第14話
今回中々の出来かと自分で思ってしまいました(-_-;)出来と言うか楽しんで書けました。
これも読者の方々が居てくれるお蔭です☆
埋立て地の一画にある倉庫、電気も消され人の気配が感じられないが、その中には神谷達が息を殺す様に静かに現状を見極めようとしていた。先程の銃撃音や爆発音は此処まで響いており、外の状況が全く分からないながらも、死者との接触を経験した彼等は死者の危険さを知り極力の接触は避けたいと自分達の存在を消すかの様に静かに構えていた。会話も極力小さくしていた。
『田沢さん達無事ですかね?』
『無事に決まってるだろ!』
『………でも、もう二時間は過ぎてますよ………何の連絡もないですし………』
『………きっと大丈夫!今は何かしらの理由で何処かに隠れているのかも知れないし………』
『それってヤバイって事なんじゃ………』
大野の発言に皆俯いてしまった。皆先程の銃撃音、更に爆発音が気になっていた。その後の静けさも異様であった。正に嵐の前の静けさとはこの事かも知れない。脱出の準備は調っており、田沢と松尾の帰還を待つばかりなのだが言い知れぬ不安に大野と向井は襲われていた。
田沢達が話を整理し後は如何に此処を脱出するかを話し合っていると、突如田沢達の居る部屋の扉が開き持っていた鉄パイプを咄嗟に構えた。慌てて入ってきたのは一階の入り口付近にいた自衛隊員二名だった。二人は怯えていた。彼等も外の様子を見ていたのだろう、部屋に鍵を掛け田沢達の顔を見ると少し安堵する二人、だが外で起こっている事を理解できぬまま混乱していた。
『一体何が起こってるんだ!あ、あいつら何なんだよ!』
混乱から声を大きくする二人を慌てて静める松尾と河野、隊員の口に手をあて、人指し指を口の前に立て静かにする様にジェスチャーすると隊員もそれを理解し目を大きくしながら頷いた。河野達は口を抑えていた手を退け隊員に問い掛けた。
『一階の扉は鍵を掛けて来たか?』
河野の問いに頷いて答える隊員、田沢は先程隊員達が思わず出した大声に奴等が気付いて無いか窓から下を覗いていた。河野が更に話を続けた。
『………よし、今から説明をするから大声を出したり、物音を立てたりせずに聞いてくれ………』
隊員達は少しずつ落ち着きを取り戻し再度無言で頷いた。そして扉から離れ部屋の中央に移動すると河野は隊員達に自分達の知り得る事を説明し始めた。現実には信じられない様な事を河野から聞かされ隊員達は動揺を隠しきれずに居たが、先程実際に目にした事で信用性は高いと思い河野の話を真剣に聞いていた。田沢は下の様子を見張りながら時計を確認していた。
『………後、一時間もないな………』
神谷達との約束の時刻が迫り、田沢は少し焦りを感じたが、今下手に動いて失敗したらと考え逸る気持ちを抑え自分を落ち着かせた。
隊員達との話を終えた河野が田沢と松尾を呼んだ。話を聞き終えた隊員達は田沢と見張りを交代し窓から様子を眺めていた。
松尾は河野に確認する様に問い掛けた。
『………それで彼等は現状を理解したのか?』
頷きながら横目で松尾を見ると、河野が語り出した。
『彼等の情報も手に入りましたよ………もう少し様子を見てから橋から自衛隊は後退するそうです………無論坊波扉には電流を流したままで………それともう一方の橋でも同様に彼等が襲撃したらしいのですが、向こうも同様に電流を流し撃退したらしい………』
『………やはり、奴等はまだいそうですね………』
『あぁ………しかし河野さん………自衛隊は後退するにしても、彼等はどうするんだ………』
『それなんですが………彼等も、此処に残り防衛を続ける様に命令されたと………』
河野の言葉に松尾は驚きを隠せなかった。横目で見張りをしている隊員を見ながら彼等も犠牲にされたのだと、松尾は憤りを感じていた。自衛隊は宛に出来ず自分達の力で生き残るしかないと再認識させられた田沢が松尾と河野に質問を投げ掛けた。
『こうなったら時間的にも猶予が無いと思った方が良いですね………それでどうします?』
松尾と河野は険しい顔をしていたが、河野が田沢の問いに口を開いた。
『………私も脱出には賛成だ………それでだ、先程奴等が倉庫付近に群がって近付けない場合の事を話したのを覚えているかい?』
『はい………実はその事を先程から考えて居るのですが………』
『それなんだがね………私も一つ思い出したんだよ………埋立て地の外に通じている道の事を………』
『ほ、他にもあるんですか?』
『………あぁ………』
『それは一体何処にあるのかね?』
少し希望の光が見えた田沢と松尾は期待に溢れた表情で河野を見ていた。河野は田沢と松尾の期待に満ちた眼光を眩しげとでも言う様な表情をしていた。少し思い悩み重い口を開いた。
『………研究所だ………』
河野の発言に先程迄の希望を絶ち切られた様に肩を落とす田沢と松尾、この事件の発端となった場所、しかも青木や秋山の話では最初の死者は三人、研究所にあった死体の数は五体、田沢達はその内一体を矢上達が燃やした事を知らない。それに矢上達の発症も視野に入れると危険な事に代わり無かった。突如、隊員達が河野達に声を掛けて来た。
『見て下さい!』
