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ロールド  作者: ハム
16/23

第16話

暑さで頭もボーッとなりそうです。読んで頂いてる皆さん。熱中症にはご注意を!

今回のパートはB(某ホラー映画の日本版のタイトルの頭文字)のテーマ曲をYouTubeででも聴きながら読んで頂きたいです

明かりも点いていない。闇に支配された避難所の一階で田沢達は頭を悩ませていた。このまま此処にじっとしていても死を待つばかりである事は習知の事実であったが、危険が迫っているからこそ冷静にと慎重になっていた。しかし良い案が浮かばない。田沢達は一度二階まで戻り、外の様子を見ながら結局松尾が提案した作戦を実行する事にした。先ず一階で河野が車の鍵をキーレスで解除し、物音を立てない様に二階まで戻り、しばらく二階から様子を見ると言う簡単な作戦だった。流石に二階ならば奴等に匂いを嗅ぎ付けられる事はない。河野が緊張の面持ちで一階に降りて行った。一階に辿り着いてもやはり何の物音もせず、河野は緊張からか額にうっすらと汗を掻いていた。スーツの右ポケットから鍵を取り出し、息を飲み込みながらボタンを押した。ピピっと言う機械音がする。河野はそれを確認するとゆっくりと田沢達の居る二階に歩を進めた。相変わらず静寂の過る空間、やはり田沢の予想は外れていた、と思いきや、外の方から呻き声が聞こえて来た。河野は物音を立てない様にして急いで二階に戻ると、田沢達は外を見て固まっていた。河野も窓から外を覗くと其処には10人程の死者が車を取り囲んでいた。河野はその光景に再度息を飲む、田沢の予想通り死者は隠れていた。死者にとっては生存者は獲物でしかないと再認識した彼等は背筋に冷たい物を感じた。河野が他の物を代弁する様に言葉を発した。


『………何なんだ…………こいつらは』


皆視線の先にある現実を受け止められずに居たが、田沢が皆を窓から離れた場所に呼び寄せた。田沢はリュックから細長いケースに入った物を河野と所員に渡しながら言葉を発した。


『………一応、特殊警棒です………無いよりはマシでしょ?………ただ、戦う事は前提じゃなく、あくまでも身を守る為に………』


受け取った河野と男性所員はケースから警棒を取り出すと縮まった警棒を振り抜く様に伸ばした。女性所員はケースを両手で持ち恐怖に耐えていた。隊員二人は自動小銃のセーフティを解除しいつでも撃てる様な状態にしていた。田沢と松尾も拳銃を取り出し隊員同様にいつでも発砲出来る状態にした。そんな田沢達を見て隊員が驚き小声ながら声を掛けてきた。


『そ、それは本物ですか?そんな物一体何処から………』


常識を振りかざした隊員に松尾が反論する。


『今はそんな事どうでも良いだろ?私達の目的は無事に生き残る事だ!銃は奴等に効かないが足止めにはなる!』


松尾の言葉に納得したのか、隊員達は頷く、田沢は無言で更にリュックを漁り中から二本の大きな長い棒を取り出し片方を松尾に渡した。それが何なのか分からない松尾は田沢に尋ねた。


『こいつは一体何だい?』


田沢は更にリュックから何か漁りながら松尾の問いに答えた。


『………ソード型のスタンガンです………先程自衛隊が仕掛けた坊波扉の電流で奴等は完全に動かなくなりました………電力弱いですが、効力はあるかと………』


田沢の返答に納得したのか無言で頷く、田沢は更にリュックからもう一つハンドガンを取り出し、河野に渡した。渡す際に河野に言葉を掛けた。


『………あなたを信用して渡すんです………使い方は分かりますね?………少しでも我々に銃口を向ければ容赦なくあなたを撃ちますから………それと、これも………』


田沢はそう言って手榴弾を手渡した。隊員は更に驚いて居たが、何の反論や意見もする事はなかった。装備を確認し終えると田沢が再び言葉を発した。


『奴等の動きが大人しくなったら行きましょう………奴等はある程度人間と同じ様で痛覚はある様です………目眩ましを食らわせれば数秒は時間を稼げます………』


その言葉に皆頷いて居たが、女性所員だけは震えていた。男性所員は震える彼女の手を握り女性が男性所員の顔を見ると、男性所員は無言で女性の目を見て頷いた。その行動が女性所員の震えを少しだけ抑えた。しばらく待つと死者は車に群がる事を止め避難所の建物周囲を歩き回っていた。それを黙視し恐る恐る一階に降りていく田沢一行、恐怖と緊張が彼等を襲っていたが、その緊張感を拭う様に松尾が河野に冗談を言って見せた。


