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ロールド  作者: ハム
15/23

第15話

お待たせしました。今回は中々纏まらず方向性を見失いつつも何とか書き上げました。納得行ったかと言うと行ってません。申し訳ないです(>_<)

人であった時の知識や知恵を持ったままゾンビと化した彼女は驚異と言う以外にないだろう。それは矢上だけでなく、森山や江口達にも同様に引き継がれていると考えるのが普通であった。もう以前の矢上ではない。彼女は非常に嬉しそうに、獲物として捕獲した男性の脳を貪っている。口の回りや服に血が付着しようとも何ら気にする事なく、まるでスイカでも貪っている様だ。


矢上が男性に助けを求める姿を部屋の入り口から見ていた者がいた。体に布を巻き付け、白衣を纏いセミロングの髪は濡れており、それが美しくも見えた。物陰から見ていたのは女性であった。彼女は矢上の行動を観察し、戸惑っていた。そう、彼女は冷凍室にあった死体の内の一体、体や頭は生きた人間の脳を欲しているが、自身が人間であった頃の記憶や尊厳、良心を持ち合わせ、矢上や他の死者の様には出来ない自分に戸惑っていた。彼女は冷凍室にあった他の死体とは違い防腐処理で黄色い肌をしておらず、普通と言っては可笑しいが矢上の様に透き通る様な白い肌をしていた。彼女は矢上を同類と認識していたが、獲物を誘う姿に恐怖を抱き、矢上が部屋に招き入れられた所を見ると、その場を去り研究所の階段を登ると白衣を見付けた小部屋に戻り震えた。それは単に矢上が恐いと言うのではなく、自分も矢上の様に生存者の新鮮な脳を求め様としており、その声に従ってしまうと自我すら崩壊してしまうのではないかと恐怖したのだ。




一方田沢達が身を置く避難所では田沢達が自衛隊員や所員に脱出の説明をしていた。彼等は田沢達の話を無謀だと思ったが、もうそれしか方法がないのかも知れないと覚悟を決めようとしていた。田沢の予想通り隊員の持っている通信機は周波数を変更されており、本隊との連絡を取ることが出来なくなっていた。田沢の話が終わると皆考え込んで居たが、隊員の一人が挙手し田沢に向かって言葉を発した。


『あの………自分を一緒に連れて行って下さい!』


その発言にもう一人の隊員が意見し始めた。


『おい、お前分かってるのか?これは明らかな命令違反だぞ!見付かれば俺達もどうなるか分からないんだぞ!』


『………分かっているさ、ただ………俺は生きたい!生きて子供達と嫁に会いたいんだ!………お前だってそうだろ?』


『し、しかし………まだ此処が爆撃されるなんて限らないだろ?』


河野が隊員の言葉を聞き、それに割って入った。


『柳と言う男を知っているか?………この作戦を指揮している黒幕は恐らく彼だ………』


脱出に賛成の隊員は知らぬと言った表情をしていたが、反対していた隊員は何やら知っている表情を浮かばせた。

『君は知ってる様だね………』


隊員は無言で頷き、この任務につく前に隊舎で他の隊員の雑談を思い出していた。

〈今回の任務ってあの腹黒柳の指示らしいな………〉


〈誰だよそいつ………〉


〈お前知らないのか?柳関連で動く作戦ってのは危険な作戦ばかりらしいぞ………〉


〈危険ってどれ位?〉


〈そりゃ………二階級特進になる位だよ〉


冗談の様に話を聞いて居たが二階級特進=死と言う事はその話を聞いていた隊員も分かっていた。

反対していた隊員の表情が暗くなると河野は話を続けた。


『柳………あいつは強かな男だよ………多少の犠牲は仕方なしと切り捨てる男だ………』


反対していた隊員も河野の言葉に反論出来ずに居た。しばらく皆考え込んで所員二人も脱出に参加する事にした。反対していた隊員も最後には参加を表明、これで皆の意志が固まった。後は策を実行に移すのみとなる。田沢は神谷に渡された通信機で神谷に連絡を取ろうとしていた。




神谷達は相変わらず存在感を消し倉庫で田沢からの連絡を待っていた。いつでも動ける様に脱出の準備は調い、万全の体勢で暇を持て余していた。


『………実はもう、事態が終息してるって事はないっすよね?』


『それならば何らかのアクションが起きてるんじゃないのか?』


『さっきの銃撃と爆発音がそれなんじゃ?』


意見や疑問をぶつけつつ今か今かと通信機を眺めていた。その時だった。通信機から声が聞こえてきた。


『か………さん………神谷さん………』


田沢の声だと確信すると素早く応答する。


『田沢!無事なのか?』


『………えぇ………こちらは無事です………今………橋付近の避難所に居ます』


『そうか………それで現状は?』


田沢は先程の銃撃音、爆発音の事、自分の知り得た死者の事やその危険性と脅威、どうやれば殺せるのか、注意点、これからの作戦等を神谷に話した。神谷の横にべったりと引っ付き通信機から聞こえる。田沢の話に耳を傾ける大野と向井、田沢の無事な声を聞き喜んでいた。


