第13話
掲載されて消されたりと凹む事はありましたが何とか復活!以後も宜しくお願いいたします☆では続きを☆
電気による明かりが消えた地上三階建ての避難所に指定された場所に田沢や松尾、河野を含む5名が居た。部屋は電気を消しては居たが、外から電柱に備え付けられた街灯の明かりがフラインドの間から射し込んでいた。田沢達は近付きつつある奇声に警戒しながら身を屈め話を続けて居た。
『戻るって言っても、この建物の一階には二人の自衛隊員が見張ってるし、出るのは難しいんじゃないか?』
『その事は今自分も考えてます………しかし抜け出さなければ我々は必ず死ぬ事になります………』
『………じゃあ、もし無事に抜け出せたとして、お宅らの言ってる倉庫に向かうとしてだ………其処に奴等が居たらどうする?』
『………そ、それは………』
『………河野さん………あんたはさっきから否定的な意見ばかり出してくるが………元はと言えば、その薬品の入った容器をこの埋立て地に持ち込んで、この事態を引き起こしたのはあんただ………田沢君は良くやってくれてるよ………しかしあんたはどうだ………さっきから自分で発案すら出さず意見ばかり………』
『………ま、松尾さん………』
『いや、言わせてくれ!私はこの男に対して苛立ちを抑えられない!本来ならば今頃家で晩酌しなからゆっくり過ごしていたものの………』
河野は松尾の言葉に何も言い返す事が出来なかった。松尾の言った事は正論であり、河野が考えていたのは無事な所員の安全と、この事態が収拾した後の己の進退であった。しかし松尾の言葉に核心を突かれた河野は己がどうするべきか迷い攻めあぐねていた。
『………河野さん、建物の横にある車はあなたのですか?』
突然の田沢の言葉に下を向いていた河野は顔を上げる。
『………そうだが………』
『その車使わせて貰えませんか?』
『田沢君………車何てどうする気だい?』
『………万が一の場合はあの車を使って倉庫迄行きましょう………』
松尾は田沢の提案に賛成し河野も賛同した。タイミングを見計らい此処から脱出する事にしたが、田沢は河野の問いに返答できなかった部分が引っ掛かっていた。死者が倉庫の前に居たら、その答えが出ぬままだった。
その間にも死者達の呻き声が近付く、外の様子を覗いていた松尾が言葉を発した。
『誰か逃げてるぞ!』
その言葉に室内に居た者達が外を覗き込む、ネクタイをしたスーツ姿の男性が橋の方に向かっていた。兎に角必死に走っている。男性が自衛隊に向かって叫ぶ
『た、助けて!』
その言葉を遮る様に自衛隊はサーチライトを照らし銃を身構えていた。隊員の一人が拡声器を使い男性を制止しようとしていた。
『止まりなさい………命令に従えない場合、発砲します………止まりなさい!』
その言葉を無視し橋の方へと走る男性の背後から人影と集団の呻き声が着いてきた。上から様子を見ていた田沢達
『な、なんだあの集団は………』
何を叫んでいるのか分からない集団の言葉が聞こえてくる。
『脳ミソ!』 『ブレイン!』
集団の発する言葉に田沢達の背筋に冷たいものが走る。集団で逃げようと徒党を組んだと一瞬思ったが、集団の目的は埋立て地からの脱出ではなく前方を走る男性だった。集団が田沢達のいる建物の前を通過しようとした時、隊員の合図と共に銃撃音が聞こえてきた。
20人近くの死者が銃撃で体を銃弾に撃たれながら倒れていく、その様子を見ていた所員が呟く、
『………本当に撃った………』
田沢と松尾が息をのむ、彼等も先程自衛隊と接触を持ち、その際に松尾の言葉を無視していたら、そう考えると他人事とは思えなかったのだ、所員二人は震えていた。先程松尾の言った事は事実である事を今更ながらに確信したのだろう。
だが、更なる驚愕の事実が次の瞬間彼等は目撃した。銃撃によって撃たれた者達は何事も無かった様に立ち上がり再度男性に向かい襲い掛かる。男性は連続的な銃撃に走る事を止め立ち止まっていた。死者達はそんな男性に容赦なく襲い掛かり男性の頭部にかじりついた。男性は頭部を噛まれた直後抵抗する事もなく彼等の思うままに脳ミソを貪り食われた。
その光景に皆が恐怖した。青木から聞いていたとは言え実際に目撃した田沢と松尾も動揺を隠せずに居た。サーチライトに照らされ辺りの景色もしっかりしており見間違う筈もなく、所員の女性が思わず叫びをあげそうになったが、河野が手でそれを抑えた。
『しー………気付かれれば我々が狙われる………』
河野の言葉に口を塞がれた所員は首を縦に降り叫びたい気持ちを必死で抑えた。男性の脳を喰らい尽くしたのか、死者達の目標が自衛隊に向く、足を撃ち抜かれた死者は先程とは違いふらふらと歩み寄っていく、銃撃の最中死者達の中に何かを投げ込む隊員達、次の瞬間爆発音が鳴り響く、地面に衝撃が走り視界は煙に閉ざされていた。徐々に煙が消え現状が露になる。体がバラバラになった者も数体いたが、河野が驚いたのはバラバラになりながらも部分的に動いていた。それを見ていた田沢が河野に向かって静かに語りかけた。
