綺麗で長い黒髪をした………東洋人の女性だ』
河野の言葉を聞き考えていた事が繋がった松尾は掴んでいた河野の胸ぐらを少し離しながら呟いた。
『………何て事だ!』
一度離したスーツを更に掴み河野を再度壁に押し付ける、怒りの籠った目で松尾は河野を責めた、
『………やはり何もかもあんたのせいか?』
松尾の言葉が理解出来ぬと言った表情の河野が松尾に聞き返した、
『いったい………何の事です?』
呆気に取られて居た自衛隊員二人がふと我に返り苦しそうな河野から松尾を引き離した。首を圧迫さるた事で息苦しかった河野は呼吸を整えながら松尾に問い返した。
『はぁ………はぁ………いったい………何の事なんだ?………はぁはぁ………説明してくれ!』
松尾は二階で起きた出来事を河野に話して聞かせた、自身の予想を交えながら簡潔に語った。まだ冷静になりきれない松尾は少し興奮した様子だった、河野は松尾の話の内容を聞く内に表情が強ばって行った。
『そ、そんな………有り得ない!………私は、柳から………柳………あいつ!………?あいつ出任せを!』
更に柳の虚言に付き合っていた自分に苛立ちを隠せない河野、壁に一度頭を打ち付け強く目を閉じていた。そんな河野の様子を端から見ていた松尾は河野が嘘を言っておらず、何も知らされていなかったのだと悟った。
だがその時松尾の河野に向けた怒号が、研究所外に集まりつつある死者に届き、死者達の欲望を煽り、研究所のシャッターを叩く音が更に増していた。彼等は多少の知能を有し、シャッターを素手ではなく物を使って壊そうとしている。外の様子に気付いた河野は松尾を中心に語り掛けた。
『此処に留まるのは危険だ、言いたい事はあるだろうが、今は此処を脱出する事が優先だ、無事に脱出出来たなら、私はどんな罰でも受ける、だから今は協力して頂きたい!』
河野の表情と言葉に偽りは無かった、何故なら彼も柳に騙された被害者なのだ、松尾は河野の言葉に嘘偽りが無い事を確信すると無言で頷いた。自衛隊員二名も息を飲みつつ頷いた。そんな時階段上部から人の気配を感じた河野は銃を向け、階段上部をライトで照らした。その先に立っていたのは田沢と女性死者だった。険しい顔で銃口を向けたまま二人を見詰める河野、隊員は何事か理解できず田沢達を見上げていた。
『た、田沢君………』
田沢は松尾や河野を見下ろしながら一階に居る彼等を由紀恵の肩に手を回し見詰めていた。話を聞かれてしまったかも知れない。しかし松尾はそんな事より田沢の決意が気になり田沢に問い掛けた。
『や、やぁ………田沢君、結論は出たのかい?』
松尾の問いに河野と隊員は息を飲む様に田沢達を見上げている。相変わらず外では死者達がシャッターを壊そうと本能剥き出しで騒いでいた。そんな雑音が聞こえる中、皆は田沢の発言に注目する為に沈黙を保っていた。田沢は一体どんな決断を下すのか、我々と共に此処を脱出すると信じて止まない彼等に田沢は予想外の返答をした。
『すみません………僕と由紀恵は此処に残ろうと思います………』
田沢の意見に暫しの沈黙の後驚いた表情を見せた河野達だったが、彼の誠実さや決心を決めた目を見ると、残念そうに肩を落とした。
『そうか………しかし………』
松尾も肩を落としながら溜め息を吐く様にそう答えたが、田沢の表情に躊躇いは無かった。ゆっくり二人で階段を降りると、それに合わせた様に隊員達は由紀恵から離れた。彼女は先程松尾が見た時より正々堂々と背筋を伸ばし前を見据えていた。
『僕は由紀恵と一緒に居ます………すみませんが、皆さんは早く此処から脱出して下さい』
迷いのない彼の表情に逆に河野達は困惑していたが、田沢の意思をしっかり聞いた彼等に反論する事は無かった。これ以上討論している時間は無く外にいる死者のシャッターを叩く音は明らかに増えている、此処もそう長くは持たないだろうし、いつ爆撃を受けるかも分からない、河野は田沢に最終確認を取った、
『本当に………良いんだね?』
河野の問いに黙って頷く田沢、それを見て河野は松尾に目をやる、松尾には先程の怒りは無く河野を見て黙って頷くと河野と松尾、自衛隊員達は静かにだが素早く地下への階段を降りて行った。田沢は由紀恵の肩を抱きながら皆が階段を降りて行くのを見届けていた。
ふと由紀恵が田沢に尋ねた。
『本当ニコレデ良カッタノ?』
こんな危機的な状況にも関わらず田沢は由紀恵の問いに笑顔で答えた。
『あぁ………もう君を手放すなんて真っ平だからね………』
その答えに由紀恵は田沢の肩に深く寄り添うと暫し目を閉じ物思いに耽った、田沢はそんな由紀恵肩をしっかり抱いたまま松尾達が降り立った地下への階段を見詰めた。
〈………どうか皆無事に脱出して下さい………〉
田沢は地下への暗闇に脳内でそう投げ掛けた。
相変わらずシャッターを叩く無数の音、死者達は直ぐ其処まで迫っているだが田沢の心には恐怖は無く不思議と穏やかであった。外の騒がしさが増す中田沢は由紀恵に語りかけた。
『………なぁ、由紀恵』
『ン?何?………』
『俺の脳を食べてくれないか?』
田沢の言葉に由紀恵は目を見開き心底驚いた表情をしていた、由紀恵は黙っていたが田沢は更に話を続けた
『此処に留まる事に決心は変わらない………でも何れ奴等が此処に押し入ってくる………そうなったら由紀恵は襲われないが僕は奴等の餌食だ………奴等に脳を食われる位なら、由紀恵に食べて欲しいんだ………そうしたら僕は君の一部になれる………』
田沢は穏やかな表情ではあったが、彼の言葉からは揺るぎない決心が滲み出ていた。田沢の人間性を理解していた由紀恵は田沢に何も言えずにいた。暫く田沢に返答せず考え込む由紀恵、暫しの沈黙の後由紀恵は静かに答えた
『………分カッタワ………ジャア、誰ニモ邪魔サレナイ場所二行キマショウ………』
由紀恵は優しく田沢の手を握ると暗闇の中を歩き出した。田沢の優しい表情を噛み締めるかの様にゆっくりと、
その頃研究所の外に群がって居た死者の一人がシャッターに亀裂を作り研究所内部に入ろうとしている所だった。