『神谷さん………自衛隊の銃撃から逃れた奴等が………そちらに向かった筈です………呉々も注意を………後、脱出は予定通りに………』


『分かった………田沢………必ず無事に脱出しろよ………』


『分かりました………皆も無事に………』


『任せといて下さいよ!』


丁度その時、集団の迫る喚き声が神谷達に聞こえてきた。近隣の建物からガラスの割れる音や、隠れ潜んで居た者達の逃げ惑う声等が聞こえてきた。騒音が近付くに連れて神谷達の警戒心が高まる。


『此処は大丈夫っすよね?』


『あぁ………多分な………トラック入れたドアも鉄製だし鍵もしっかりしてる………押し倒そうにもトラックをギリギリ寄せてるから暫くは大丈夫だ………』


『兎に角、奴等に気付かれない様に静かにな………田沢の話では銃でも殺せないらしいし………』


喚き声がかなり近くなり、神谷達の緊張感も増した。外からは生存者が助けを求めながら神谷達の倉庫前を逃げ惑う者も居たが、これ以上のリスクを負う事は自らの危険が増すと、助けたい気持ちを押し殺し唇を噛み締め耐えるしかなかった。


外で起きている惨劇は正に地獄絵図と言えるだろう。元生存者が人間を襲い脳を食い殺す、生存者はその光景に恐怖し全力で逃げるが、死者と化した彼等は疲れを知らず、リミッターも解除状態なのか、疲れて動きの遅くなった生存者に容赦なく襲いかかった。生存者が助けを求めてこの倉庫のドアを叩き助けを求めて来たが、助けたい気持ちを抑え、すまぬと言う気持ちで俯くしかなかった。秋山達は地下通路の中で震えていた。


脱出の準備は出来ていたが神谷達は田沢と松尾を待っていた。先程田沢との連絡では死者に建物が取り囲まれて接近が困難な場合は別ルートで脱出する事になっていたが、望みとしては皆一緒に脱出したいと、しかしいざと言う時に動いては遅いと向井を先に地下に潜らせ、道を塞ぐ扉を開けておく様にと命じた。向井がボルトカッターで鎖を切り、小田と青木がライトで向井の手元を照らし補助していた。秋山は咄嗟の時の為に後方を見張っていた。




田沢の危惧した通り、死者の群れは避難所から見えた数だけではなく今や埋立て地は百人程の死者の群れによって支配されていた。松尾や河野の楽観的観測は見事に外れていたが、矢上達の燃やした死者は燃え尽き、煙は消え更に雨が止んだ事によりその後に襲われ脳を食い荒らされ生き絶えたもの達は死者として蘇る事は無かった。それだけが嬉しい誤算と言えよう。


田沢達は避難所に居る皆に此処からの脱出案を説明し、電気の消えた暗い建物内をゆっくりと息を殺しながら進んだ。三階の部屋を出て階段に差し掛かると明かりも着けず一階を覗き込んだが闇が支配する中では何も見えなかったが、聞き耳を立てる。何の気配や音すらない静寂、ゆっくりと階段を降りて行く一行、二階に置かれていた通信機を試すが案の定本隊とは繋がらず砂嵐の様な雑音が流れるだけだった。二階の窓から下を覗くと死者が一体目につく、死者は倒れている元生存者に近付くと残り粕を集める様に、貪っていた。皆が息を飲みながらその光景を見ていた。田沢一行は更に一階迄降りると板等で塞がれた窓の隙間から外の様子を伺っていた。外の様子を伺っていた松尾が呟いた。


『………よし、あいつ一人みたいだな………』


しかし、松尾の言葉を田沢が否定した、


『………いや………分かりませんよ………先程奴等を監察してましたが、ある程度奴等は知能や学習能力を有している可能性があります………あれは我々を油断させる罠かも………』


『………確かに………もっと良くみたいが………この板を外す訳には………』


『所で、この人数全てが私の車に乗り込むのは困難なのだが………』


所員二名に自衛隊二名、田沢、河野、松尾を含めると計7名いるのだが、どう考えても河野の車には定員オーバーになる。その事で隊員からの提案で隊員は自分達の車で移動する事にした。


『………鍵はちゃんと持ってますね?』


田沢の問いに河野はスーツのポケットから鍵を取り出し、振って見せた。隊員達の車には鍵を付けたままだとの事だった。皆息を飲んで気配を圧し殺す松尾が田沢に静かに尋ねた。


『………どうする?一気に扉から出て車に乗り込むか?』


田沢は言葉には出さず首を横に振り呟いた。


『………試しに何かアクションを起こしてみたいですね………隠れてる奴が居れば誘き出せるかも知れません………』


『アクションね………』


田沢の言葉に松尾はふと河野の持っていた車のキーが目に留まった。


『河野さん………あの車はキーレスかね?』


『え、えぇ………』


『それで試しに車の鍵を開けてみてはどうかね?』


松尾の提案に田沢と河野が頷いたが女性所員会話に割って入って来た。


『あの………もし音を出して、隠れてる奴等が出てきたとしますよ………でもその数が多かった場合はどうなるんです?』


その事までは頭の回ってなかった田沢と松尾はハッとした。改めて考えるともし音で誘き寄せても死者の人数が余りにも多いと脱出も困難になり、更に建物内に居るとは言え、こちらの匂いに気付かれてしまう恐れがあった。再び皆が首を傾げた。





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