『河野さん………あんたにはこの自体を引き起こした貸しがあったな………』


苦笑いを浮かべながら軽く頷いてみる河野、続けて松尾が言葉を発した。


『無事に脱出出来たら、一杯奢れよ………』


再度苦笑いを浮かべながら頷く河野と目を合わせる松尾、それを合図の様に田沢が言葉を発した。


『じゃあ………行きましょう!』


その言葉を合図に扉を開く、その瞬間目の前に徘徊する死者が目に入る。外を徘徊する死者は田沢達に気付くと先程迄の無気力な状態からやる気を取り戻した様に田沢達を目掛けて襲い掛かって来た。田沢と松尾は咄嗟の事に銃でもスタンガンでもなく、鉄パイプで応戦して行った。河野も車に近づく為に特殊警棒で応戦し、隊員達はその後を自動小銃を死者に見舞いながら発砲していた。どんなに体に銃弾や打撃を受けても、死者達の勢いは弱まる事なく田沢達生存者を喰らおうと押し寄せてくる。田沢達は何とか襲い掛かる死者を打破しながら車に乗り込む、隊員達もジープに乗り込んだが、男性所員は女性所員を庇いながらの攻防、何とか近付いたその時であった。女性所員は恐怖の余り避難所の建物の中に恐怖の余り走って行く、それを見て居た男性所員も彼女を気にしてか同様の行動を起こす、その姿を見て居た河野は直ぐに車のドアをロックした。車の外を群がる死者をまじまじと見て更に恐怖に逆立つ、河野は咄嗟にエンジンを掛け、隊員もそれに続いた。咄嗟に田沢が言葉を発した。


『まだ、二人が!』


それを遮る様に河野が怒鳴る。


『諦めろ!』


河野の言葉と同時にバックで切り返し発車する河野達を乗せた車、隊員達もそれに続く、所員は無事に建物に入り鍵を掛け板で打ち付けられた隙間から河野達を見て居た。車が走り去ると建物に戻った女性所員は泣き崩れた。男性所員はそれを慰める様に彼女を抱き締めた。女性所員は泣きながら叫んだ。


『私達、置き去りにされたわ………』


女性所員を抱き締めながら、女性所員が逃げ戻った事で自業自得とは言え運命を共にする事になった男性所員は女性所員を言い聞かせる様に言葉を放った。


『仕方がないんだ!………』


男性所員の言葉で自分の身を覚悟したかの様に泣き崩れる女性所員、死者の殆どが河野達に着いて行ったが数名が避難所の窓をバンバンと激しく叩いていた。

河野は車を発車させて死者を振りきりながら避難所を後にした。松尾は置き去りにされた二人の事を案じ引き返そうと河野に言葉を掛けたが、後ろを向くと死者達が追い掛けて来ていた。




一方、田沢達が脱出の準備をしていた頃、神谷達が待つ倉庫にも死者の手が忍び寄っていた。明かりも消し、存在感すら消していた神谷達だったが、死者の嗅覚が異常に発達しているのか、彼らの居る倉庫の扉を叩きながら、死者が言葉を発した。


『脳ミソ………』


最初は単体であったが、徐々にその数が増えて行く、神谷と大野に恐怖と絶望感が走る。扉を叩いたのが田沢では無く死者だった事に、まだ扉を破壊される事は無かったが、神谷の顔には絶望感が溢れていた。それは田沢達の安否も去る事ながら、田沢達が死者より先に此処に辿り着けなかった事にもあった。田沢達の無事を祈りつつ、まだ間に合うかも知れないと、大野を向井への伝達と共に先に地下道に向かわせる。神谷はギリギリ迄待つつもりで居た神谷の額にも焦りから汗が滲み出ていた。右手に銃を持ちトリガーを引くと息を飲み込んでいた。




向井は小田や青木を引き連れ地下道を進み建物毎に遮られた鉄の扉の鎖をボルトカッターで切断し進んで行くと言う地道な作業を繰り返していた。かなりの数の扉を進み扉すら見掛けなくなった地下道を突き進んで居た向井達に後ろから近付く荒い息遣いと小走りな足音、咄嗟に振り返り小田と青木がライトを照らす、其処には大野と秋山が照らし出され、照らし出されライトを眩しそうに立っていた。息を整えながら佇む二人に向井が問い掛けた。


『どうした?何かあったのか?』


肩で息をしていた大野が息を整えつつ向井に説明を始めた。


『上にも奴等が来てます………』


『神谷さんは?………それに田沢さんと松尾さんは?』


『田沢さん達はまだ………神谷さんはギリギリ迄待つみたいです………俺には先に行けって………』


『………そうか………』


残念そうに肩を落とす向井、向井の進んで来た地下道の先にも向井は肩を落としていた。其処には梯子が備え付けられ、ライトで下を照らすと、向こう岸との間を水が勢いよく流れ、彼等の行く手を遮っていた。大野と秋山もその光景を目にし肩を落とす、これ以上は進めないとその場に居た者は思ったが、向井は肩に掛けてあったロープを自らの腰に結び、反対を梯子にしっかり縛り着けると、流れの上流から急流に飛び込んだ。もがきなからも必死で向こう側に泳ごうとするが中々前に進まず水の勢いに体が飲まれて行く、流れが激しい為、息継ぎもままならず、向井は水の中に消えていった。その光景を呆然と見て居た大野達だったが、我に返り向井を縛っていた命綱を引き寄せ様とした、その時、流れの向こう側から向井が息も荒立たしく顔を出し梯子を掴んでいた。その光景に感極まったのか、その場に居た大野達の眼には涙が溢れていた。


水から上がった場所で息を整えると掴んでいる梯子にしっかりとロープを縛り着ける。其処までの作業を終えるとやっと向井から笑顔が溢れ、大野達に向かって親指を立てて見せた。それを見た大野達も目に溢れた涙を抑えながら向井が無事な事を歓び笑顔で応対した。








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