『………あれは………死人が蘇ったやつですよね………』
河野も気持ち穏やかではなかったが、冷静に返答した。
『………あぁ………多分な………』
その言葉に松尾も口調は静かだったが感情を隠しきれないと言った口調で河野に質問した。
『………あ、あれが全部か?あんたの研究所に居たのは5体だろ!』
河野は返答に困っていたが、考えをまとめ直し松尾の問いに答えた。
『………どう言う経緯かは分かりませんが………彼等も感染している様だ………』
『………感染?どうやって?』
『其処は私にも分かりません………彼等に噛まれたら感染するのか………だが直接ガスを浴びるかしないと………』
『噛むって言ってもやつらは頭部しか狙ってないみたいですよ………』
『私にも詳しい事は分からんよ!ただ………増殖している事と………奴等は容赦なく人を襲う………それだけだ………』
河野の言葉に各々の頭の中を整理するかの様に考え込む、
死者が坊波扉にへばりつこうとしているのを見て所員が呟いた。
『あ、あれを見て下さい………』
その瞬間皆が坊波扉の方を見た。自衛隊は扉から数メートル離れた所に後退していた。次の瞬間坊波扉に死者が触れると、全身を痙攣させるかの様に電流が流れ動きを止めた。数体が同様に身体中に電気が流れる時間にして10秒程度、死者達が扉から手が離れると糸の切れた操り人形の様にその場に倒れ込んだ。体からは煙が立ち焼け焦げる者も中には居た。銃撃でも死ぬ事の無かった死者がそれ以上動く事はなかった。残された死者は警戒しているのか睨み合いが続いたが、しばらくするとその場から去って行った。しかし去って行ったその方向には神谷達の居る倉庫があり、田沢はその事に不安を感じていた。
『銃でも死なないが………電流なら………』
松尾が感慨深そうに言葉を発した。
田沢は考えを纏めていた。
どうやったら感染するかは未だに分からなかったが、死者は銃では殺せない。現に先程の銃撃で数体の死者の頭部に銃弾が命中するのを見たが、それでも倒せなかった事、ただ倒せなくても足止めとしては有効だろう。先程足を撃ち抜かれた死者は足を引き摺り、進行速度が下がっていた。痛覚もあるのだろうと理解出来た。次に多少なりとも知能がある様だった。坊波扉の電流で仲間が動かなくなったのを目撃すると、警戒し近寄る事を断念していた。分かったのはそれ位ではあったが田沢はその事を皆に説明した。
死者の群れが坊波扉の方に向かった頃何とか死者の襲撃を免れた生存者の男性は建物に身を隠しながら安全な場所を探しさ迷っていた。いつ襲われるか分からない恐怖から顔は引き吊り、疲労が判断力を奪っていた。兎に角安全な場所、休める場所をとさ迷い歩き人気の無い建物に辿り着いた。表のガラス張りの扉は閉まっており、建物の周囲を回ると開いていた窓を発見する。何とかよじ登ると其処は何もない閑散とした部屋であった。男性は窓をそっと閉めブラインドを下ろし、部屋の扉をそっと開く、其処には大きな部屋があった、理科室の様な備え付けられた大きなテーブルと数ヶ所に洗面台、がそれ以外には何も物がなかった。男性は耳を澄まし物音に耳を立てたが何も聞こえず、取り合えず侵入して来た小部屋に戻るとドアに鍵を掛け、使い古された机をドアの前に移動させると、腰を下ろし休憩を取った。不安と恐怖から持っていた鉄パイプを強く握りしめ押し潰されそうな自分に耐えていた。
男性が休んでいる部屋の先には焼却炉の設置された部屋があった。そう此処はこの事態を引き起こす原因となった研究所、焼却炉の部屋には矢上達4名が倒れていたが、容態が変化を始めていた。体中に激痛が走り苦しみ宣う者、矢上に至っては体を痙攣させながら白目を剥き、ヨダレを垂らしていた。痙攣の感覚が徐々に早まって行く、一瞬海老反りになったと思うと、痙攣が止まった。矢上は意識を取り戻したのか閉じていた目を大きく開けると先程の迄の容態が嘘の様に上体を起こした。彼女は口元から垂れる唾液を拭うとにやけていた。顔色は真っ青を通り越し、生気すら失った色をしていた。他の者も時間差はあったが、痙攣を終えると矢上同様に起き上がりゆっくりと立ち上がる。四人は顔を見合わせると誰からでも無く一斉に言葉を発した。
『………脳ミソ………』
いよいよ彼等も死者の仲間入りをしてしまった。誰に教わるでも無く脳ミソを体が求めているのだろうか、ゆっくり部屋を後にし、近くの扉から三人が出ていくが、矢上は違った。鼻をひくつかせ所内の方に向かって行った。そう男性が隠れている部屋へと一歩ずつゆっくりと歩を進めて行った。