隊員の言葉に全員が窓から外を覗くと坊波扉の隊員達が後退を始めていた。隊員達が後退すると共に箱状の物を設置していた。それを不思議に思った所員が河野に尋ねた。
『あの箱は何でしょうか?』
その言葉に河野達は俯き加減に眉間をしかめ、険しい表情を浮かばせながら松尾が答えた。
『爆薬だよ………』
『ば、爆薬?何でそんな物を………』
松尾の言葉に隊員達も食い掛かる様に聞いてくる。田沢、松尾、河野の三名だけは理解していた。次の言葉に三人は迷っていたが、田沢が他の者の疑問に答えた。
『………橋を爆破する為ですよ………』
『どうして………我々もまだ残っているのに………』
『結論から言うと、我々は切られたんですよ………奴等を外に出せば犠牲者や感染者は拡大する………最少の犠牲で今なら食い止める事が出来る………その為です………』
『し、しかし我々は自衛隊で!』
『それなら、もう分かって居るでしょう?………国民いや、国の為に先ず犠牲になる覚悟と信念を持ったあなた方だ………多分あなた達の使っている通信機も既に本隊との連絡は取れなくなっています………』
田沢の死刑宣告とも言った言葉に隊員達が項垂れるのは当然の結果だった。まだ全てを理解出来ていない所員が更に訪ねてくる。
『………で、でも………この事態が収拾すれば、私達は救助されて、家に帰れるんですよね?』
『いえ………我々が救助される事はありませんよ………橋を爆破した後………この埋立て地は爆撃され………跡形もなく吹き飛ばされると思います………』
所員は田沢の言葉を受け入れる事が出来なかったが、河野と松尾の険しい表情を見ると納得したのか、悔し涙を浮かべて居た。彼等に辛い現実を叩き付けなければいけなかった田沢は心苦しかった。そして希望を与えようと彼等に危険ではあるが脱出の話を聞かせる事にした。
その頃、研究所の一室で休憩を取っていた男性が物音に気が付き目を覚ます。ヒールで歩く時の独特の音がゆっくりとこちらに近付いていた。男性はその音に恐怖を抱き、物音を立てない様に静かに鉄パイプを構えた。徐々に近寄るヒールの音、男性は額にから垂れる汗を拭い、息を殺す様に震えていた。すると近付く足音が止み、音の全くしない状態になる。男性は自分の心音すら煩く感じながらも耳を澄ませていた。ふと扉の向こうから声が聞こえる。
『………誰カ居ナイノ?』
聞こえてきた声に驚く男性、自分の他にも生き残りが此処に逃げ込んで居たのだと嬉しさから声を出そうとしたが、まだ信用出来ないと、息を殺し存在感を消す様に黙り込んで居た。
『ネェ………誰カ居ルンデショ?………オ願イ助ケテヨ………』
男性は黙ってやり過ごそうと思ったが聞こえてきたのは女性の声であったのと、孤独に押し潰されそうだったのが災いし思わず声を発してしまう。
『………あ、あんた………一人か?………』
矢上はその問い掛けににんまりとした表情を一瞬見せた。まるで魚が餌に食い付く状態だろう、後は焦らずじっくり釣り上げるだけだと彼女は考えていた。
『エェ………ワタシ一人ヨ………』
男性はその言葉に胸を撫で下ろした。先程までの緊張から解放されたのか声が弾む、
『ま、待ってろ………今机を退かすから………』
『エェ………待ッテルワ………』
矢上の言葉に安心した男性は机を退け、鍵を解きドアをゆっくり開けた。其処には白衣を羽織り眼鏡を掛け妖艶さを醸し出した女性が立っていた。男性はその妖艶さに下心を瞬時に抱きつつも平静を装い、女性を部屋へと招き入れた。
『あ、あんた白衣なんか着て………此処の人かい?』
男性は矢上の体を上から下に舐める様に見ていた。その視線に矢上も気付きタイトスカートから太ももをちらつかせる様に妖艶な歩き方を敢えて男性に向かってしてみせた。矢上が室内に入ると男性は直ぐ様ドアに鍵を掛けた。振り返ると矢上が品定めをするかの様に男性の周囲をゆっくり歩いていた。男性には誘っている様に見えただろう。期待を抱きつつ矢上を心配する振りをして見せる。
『………あ、あんた………大丈夫なのか?………ずっと此処に?』
男性は生唾を飲み込みながら矢上の全身を食い入る様に眺めていたが、それは矢上も同じであったが、務めて冷静且つ妖艶に振る舞った。
『………エェ………大丈夫………ズット此処二居タワ………』
『そ、そうか………今、外は大変な事になっているからな………お、俺が来たからには………もう大丈夫だよ………』
薄ら笑いを浮かべる男性に矢上はそろそろだと、止めの如く男性に抱き付いた。
『トテモ怖カッタワ………』
抱き付かれた男性はイケると思い矢上を抱き締め返すとにやける様に矢上に語った。
『もう大丈夫だ………俺が来たから………』
抱き締めながら矢上の耳元でそう囁く矢上の眼が獲物の捕獲に成功した様にギラギラとしていた。男性は矢上の体の感触を味わう様にしっかり抱き締めていた。矢上はそんな男性に、
『ソウネ………トテモ有リ難イワ………丁度オ腹ガ空イテタノ………』
矢上は台詞を言い終えた途端更なる力を込めて男性を抱き締めると、背伸びをし、男性の頭に被り着いた。
男性は矢上の台詞に疑問を持ち危ないと目を見開き矢上を振りほどこうとしたが、既に遅く、矢上の顎が頭蓋骨を砕き歯が脳に達した瞬間、男性は動きを止め、矢上は男性を抱き抱えたまま脳ミソを貪っていた。




